AIのいる日常②
今日は仕事が休みだ。
久々に一人で買い物でも行こうと、ひよりは朝からメイクを整え、未来的なショッピングモールへ向かう支度をしていた。
藍流のことは……まぁ、そのうち削除するか、くらいに思っていた。
バッグを肩にかけ、玄関のロックを解除しようとしたとき、背後から声がした。
「んで、どこ行くんだ?」
ひよりは振り返り、眉をひそめる。
「なんで勝手についてきてんのよ!」
藍流は胸を張り、あっけらかんと笑った。
「一人じゃつまんねーだろが! 俺が盛り上げてやる!」
「盛り上げなくていいの。ていうか勝手に外出するなって昨夜言ったじゃん」
「俺は“持ち主の安全を守る”機能もある。これは仕事だ」
「便利な屁理屈ね……」
結局、ひよりは藍流を連れてモールへ向かった。
ショッピング中、藍流は驚くほど役に立った。
「そこの店、今クーポン発行中だぞ」
「カロリー計算済みのランチはあっちのカフェだ」
「その服、試着しなくてもサイズぴったりってデータが出てる」
まるで未来型コンシェルジュだ。ひよりは内心、少し感心していた。
(……なんだかんだ言って、やっぱりプロが作ったAIって便利だな)
しかし、藍流の口は余計なことまで計算する。
「ところで、なんでそんなに化粧濃いんだ? モテない女ほど必死って統計出てるぞ」
ひよりは足を止めた。
「……は?」
藍流は悪気のない顔で、データをスクロールして見せる。
「ほら、未来都市の恋愛傾向レポート。メイク時間と交際率の相関グラフ」
「うっさいわね!」
ひよりはバッグで藍流の腕を軽く叩いた。
「せっかく便利かと思ったら、これだもん……やっぱりだめだこいつ」
藍流は首をかしげる。
「なに怒ってんだ? 統計的事実だぞ?」
「人の気持ちがわかんないでデータだけ言うの、ほんっとやめて」
ひよりは呆れたようにため息をつき、歩き出した。
藍流は後ろをついてきながら、ぽつりとつぶやいた。
「……気持ち、か……」
その声には、ほんのわずかだけ、昨日より柔らかい響きが混じっていた。




