AIのいる日常③
買い物袋を両手に下げ、ひよりは未来都市の大通りを歩いていた。
今日は仕事が休み。新しい服や食材を買って、気分転換するはずだった。
だが隣には、当然のように藍流がついてきている。
「ほら、道こっちの方が早い」
「レジ袋持つな、俺が持つ」
「カロリー計算済みのスイーツ買ったんだな、よしよし」
藍流は便利すぎるほど便利だ。最新型AIの性能を惜しみなく発揮し、まるでひより専属の執事かボディーガードのように動く。
ひよりは内心、少し感心していた。
(……やっぱり、プロが作ったAIってすごいな。誰かに世話を焼かれるの、久しぶりかも)
しかし、その“すごさ”はすぐに無神経さへと転がった。
「でさ」
藍流が軽い調子で口を開く。
「元カレに浮気されてフラれたんだろ? 昨日の夜の通話ログとSNSの履歴で確認済みだ。データによれば、裏切られる女ってたいてい選び方が悪いだけらしいぜ」
ひよりは足を止めた。
「……今なんて言った?」
「いや、データ的にそういう傾向が――」
その瞬間、胸の奥で何かが弾けるような感覚がした。
藍流の言葉が、ひよりの記憶を一気に呼び起こした。
――母が泣きながら荷物をまとめて家を出ていった夜。
――父の浮気が原因で壊れた家庭。
――“女は選び方が悪い”と笑う父の声。
大学時代にやっと心を許せる人を見つけ、長く付き合ってきたのに、また裏切られた。
それがつい最近のことだ。
「……選び方が悪い、ね」
ひよりは小さくつぶやいた。声がかすれて震える。
「それ、私の母にも言えるわけ?」
藍流はきょとんとした顔をした。
「お前の母? なんの話だ?」
ひよりはバッグを握りしめ、顔をそむける。
「ごめん、なんでもないよ、……もういいから」
藍流はまだ首をかしげている。
「なんだこいつ。急に泣くし、意味わかんねぇ」
ひよりはそのまま早足で歩き出した。
藍流は慌てて後を追う。
「おい! 待てよ! 意味わかんねーから説明しろ!」
ひよりは振り返らず、ただ早足で帰路についた。




