竜の血を引く転生者、封印戦争の続きを始める
夜の山は、音が少ない。
だから、ひとつの異音がよく目立つ。
ごう、と低い振動が、石の奥から響いていた。
「……鳴ってる」
俺は足を止めた。
護衛の仕事帰りに通るだけの、古い遺跡の入口。人が寄りつかない場所だ。なのに今日は、胸の奥が妙に熱い。
石碑が見えた。苔に覆われ、文字は読めない。
それでも分かる。封印だ。
百年前、封印戦争で“裂け目”を閉じた。
そう語り部は言う。酒場でも、神殿でも、同じ話をする。終わった戦争。昔話。子どもに聞かせる寝物語。
なのに。
石碑の中心に、細い亀裂が走っていた。
亀裂の奥から、黒い靄が滲む。煙みたいに薄いのに、見ているだけで息が浅くなる。
俺が一歩近づいた瞬間、胸の熱が跳ね上がった。
皮膚の下で火が走ったみたいに、血が騒ぐ。
「……っ」
触れるつもりはなかった。
なのに指が伸びる。
亀裂に指先が触れた、その瞬間。
ざり、と乾いた感触がした。
灰だ。指先に、黒い灰がべったりつく。
そして。
「続けろ」
声がした。耳ではなく、頭の奥で。
甘くも冷たくもない。ただの命令みたいな声。
背中が冷えた。
次の瞬間、矢が飛んだ。
風を裂く音。
俺は反射で身を捻り、矢は頬をかすめて石に刺さった。
「誰だ!」
森の影から黒装束が三人。顔は布で隠れている。
こいつら、最初から俺を狙ってた。
剣を抜く。
刃が月光を拾った、その時。
胸の熱がさらに上がった。
視界が冴える。
相手の呼吸が読める。足音の位置がはっきりする。
腕に、ざら、と違和感。
薄い鱗が一瞬浮いたのが分かった。
「……ちっ」
俺は踏み込んだ。
身体が軽い。いつもの俺じゃない速度で、剣が相手の刃を弾く。
一本、二本。
襲撃者の武器が落ちる。
残った一人が距離を取ろうとした。
俺は息を吸い、吐いた。
炎が、ほんの少し漏れた。
火球じゃない。息に混じる熱だけ。それでも相手は顔を覆って後退した。
そして三人は、森へ消えた。
勝った。
……いや、逃げた。
俺は剣を下ろし、手の甲を見る。
黒い灰が残っている。払っても落ちない。
胸の熱も、引かない。
石碑の亀裂が、また鳴った。
「続けろ」
さっきより近い。
俺は唾を飲み込み、遺跡から離れた。
帰る。関わるな。
理性がそう言う。
でも指先の灰が、俺に言っていた。
もう、関わった。
⸻
翌朝。山の麓の町は、いつも通りの顔をしていた。
市場の呼び声。パンの匂い。
子どもが走り、犬が吠え、井戸の周りで女たちが笑う。
平和だ。
けれど、少しだけ“ずれ”がある。
すれ違った男の目の下に濃い影。
店の娘が空を見て肩をすくめる。
「最近、夜が嫌なんだよね。夢が変で」
「悪夢?」
「うん。壁から影が伸びてくる感じ。起きても手が冷たいままなの」
笑ってごまかしているのに、目は本気で怖がっていた。
俺は手の甲を握りしめた。
黒い灰は、まだ消えない。
封印の“鳴り”は、もう町にも届き始めている。
「……関わるな」
俺は小さく呟いた。
護衛の仕事を続けていればいい。面倒事に近づくほど、命の値段が軽くなる。
それなのに、胸の奥の熱が、じわじわと背中を押してくる。
熱い。
嫌な熱じゃない。放っておけば、どこかが壊れると知らせる熱だ。
俺は神殿へ向かった。
⸻
石段を上がり、白い柱の間を抜ける。
祈りの声が小さく響く中、俺は祭具室の前で足を止めた。
扉の向こうから紙をめくる音。
それから、短い咳。
俺が叩く前に、向こうが開いた。
出てきたのは若い司祭だった。女。
髪は後ろでまとめている。目は眠れていない人のそれだ。
彼女は俺を見るなり、眉を動かした。
「……あなた。昨夜、山へ行った?」
「見張られてたのか?」
「違う。封印が騒いだの。神殿の記録棚が、同じ時間に一斉に震えた」
彼女の視線が、俺の手に落ちる。
黒い灰を見た瞬間、顔色が変わった。
「触ったのね」
「触るつもりはなかった」
「言い訳は後でいい。……その灰は“封印に触れた印”よ。消えない」
司祭は深く息を吸い、名を名乗った。
「リラ。封印管理の担当」
「カイルだ」
リラは俺の腕を掴み、半ば引きずるように祭具室へ入れた。
机の上には古い巻物と、欠けた輪が並んでいる。
輪は三つに割れた形だ。
今あるのは二つだけ。
「これが封印環。封印を繋ぎ直すための輪」
「繋ぎ直す?」
「封印は石じゃない。放っておけば薄くなる。血と誓いで維持する仕組み。つまり、手をかけ続けないとほどける」
胸の熱が、言葉に反応する。
「百年前に終わったんじゃないのか」
「戦争は終わった。裂け目は閉じた。……でも、閉じた後の仕事がある」
リラは目を伏せた。
「続ける仕事が」
俺の頭の奥で、あの声が囁いた気がした。
「続けろ」
俺は拳を握った。
「昨夜、襲われた。三人だ」
リラの表情が固まる。
「黒装束?」
「ああ」
「灰の徒党よ。封印を壊そうとしてる連中。封印の向こうの力を欲しがってる」
リラは机の端を叩いた。乾いた音。
疲れているのに、止まれない人の動きだ。
「封印が崩れれば、裂け目が開く。封印戦争の続きを、今度はあなたたちが生きてる時代でやることになる」
俺は笑えなかった。
「俺に何をしろって」
リラは俺の目を見た。眠れていないのに、強い目だった。
「三つ目の封印環を取り戻す。それから、残りの二つも安全な場所へ運ぶ。更新の準備をする」
「……俺が?」
「あなたが触れたから。封印に触れた者は、封印の“道”が見えることがある」
リラは言い淀んだ。けれど逃げずに言う。
「それに……あなた、竜の血を引いてる?」
胸の熱が答えになっていた。
俺は小さく頷いた。
リラが目を閉じ、短く祈るように言った。
「……やっぱり。竜血は封印に一番相性がいい」
「相性がいいって」
「封印戦争で最後まで残ったのは竜血の一族だって記録がある。封印を守り続ける役目を引き受けた」
俺の背中がぞわりとした。
前の世界の記憶がある。だから俺は転生者だ。
でも、この世界の俺にも、背負っているものがある。血と、役目と、戦争の続き。
リラは封印環の欠片を布で包み、俺に差し出した。
「行くわよ、カイル」
「俺が断ったら?」
「止められない。誰かがやる。……私ひとりじゃ足りない」
彼女の声が、少しだけ揺れた。
「怖いの」
その一言が、胸に刺さった。
俺は言った。
「分かった」
理性はまだ反対していた。
でも指先の灰は消えない。胸の熱も消えない。
俺はもう、戻れない場所に足を踏み入れている。
⸻
その夜、町外れの林で灯りが揺れていた。
リラが囁く。
「儀式の気配。灰の徒党が動いてる」
俺たちは草むらに身を伏せ、木々の隙間から覗いた。
黒装束が円を描き、中心に石皿。
石皿には灰が盛られ、そこから黒い靄が立ち上っている。
その前に立つ男。
背が高く、肩幅が広い。顔は隠していない。目が冷たい。
「ガルム……」
リラが名前を吐き出す。
男は声を張った。
「封印は鎖だ。弱い者を守る鎖だ。だが鎖は、強い者の足も縛る」
黒装束たちが低くうなずく。
「封印の向こうには力がある。奪われた時代がある。なら、取り返す」
石皿の灰が、ざり、と動いた。
そして。
「解放しろ」
囁きが、耳の奥に滑り込む。
甘く、嫌な言い方で。
胸の熱が騒いだ。怒りに近い騒ぎ方。
リラが前に出ようとする。
「やめなさい!」
声が響いた瞬間、黒装束が一斉に振り向いた。
待っていたみたいに。
「来たか、神殿の犬」
ガルムが笑う。薄い笑いだ。
「封印を守って何になる。民は苦しいままだ。力があれば変えられる」
「力で変えたものは、力で壊れる」
リラが言い返す。
ガルムは肩をすくめた。
「それでも、手に入れたい者はいる」
黒装束がリラに飛びかかった。
「リラ!」
俺は飛び出した。
剣を抜く。
同時に胸の熱が上がる。
腕に鱗が浮く。
視界が鋭くなる。
俺は黒装束の腕を斬り払ってリラを引き寄せた。
もう一人の刃を弾く。
その瞬間、息が漏れた。
熱が混じる。炎が小さく舌を出し、相手の布を焦がした。
「……竜血か」
ガルムが目を細める。
「いい。実にいい。封印を壊す鍵が向こうから来た」
リラが俺の腕を掴んだ。
「下がって。今は目的じゃない」
「目的?」
「封印環よ。儀式を止めるより、更新の準備が先」
リラは震えを押し殺した声で言った。
「あなたが鍵になれる。だから、死なないで」
黒装束の数が多い。
ここで無理をすれば倒れるのは俺たちだ。
俺は舌打ちし、リラを庇う形で後退した。
逃げる。悔しいが、逃げる。
闇に紛れて林を抜ける背後で、ガルムの声が追う。
「封印の続きを始めたければ来い! 世界は、閉じたままじゃ腐る!」
リラが走りながら吐き捨てた。
「腐るのは、欲のほうよ……!」
俺は手の甲の灰を握りしめた。
あいつは封印を壊す。
それが分かった。
そして俺たちは、封印を“続ける”側になる。
⸻
第一の封印環は、遺跡の地下水路にあるとリラは言った。
「封印環は人目につかない場所に分けて隠された。更新のためにね。戦争が終わった後も、守り続けるために」
地下水路は冷たかった。
石段を下りると湿った空気が肌にまとわりつく。
暗い水面に、淡く光る輪が沈んでいる。
「……あれか」
俺が一歩近づいた瞬間、胸の熱が暴れた。
視界が揺れる。
水面が鏡になり、知らない景色が映る。
火。
叫び。
巨体の影が空を覆う。
戦争だ。封印戦争の光景。
俺は歯を食いしばった。
これは前の世界の記憶じゃない。なのに、身体が覚えている。
「カイル、戻って!」
リラの声が遠い。
俺は膝をつきそうになりながら手を水に入れた。冷たさで指が痛い。
輪を掴む。石より重い。
引き上げた瞬間、腕に熱が走った。
皮膚の下で何かが動き、鱗が薄く浮いて……そのまま残った。
「……っ」
リラが近づき、包帯を巻く。
「使うたびに、あなたは竜に近づく」
「戻れないのか」
「戻れるかどうかは、誰にも分からない。でも、封印はそれだけ重い」
俺は輪を握りしめた。冷たいのに、胸は熱い。
「続ける」
リラが小さく頷いた。
⸻
第二の封印環は、朽ちた戦場跡にあった。
丘を越えると、石の槍が並ぶ場所が見えた。
折れた旗の杆。崩れた塹壕。草が伸びているのに、空気が重い。
「ここが……」
リラが目を伏せる。
「封印戦争で、一番人が死んだ場所。封印を閉じるために、時間を稼いだ」
碑があった。
名前が刻まれている。擦れて読めないのに、数だけは分かる。多すぎる。
碑の根元を掘ると石箱が出た。
中に、封印環の欠片。
俺が触れた瞬間、また記憶が流れ込んだ。
背中に、誰かの体温。
小さな体。泣いている。
俺は走っている。燃える地面を、必死で。
「……誰だ」
声が漏れた。
前の世界じゃない。
でも確かに俺の足で走っている。
俺は息を荒くし、碑に手をついた。
リラが静かに言う。
「竜血の一族は、封印戦争で最後まで残った。封印を更新し続ける役目を引き受けた」
俺は封印環を見た。
「俺は……呼ばれたのか」
「偶然じゃないと思う」
リラの声は優しかった。
優しさの中に、現実がある。
「あなたが鍵になれる。だから、逃げないでほしい」
逃げたい気持ちは、確かにある。
でも背中の記憶が言っていた。逃げた先で、また誰かが泣く。
それが嫌だった。
「逃げない」
リラは少しだけ肩の力を抜いた。
「ありがとう」
その言葉が、思った以上に重かった。
⸻
三つ目の封印環は最深部にある。
封印の間へ向かう途中、俺たちは待ち伏せを受けた。
霧が濃い谷。
石の道が細く、左右は崖。
黒装束が現れる。数は多い。
そして前に立つ男。
「久しぶりだな、竜血」
ガルムだ。
手には三つ目の封印環。
「それを返せ」
リラが叫ぶ。
「返す? いいや。完成させる。封印を壊すために」
ガルムが封印環を掲げた瞬間、谷の空気が重くなる。
遠くの山から黒い靄が伸びてくる。裂け目が広がっている。
間に合わないと分かった。
俺は剣を構えた。
胸の熱が上がる。
でも今日は、熱が重い。
竜化の反動が溜まっている。足が一瞬、もつれた。
リラが俺の腕を掴む。
「追うのよ、カイル!」
「倒すんじゃなくて?」
「倒すためじゃない。封印を更新するために追うの。目的を間違えないで」
ガルムが笑う。
「来い。続きが見たいんだろう?」
挑発に胸が反応する。
でもリラの言葉が俺を引き戻した。
勝つためじゃない。繋ぐためだ。
「行くぞ」
俺たちは走った。
⸻
封印の間は、山の腹の中にあった。
巨大な石環が床に埋まり、中央に石碑。亀裂が走り、黒い靄が渦を巻いている。
ガルムが石環の前に立った。
「見ろ。世界はまだ眠っている。起こしてやる」
囁きが広がる。
「解放しろ」
嫌な甘さの声。
手に入れろ。奪え。戻せ。
黒装束が周囲に円を作り、儀式を始めた。
ガルムは三つ目の封印環を石環に嵌める。
かちり、と音。
石環が、僅かに回った。
「やめて!」
リラが詠唱を始める。
封印を閉じる言葉。更新の言葉。
だが空気が重すぎる。言葉が弾かれる。
「媒体が足りない……!」
リラが歯を食いしばる。
「血が必要。竜血が……!」
俺は一瞬、迷った。
血を流せば、竜化が進む。
戻れないかもしれない。
でも、ここで迷えば裂け目が開く。
町の悪夢が現実になる。人が死ぬ。
俺は剣を握り直し、刃をひっくり返した。
自分の掌を切る。
熱い。痛みより熱が先に来た。
滴った血が石環に落ちる。
じゅっ、と音。
血が光る。赤じゃない。金に近い光だ。
胸の熱が爆発した。
背中が熱い。
肩甲骨の辺りが裂けるみたいに痛い。
翼の輪郭が、一瞬だけ影になる。竜の翼の形。
「……なんだ、それ」
ガルムが目を見開く。
「竜血が……封印を選ぶだと?」
俺は息を吐いた。
炎が漏れそうになるのを、歯を食いしばって抑える。
「リラ、続けろ!」
「……分かった!」
リラの詠唱が、今度は石環に吸い込まれていく。
ガルムが焦り、剣を抜いて突っ込んできた。
「邪魔をするな!」
俺は受ける。
正面から勝てない。体が重い。血が熱い。
ガルムの剣が肩を裂いた。
痛みが遅れてくる。
それでも俺は下がらない。
俺の役目は、ガルムを倒すことじゃない。
儀式を上書きすることだ。
俺は石環の中心に立ち、血の流れを止めず、声を出した。
「終わらせたつもりで、手を離した。……今度は離さない」
囁きが唸る。
「やめろ」
「続けろ」
ふたつの声が頭の中でぶつかった。
俺は選ぶ。
「続ける。守るために続ける」
リラの詠唱が最後の言葉に辿り着いた。
「封を結ぶ。輪を繋ぐ。血と誓いを、ここに戻す!」
石環が回った。
今度は、閉じる方向へ。
黒い靄が引きずられるように亀裂へ戻っていく。
空気が軽くなる。呼吸ができる。
ガルムが叫ぶ。
「やめろ! 力は……!」
黒装束の円が崩れた。儀式が乱れる。
囁きが最後に言う。
「続ける者がいる限り、戦争は終わらない」
俺は血まみれの掌を石環に押しつけたまま、言い返した。
「なら、終わらせるんじゃない。続けて守る」
石環が、かちり、と止まった。
黒い靄が消える。
亀裂が閉じ、石碑は静かになった。
世界が、息を吐いたみたいだった。
⸻
俺はその場に膝をついた。
血が抜けて、熱が抜けて、力が抜ける。
倒れる寸前、リラが抱き止めた。
「カイル!」
「……生きてる」
声がかすれる。
笑ったつもりが、変な顔になった気がした。
リラが眉をひそめる。
「そんな顔で言わないで。心臓が止まるかと思った」
「止まらない。……止めない」
「言い直すの、偉い」
怒ってるのに、少しだけ柔らかい声。
俺は腕を見る。
鱗が薄く残っている。剥がれない。
リラが静かに言った。
「あなたはもう、普通には戻れないかもしれない」
「普通に戻るために来たんじゃない」
俺が言うと、リラは一瞬だけ目を丸くして、息を吐いた。
「……変な人」
「褒めてる?」
「褒めてない」
でも、その否定は優しかった。
封印の間の空気は、さっきまでの重さが嘘みたいに軽い。
外から風が入り、冷たいのに気持ちよかった。
山を下りる途中、町の灯りが見えた。
いつも通りの灯り。
それが、すごく大事なものに見えた。
「町の悪夢は収まる?」
俺が聞くと、リラは頷いた。
「少なくとも、影が現実になるのは止まる。封印が安定したから」
「……良かった」
胸の奥の熱が、まだ微かに残っているのを感じた。
終わってない。完全に終わる話じゃない。
封印石碑の前に立ち、俺は剣を地面に立てた。
風が髪を揺らし、鱗の残った腕に冷たさが触れる。
俺は石碑に向かって言う。
「封印戦争の続きを始める。俺が見ている限りは」
リラが隣に立った。
「ひとりで背負う気?」
「背負い方は、覚え直す」
「じゃあ、私も続ける。封印管理は途中で投げたら、もっと酷いことになる」
淡々とした言葉の奥に、覚悟があった。
俺は頷く。
「次は、いつ更新だ」
「まずは記録を整える。次に見回りの順路を作る。それから……封印環の保管場所も考える」
「うん」
やることがある。
続けることがある。
それは、戦争の続きを“始める”ということだ。
剣を振るだけじゃない。勝利の後も、手をかけ続けるということ。
封印は鳴らない。
代わりに、風の音がした。
俺は息を吸った。
冷たい空気が肺に入って、ちゃんと生きていると分かった。
戦争は終わりじゃなく、見張りに名前がついただけだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この物語は「大きな勝利の後にも、守る戦いは続く」という王道を、短編の熱量で描きたくて書きました。
カイルは英雄ではありません。正面から勝てる強さも、派手な奇跡も持っていない。けれど“勝ち方”を選べる人です。倒すためではなく、繋ぐために前へ出る。そこに、騎士の名前より重い誓いがあると思っています。
そして竜の血は、力のご褒美ではなく「代償のある鍵」として置きました。
鱗が残るのは、勝った証じゃなく、続ける証。
封印が鳴らなくなった夜ほど、次の見回りが始まる。そんな余韻で締めています。
もしこの先を想像してくださったなら、カイルとリラはもう“戦争”を探しに行くのではなく、“明日”を守るための段取りを積み重ねていくはずです。
その静かな熱が、少しでも胸に残っていたら嬉しいです。




