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僕の失われた大切なもの
頭に毎回のように、嫌な記憶が蘇る。
「ほら、もっと鳴け、喘げ、惨めな姿を見せてみろ」
父の怒号交じりの荒げた声。生臭い匂い、性器を弄られる感覚、そんな状況で喘ぐ自分の声。
「蓬田、またな」
「うん、また明日」
作り笑顔を覚えてしまった自分、今まで感じていたものが失われた喪失感。
「お前さえいなければ……。」
恨み、嫉妬、妬み。その感情を実の父から向けられるあの感覚。
「ただいま、母さん。お弁当箱ここに置いておくよ」
「あら、分かったわ」
毎度のように嫌になるほど、分からされる。
「今日のお弁当、美味しかったよ」
母の料理すらも味を感じないこの病気の事を、嫌というほど理解する。
味覚障害。僕は齢16にして……その病気と診断された。