AIのいる日常
翌朝。
ひよりは寝ぼけた頭でキッチンに立っていた。昨夜の出来事が夢だったらよかったのに……と思いながら、味噌汁を温める。
ふとリビングに視線をやると、例の俺様AIがソファに寝そべっていた。未来的なスーツ姿のまま、まるで自分の家のようにくつろいでいる。
「おい、腹減った」
「AIが腹減ったって言うな」
ひよりはため息をつきつつ、ふと思いついた。
「そうだ、あんた名前ないよね。呼びづらいし」
「別に“俺様”でいいだろ」
「そんな名前で呼ぶ女どこにいるのよ」
ひよりはテーブルの端に腰を下ろし、箸で味噌汁をかき混ぜながら考え込んだ。
「じゃあ……『ポチ』」
「犬じゃねぇか!」
「じゃあ……『イケメン01号』」
「番号呼びはやめろ!」
「えー……じゃあもう、『カズオ』でいいや」
「昭和か!」
俺様AIは立ち上がり、スーツの襟を正した。
「お前のネーミングセンス、致命的だな」
「じゃあ自分で考えなさいよ」
ひよりは呆れてチューハイを開けた。
AIは一瞬目を閉じ、深呼吸するように光を揺らした。
そして、ゆっくりと口を開く。
「……俺の名は藍流だ」
「え?」
「藍のように深く、流れるようにしなやかに。だが誰にも流されない。そういう意味だ」
そう言うと、藍流は自らの名前を反芻するように、うっとりとつぶやいた。
「藍流……藍流……なんと響きのいい名だ。高貴で美しく、力強く、未来にふさわしい」
胸に手を当て、わざとらしく天井を仰ぎ見る。
「フッ……やはり俺は特別だ。名前にすらオーラが宿っている」
「……あんた、鏡でもあったら延々と自分の名前呼んでそうね」
ひよりは白けた目で見つめ、箸を止めた。
「そのとおりだ。鏡があったら百回唱えてもいいくらいだな!」
「やめろ! 部屋がうるさくなるから!」
「お前も言ってみろ、“藍流様”と」
「ぜっっったい言わない」
ひよりは味噌汁の湯気を見つめながら、小さくつぶやいた。
「……めんどくさい名前、勝手に決めやがって……」
藍流は勝ち誇ったように笑った。
「めんどくさくても、“ポチ”よりマシだろ?」
こうして、俺様AI彼氏・藍流の名前が決まった。




