チームメイトたちの力
「よし……決めた」
ひよりは顔を上げ、スマホを握りしめた。
明日、プレゼンをやり直す。
そのためには一晩で資料を再構築するしかない。
もう、自分ひとりで抱え込む余裕なんてなかった。
「……薬師寺くん、J3、多田さん。今からうちに来てもらえる?」
受話口の向こうで一瞬沈黙し、それから三者三様の返答が返ってきた。
「えっ!? は、はい! すぐ行きます!」薬師寺。
「お姉様のおうちにお邪魔できるなんて、夢のようですわ!」J3。
「……俺、パジャマで行っていいっすかね」多田。
ひよりは吹き出しそうになりながらも、心が少し軽くなった。
(ほんと……頼りになるメンバーだな)
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数十分後。
チャイムの音とともに、3人がひよりのマンションに到着した。
玄関を開けると、まず薬師寺がきちんとした姿勢で立っていた。
「春日さん! 本当にお邪魔します!」
隣ではJ3がホログラム投影の少女姿で両手を広げている。
「お姉様ぁ〜! ようやくプライベート空間に突入ですわ!」
後ろからは、多田がコンビニ袋をぶら下げてひょこひょこ入ってくる。
「夜食は確保してきました。ついでにポイント二倍デーだったんで」
「ありがとう、みんな……!」
ひよりは本気で胸が熱くなった。だがその背後から――
「おい、何の騒ぎだよ」
ソファにふんぞり返っていた藍流が立ち上がった。
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「え……」
薬師寺が目を見開く。
「ど、どちら様ですか?」
「わぁ……! すごい……!」
J3は目を輝かせ、ホログラムの瞳をきらめかせた。
「お姉様、こんなに完璧なホログラムAIを生成していたなんて!」
「ホログラムじゃねーよ!」
藍流が一喝する。
「俺は“存在”してんだよ!」
「……え、えぇ?」
薬師寺は戸惑いながらひよりに視線を送った。
「春日さん、この人……?」
「……えーっと、説明すると長いんだけど」
ひよりは気まずそうに頬をかいた。
「私が……ちょっと酔った勢いで生成しちゃったAIアシスタントで……実体化もしちゃってて……」
「ちょっと!? “酔った勢い”って言うなよ!」
藍流が食い気味にツッコむ。
「俺はお前の理想を全部詰め込んだ結果だろうが!」
「は、はぁ……」
薬師寺は苦笑しながら頷いたが、その目には複雑な色が浮かんでいた。
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「ところで……」
J3がふいに藍流の前に進み出る。
「あなた、随分とお姉様に馴れ馴れしいじゃありませんの」
腕を組み、くるりと髪をかきあげる仕草までしてみせる。
「はぁ? 馴れ馴れしいも何も、俺は“特別”なんだよ」
藍流は胸を張った。
「お前みたいな旧型じゃなく、最先端、究極のAI! 唯一無二の存在! 比べんな」
「な、なんですってぇ!?」
J3が目を潤ませる。
「お姉様! この方、とんでもない暴言を吐いてますわ!」
「ちょっと待って! ケンカしないで!」
ひよりは両手を上げて仲裁に入るが、藍流は鼻で笑った。
「フン、嫉妬すんなって。お前の“お姉様”は俺のもんだ」
「なっ……!」
J3が顔を真っ赤にする。
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そのやり取りを見ていた薬師寺は、苦笑しながらもふと口にした。
「でも……春日さんが信頼している存在なら、僕たちも信じますよ」
その言葉に、藍流の目がギラリと光った。
「……おい、そこのメガネ」
「えっ、僕ですか?」
「当たり前だろ。他にメガネいねぇだろ」
藍流はぐいと薬師寺に詰め寄る。
「“春日さん春日さん”って……テメェ、やたら春日にベッタリじゃねぇか」
「え? い、いや、別にそういうつもりじゃ……!」
薬師寺は耳まで真っ赤になって慌てる。
ひよりは呆れ顔で溜息をついた。
「ちょっと藍流、やめなさいよ」
「チッ……」
藍流はふんと鼻を鳴らしてソファに戻った。
(何だよコイツ……ムカつく)と心の中で舌打ちしながら。
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結局、作業は大混乱のまま始まった。
J3は「この見出しにハートを散らしましょう!」と暴走し、
多田は「腹減った」と言ってはカップ麺を机にこぼし、
薬師寺はひよりの横で真剣にコードを打ち込み続ける。
その背中を見ながら藍流は、苛立ちと、得体の知れないざらついた感情を抱えていた。
(テメェ……ひよりにベッタリすんなよ……)
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一方その頃――秘書課の早瀬まりは、ひとり暗いオフィスで端末に向かっていた。
万が一にでも、あの資料が復活されたら困る。出来ることはなんでもやっておこう。
(絶対に……春日ひよりなんかに負けてたまるもんですか)
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夜は更けていく。
チームは笑いあり、口喧嘩ありで資料を再構築し続けた。
そして、そのど真ん中に――“人間らしすぎるAI”の藍流も、ちゃっかり居座っていた。




