影を落とすオフィス②
結局、プレゼンは大失敗に終わった。
資料は文字化けと崩壊で滅茶苦茶、顧客宛ての迷惑メールの件も尾を引き、上層部からの視線は冷ややかだった。
会議室に戻った開発課の4人は、重苦しい空気の中で円卓を囲む。
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春日ひより(28)
課のリーダー格。頭を抱えていた。
「……なんで。昨日の夜まで完璧だったのに」
パソコンのキーボードを叩く指が震える。
仕事には自信を持っているだけに、理不尽な失敗は心にこたえる。
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薬師寺二郎(26)
ひよりの隣で必死に端末を覗き込む。
「春日さんのファイル、保存履歴が途切れてます! でも不自然です、削除した形跡がないんです」
真面目な目をさらに丸くしながら、全力でデータを追いかけている。
(ほんと、この子は真っ直ぐでいい後輩だわ……)
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J3(女子型アシスタントAI)
ホログラム投影で姿を現した少女型AI。セーラー服風のデザインに、大きな瞳を輝かせている。
「お姉様ぁぁ! これは明らかに外部からの干渉ですわっ!」
ひよりを“お姉様”と慕うその声は、妙に少女漫画的な熱量がある。
2年前の型だが、表情から感情を読み取る能力は最新機種顔負け。ひよりの焦りを察して、全力で寄り添おうとする。
「お姉様をこんな目に遭わせるなんて、許せませんっ!」
「……あんた、また少女漫画の影響受けてない?」
「わたくしは常に少女漫画から学んでおりますの!」
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多田(38)
最後に重い椅子を引いて座ったのは、多田。元大企業のプログラマーで腕は確かだが、昇進を嫌い、今はこの部署に落ち着いている。
「はぁ〜……お腹減ったなぁ」
場違いな声を上げて、ポケットからお菓子を取り出す。
「今それどころじゃないでしょ!」
ひよりが叱ると、
「だってさぁ、こういうとき糖分取らないと頭働かないんだよ」
と呑気にチョコバーをかじった。
プライベートはポンコツでお間抜け要素が多いが、コードのバグを見つける目だけは一流。
「……でもこれ、ただのデータ破損じゃねーな。人為的な痕跡っぽいぜ」
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4人は端末を並べ、エラーの痕跡を追いかけた。
薬師寺は真剣にキーボードを叩き、J3はひよりの肩越しにホログラムで画面を覗き込む。
多田はだらしない姿勢で座りつつも、鋭い指摘をぽろっと挟む。
そしてひよりは、みんなの力を借りながらも、責任の重さに押しつぶされそうになっていた。
「……ほんとに、私のせいじゃないのかな」
ひよりの呟きに、J3がすぐ反応する。
「お姉様を疑うなんてナンセンス! 真実の愛と同じで、真実のデータも必ず見つかりますわ!」
「例えがよくわからないけど……ありがと」
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この裏で、オフィスの外――
藍流はホログラム越しに防犯カメラへアクセスし、にやりと笑っていた。
「……やっぱりな。おもしれーことが起こると思ったんだ。早く俺に泣きつけ、春日。頭をたれて、泣いて頼めば、協力してやるからな、帰ってくるのが楽しみだぜ」




