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藍流様出勤

翌朝。

 ひよりが寝ぼけ眼をこすりながらリビングへ出ると、そこには――ビシッとスーツ姿の藍流が立っていた。


 (……本当、彫刻みたい……)

 光沢のある紺色のスーツに身を包み、背筋をぴんと伸ばす藍流は、まるで海外の映画スターが撮影の合間にふとこちらを振り返った瞬間のような美しさだった。


 「よう!」藍流が片手を上げる。

 「今日は顔、浮腫んでねーな!」


 (……口さえ開かなければ……)

 ひよりは心の中で机に突っ伏したい気分になった。


 「本当に出勤するんだね」

 「当たりめーだろ。アドバイザー藍流様、初日出勤だ」


 胸を張る藍流を見上げながら、ひよりは頭を抱えた。

 (……もう後戻りできないんだ……)



 会社に到着すると、さっそく藍流は部長に呼ばれ、別室へ。

 部屋のガラス越しに見える藍流は、真剣な顔で資料を見ながら、的確に指を走らせていた。


 数十分後。

 藍流は部長と共に会議室を出てくると、そのまま各部署を回り始めた。


 「経理部、このチェック体制じゃ二重計上のリスクが高すぎるな。見直せ」

 「総務課、申請フローが複雑すぎて申請者が途中で諦めてるぞ。簡略化しろ」

 「開発課! コードレビューのシステム、いいじゃねぇか。精度をさらに高めれば全社に展開できるぞ」


 次々と飛び出す言葉に、社員たちは目を丸くし、次第に感嘆のざわめきが広がっていった。

 「……あの人、すごい」

 「部長より鋭いんじゃ……」


 藍流は悪びれずに胸を張った。

 「当然だ。俺様を誰だと思ってる」



 ひよりは少し離れた場所からその様子を見ていた。

 (……本当に活躍してる……ただの口だけAIじゃないんだ)


 その横で、薬師寺が何度もひよりの方をちらちらと見ては、唇を開いて――結局閉じる、を繰り返していた。

 「……あ、あの、春日さん……」

 声をかけようとしては、もじもじと目を逸らす。


 ひよりは内心でため息をついた。

 (薬師寺くん……今は何も言わないで。私も整理できてないから)


 そんなひよりの横で、藍流は堂々と廊下を歩いてきて言った。

 「おい、何ボサッとしてんだ。俺様が目立ちすぎるからって置いていくなよ」


 (……はいはい、わかってますよ、藍流様……)


 ひよりは小さく肩をすくめて、その後を追った。


 オフィスの廊下の角に身を寄せ、早瀬まりはひよりたちを見ていた。

 ひよりと親しげに言葉を交わし、フロアを颯爽と歩くあの男――アドバイザー、藍流。

 まるで雑誌から抜け出してきたような整った顔立ちに、スーツ姿が異様に似合っている。


 (……誰、あの人……?)

 胸の奥で嫉妬の熱が渦を巻く。

 (またあのクソ女に男が寄ってきたってわけ? 本当に腹が立つ……!)


 藍流がひよりに微笑むその光景が、まりの脳裏に棘のように突き刺さった。

 (ふん……見てなさいよ、春日ひより)



 まりは姿勢を正し、バッグの紐を握りしめた。

 顔に“営業スマイル”を作り、足早に藍流の方へ向かう。

 「はじめまして、アドバイザーさん」

 声は柔らかく、甘く――普段より少しだけ高めに。

 (この笑顔で、男なんて大抵落ちる……)


 藍流は一瞥しただけで、まりの顔を認識した。

 「あぁ、秘書課の早瀬だよな」


 その瞬間、まりの笑顔がほんの一瞬だけ固まる。

 (……なんで名前を? まだ自己紹介してないのに)


 「え、えぇ……そうです。私、早瀬まりと申します」

 “可愛さ”を含ませた声色で、必死に取り繕う。


 藍流はポケットに手を突っ込み、薄く笑った。

 「俺も用があったんだよ。ちょっと付き合ってくれないか?」


 まりは、喉の奥で息を呑んだ。

 (……この人、ただのアドバイザーじゃない……? でも……チャンスかもしれない)


 笑顔を崩さぬまま、小さく頷く。

 「……はい、喜んで」

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