夏休み
夏休み初日、午前中。一年A組の教室。
「もしかして、残ったのって僕たち二人だけですかね?」
「さぁ」
朝は寝坊をし、一人で朝食を食べ、なんとなくで一年A組の教室まで来たのだが……。
教室に居たのはメリーだけ。
いつもの場所に座り、何か本を読んでいた。
「まぁでも、夏休みですしわざわざ教室には来ないのでしょうか」
「来る理由は無いわね」
メリーが言う。
流石に長期休みともなれば教室に来ず自室でだらだらするか。普通の休みなら何人か教室に集まっているが……僕もなんとなく来ただけだしな。
まぁ、メリーと二人っきりなら本望だ。
その時、教室のドアが開いた。
姿を現したのはナヅ先生。
「おーお前ら、わざわざ教室来てんのか。律儀だな」
ナヅ先生がぼりぼりと頭を掻きながら教室に顔だけ覗かせる。
「ナヅ先生。学校に残ったのって僕たちだけですかね?」
僕が一応聞いてみる。多分知らないだろうけど。
「長期休みは普通家に帰るからな。逆になんで残ってんだ?」
先生が面倒くさそうな顔で僕たちを見る。
夏休みに残った生徒の監督は担任の先生がするだろうからな……面倒事が嫌いなナヅ先生が嫌がるのも無理はない。
「僕は家が遠いので」
「帰る理由がありません」
僕たちが答える。
「まぁメリーはそうだろーな。ヒューマも……スノーベルとか聞いたことねぇし、田舎の方なのか?」
「そうですね。かなり遠くの寒い地方です」
僕の実家は本当に遠い田舎も田舎だ。居心地は良いけど、帰るにはあまりにも遠い。
「そっかー。まぁ、お前ら夏休みだからって羽伸ばしすぎんなよ。ダリィ奴らが飛んでくるからな」
先生が僕たちを軽くたしなめる。
まぁ、羽を伸ばす気はないが……ダリィ奴?
一体誰だろうか。夏休みのイベントで何かあったか?
「それって誰ですか?」
「夏休みはなー、なんでか毎年とある集団が……」
先生が何かを言いかけた時、
「ナヅ先生!!おはようございます!!」
廊下から大きな声がした。
「わっ」
「お、おう。おはよう……」
ナヅ先生は少しびっくりした顔で言う。
僕もビビって声が出てしまった。恥ずかしい。デカい声だな。
「自身の担任する教室に来るとは、やはり夏休みは寂しいのですかね!?いつもより教室が広く見えるでしょう!?私も寂しい思いでいっぱいですよ!」
「あぁ、うん、まぁ……」
ナヅ先生が歯切れ悪そうに言う。多分、この声の主のことが苦手なのだろう。
その時、声の主がドアを開けた。
姿を現したのは、学生をきっちりと着こなした背の高い男。
髪型や立ち振る舞いもどことなく真面目そうな雰囲気が漂っている。
「なんと!休みだというのに教室に集うとは……お前たち!殊勝な心掛けだな!」
男が相変わらずの大声で言う。
「えっと、貴方は……」
僕が控えめに聞く。
声が大きくて、若干怖いな。
「あぁ、失礼!名乗り遅れた!私は三年A組のスフィレ・ドロと言う!入学式の時に生徒会長として挨拶した男が居ただろう?あいつだ!」
男……スフィレが言う。
あー、居たような気がするかもな。多分居たわ、うん。
入学式はメリーの首席挨拶以外興味なかったからあんまり印象がない。
しかし、生徒会か。あんまりこの学園で生徒会のイメージはないが……まぁ、普通に学園生活を送っていたらお世話になることはないか。
生徒会かぁ……何か聞き覚えがある気がする。誰かが生徒会に関係があった気が……誰だったか。
「よっす~。ヒューマにメリー。二人だけか」
ドアからひょこっと顔を出したのはコット。
「おはようございます、コットさん」
そうそう、コットだ。コットは生徒会に所属してるんだったな。漫画で見たぞ。
「ちょうどいいわ、お二人さん。できれば助けてくれないか?」
コットが縋るような眼で僕たちを見る。
助ける?助けるっていったい……
コットの横に居るのは、生徒会長のスフィレ。
確かにコットはこういうの嫌いそうだな……。
「俺は本当はこんな見回りなんて……」
「さぁ、次へ向かうぞコットくん!治安維持が私たちの役目だ!」
コットが何か言いかけた時、その首根っこをスフィレに掴まれる。
「失礼した!良き夏休みを!」
「頼む!ヒューマ!助け……」
バタン
ドアが閉まった。
「……まぁ、こーゆーことだ。生徒数が少なくなって、今なら学園をコントロールできると踏んで生徒会が跋扈してる。気をつけろよ、お前ら」
なるほどね、そういう……。
でも治安維持とかしてくれるなら僕たち生徒の味方と見ていいだろうな。変な気を起こすつもりはないし。
ただでさえ治安が良く、見回りの教員も居る学園だ。そこに生徒会まで加わるとなると……まぁ、過剰ではあるが、治安が良いに越したことはない。
「そうだ、あとお前ら。暇ならサークル来いよ。サーシアが泣きながら待ってるぜ」
ナヅ先生はそう言い、教室をあとにする。
「サークル……そういえば最近行ってなかったですね。メリーさんはちゃんと行ってました?」
「えぇ。当然」
そっか。そういえば、魔法祭でも最後は魔力コントロールでフェトムを倒していたな。相当鍛錬を積んだのだろう。
僕は魔法祭の特訓で行かなくなったっきりか……学園祭が終わってからは体と心の疲れで授業以外はずっと寝ていたしな。
「サークル、行きますか」
「そうですわね」
メリーが同意する。
僕たちは、サークル室へ向かうこととした。
「ヒューマくん!!今までどこ行ってたんでありますかああああ!!!」
サークル室に入った瞬間、号泣したサーシアが僕の肩を掴む。
「もうてっきり、魔法が楽しくなくなったのかって心配で心配で!!私はもう!!」
そして、泣き喚きながら僕の肩を揺らす。
「いやいや、そんなことないですよ。忙しかっただけです。魔法創造楽しいですし」
「あぁぁぁぁよかったぁぁぁぁぁ!!!」
サーシアは泣いたままその場に崩れ落ちる。
「メリーちゃんもひどいんでありますよ!”関係ない”の一点張りで……」
「実際関係ないので」
「これなのであります~~!!」
サーシアはメリーを指さし地面をバンバン叩く。
まぁ、メリーがそういう態度をとるのは容易に想像ができるな……。
サーシアのこの態度から察するに、何回も聞いたうえで全部同じ対応をされていそうである。
「とりあえず、良かったであります!また三人で集まれて!」
サーシアが立ち上がる。
「今年の夏は楽しくなりそうですぞ~!」
そして、涙に目元を赤くしたまま嬉しそうにそう言った。
「ところで、夏休みはなにか特別な行事はありますの?長期休みとなればサークルに居る時間は多そうですが」
メリーがサーシアに聞く。
「ふっふっふ~!当然、あるであります!」
サーシアは自慢げにそう言うと奥からホワイトボードを持ってきて、それを裏返す。
「今年の夏は、”作ろう、オリジナル魔法!”のプロジェクトを実行するでありますぞ!!」
ホワイトボードにでかでかと書いてあったのは、”オリジナル魔法”の文字。
「オリジナル魔法か……」
かなり難易度高そう……というか、既存の物に寄りそうで怖いな。
「そうであります!攻撃魔法でも防御魔法でも生活魔法でも、クッソ地味な魔法でも可!とりあえず、独創性に溢れた素敵な魔法を創ろうというプロジェクトであります!」
サーシアが言う。
独創性か……確かに魔法は多種多様だが、かゆいところだけにピンポイントで手が届くような魔法とかも面白そうな気はする。
それだけじゃなく、独自の攻撃魔法なども面白そうだな。
「ついでに、私の自費でサークル合宿もあるのでありますぞ~!どこに行くかはヒミツですありますが~」
にやにやと笑うサーシア。恐らくだが、随分と綿密に計画を練ったのであろう。その自信の程が伺える。
サークル合宿……そんなものもあるのか。
遠くの地方に行くことはなかったからな……楽しみだ。
「お前らやってっかー」
その時、ナヅ先生がサークル室に入ってくる。
「ナヅ先生!先生も作りましょうぞ!オリジナル魔法!」
サーシアがナヅ先生に飛びつき、抱き着く。
「オリジナルゥ?私も忙しいんだが……」
そう言いつつ適当な椅子に座るナヅ先生。
本当に忙しいんだろうな?この先生は。サボりに来たのか?
夏休み。
本来はメリーが闇落ちするだけの装置だったそれは、平穏なスタートを切り出した。
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