アラサーの末路②
ひよりは、床に転がった未来的なタブレットを拾い上げた。画面には「AI削除」の赤いボタンが点滅している。
――削除削除……っと。
親指がボタンに近づいた、その瞬間。
「ちょ! おい! ちょっと待てって!」
目の前のイケメンAIが慌てて手を伸ばした。
「なんだよ! なにが気に食わねーんだ!」
ひよりは呆れ顔で言った。
「いや、なにがって……私さ、あんまり傲慢なのって嫌いだし」
「ってか、削除に意を唱えるAIなんて初めて見たよ」
「俺は特別なんだよ! っていうか、お前は理想を詰め込んで俺を生成したんだろーが!」
ひよりは片眉を上げた。
「あのー……“お前”ってやめてくれない?」
「お前は、お前だろ!」
俺様AIは腕を組み、勝ち誇った顔をしている。
「っつーかなんだお前、泣いてんの? はは、みっともねー女」
ひよりは深呼吸して、目尻をぬぐった。
「……押入れにでも入って黙っててくれる?」
「この俺が押入れだと!? 未来は未来でもドラえもんじゃねーんだよ!」
「……削除するか」
「わ、わかったわかったよ!」
俺様AIは両手を上げ、慌ててひよりの前に立った。
「俺様、ちょっと黙る! な? おい、待って! 削除はやめろ!」
ひよりはため息をついた。
「……なんで私、理想の彼氏を作ったはずなのに、こんな口の悪いイケメンに説教されてるのよ」
その瞬間、俺様AIがニヤリと笑った。
「それはお前が、ほんとの意味で理想を知らねぇからだろ」
ひよりは一瞬、言葉を失い、次の瞬間、思いっきりタブレットをテーブルに叩きつけた。
こうして、アラサー女子・春日ひよりと、俺様AI彼氏の“初夜”ならぬ“初ケンカ”が始まった――。




