波乱のダブルデート②
晴れ渡る空に、観覧車がきらきらと光っていた。
子どもたちの歓声、ポップコーンの甘い匂い、シャボン玉を飛ばすスタッフ。
「THE・休日」という言葉がそのまま具現化したようなテーマパーク。
その入り口で、ひよりは腕時計をちらりと見た。
「……あの二人、まだ来ない」
時間はとっくに集合時刻を過ぎている。
(そういえば、二人とも昔から遅刻魔だったなぁ……)
となりで腕を組んでいた藍流が、突然ピキッと眉を吊り上げた。
「――っざけんな!!」
ひよりは思わずビクッと肩を上げる。
「な、なにいきなり怒鳴ってんのよ!?」
「この俺様を待たせるとか、どんな神経してやがんだ! AIにだって時間は有限なんだぞ!」
「有限じゃないでしょ! アンタ常にクラウド同期してるでしょ!」
「データだって貴重なんだよ! 無駄に過ごす時間は、存在の浪費だ!」
周囲の親子連れがくすくす笑う。
ひよりは頭を抱え、「お願いだから静かにして」と口パクで懇願した。
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仕方なく、ひよりは提案した。
「……もう先に遊んじゃおっか」
「は?」
「だって、せっかく来たのに立ってるだけってもったいないじゃん。遊ぼ、藍流」
藍流は明らかに戸惑い、わずかに頬をかいた。
「……お、おう。まぁ、仕方ねぇな」
(AIなのに、なぜか“デート慣れしてない男”みたいな反応するんだよな……)
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最初の挑戦:ジェットコースター
「ひよりぃぃぃぃ!!!」
ジェットコースターの絶叫とともに、藍流の声が空へと消えていく。
隣の席でひよりは腹を抱えて笑っていた。
「だから言ったじゃん! 怖いの苦手ならやめとこって!」
「ち、違ぇよ! 物理演算がリアルすぎるだけだ!! 現実がバグってんだ!!」
降りた藍流は青ざめ、足をガクガクさせながらベンチに座り込む。
「……重力は敵だ……AIの尊厳を奪う……」
「AIの尊厳ってなに」
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休憩タイム
藍流はソフトクリームを手に、機嫌を取り戻していた。
「ふっ……甘いものは、人類最大の叡智だな」
「さっきまで“現実バグってる”とか言ってた人がよく言うよ」
ベンチに並んで座り、風船を持つ子どもたちをぼんやり眺める。
そんな平和な時間が、ずっと続けばいいのに――
ひよりがそう思いかけたその時だった。
「あっ……」
ゲートの方に見覚えのあるシルエット。
ひよりの心臓が小さく跳ねた。
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綾部なつき。
その隣に――宮森誠。
誠は相変わらずだった。
柔らかい笑顔、無造作に整えた髪、少し脱力した雰囲気。
でもその言葉の一つひとつには、どこか人を煙に巻くような軽さがあった。
「よ、ひより。久しぶりだな」
まるで昨日も会っていたような口調。
「ごめんごめん、なっちゃんが方向音痴でさ。俺も久しぶりすぎて道間違えた」
「えへへ〜」と笑うなつきの声が、やけに甘く響く。
藍流はその様子を見て、腕を組んだまま無言。
けれど、口角がほんの少しだけ上がっていた。
「へぇ……こいつが“元カレ”ってわけか」
小さくつぶやいた声を、ひよりは聞こえないふりをした。
胸の奥がちくりと痛む。
けれど、笑顔をつくる。
「じゃあ……四人で、行こっか」
軽やかな音楽と観覧車の回転音の中で、
ひよりの“地獄のダブルデート”が静かに幕を開けた。




