死のループ
誰かが、俺の首を絞めていた。
夢だとわかっていた。
暗闇の中、無表情の顔が近づき、無言のまま手を伸ばす。
汗の匂いも、骨が軋む音も、リアルすぎた。
だが確かに、これは夢だと知っていた。
夢ならば、苦しくても死なない。
目覚めれば、終わる。
そう信じていた。
首が鳴る。
気道が押し潰され、舌がせり上がってくる。
意識が暗転する瞬間、
俺は確かに、「目を覚ました」。
でも、目を開けたその部屋は、
見覚えのない天井だった。
体は汗まみれで、呼吸は浅く、
まだ“首の手応え”が喉に残っていた。
——ここも、夢だった。
少しずつ、理解していく。
これは二重の夢。
だが、目が覚めたという感覚も、あまりに現実的だ。
指を噛む。
痛い。
息を吸う。
肺が熱い。
なのに、再びあいつが現れた。
同じ顔。
同じ手。
同じ沈黙。
逃げられない。
身体が動かない。
喉を押さえつけられ、意識が遠のく。
「これは二度目の夢だ、次こそ目覚める」
「目覚めさえすれば——」
また、目が覚める。
今度は床に倒れていた。
薄いベッド。白い壁。窓のない部屋。
ここも違う。
また夢だ。
でも、“いつまで続く”?
喉が痛い。
指に血の跡。
それすら“夢の痛み”だとしたら、
“本当の現実”って、どこだ?
同じように、男が現れる。
何も言わない。
ただ、首を絞める。
夢は変化しない。
ただ、階層が深くなる。
五層目。
十層目。
二十七層目。
目を開けても、
誰かが待っている。
絞め殺すためだけに、そこにいる。
俺は死刑囚だった。
確かに、絞首刑を言い渡された。
あの瞬間が最後の現実だったのか?
もしかしてこれは、
あの瞬間——
**首が折れる寸前、
脳が酸素を失う刹那に“再帰的に発生した意識の震え”**なのか?
死ぬ直前の一瞬が、
永遠にループしているのか?
「終わらない。
殺されても、また目を覚ます。
目覚めても、また殺される。」
次に目を開けたとき、
そこには、白い天井があった。
見慣れた病室のようで、窓がない。
誰もいない。
……いや。
空気の粒子が揺れた。
背後に、あの男がいる。
手が、こちらに伸びている。
俺は悟った。
——ここが地獄だ。
地獄とは、
“終わりに到達できない死”なのだ。