ポンニチ怪談その89 エンザイバツ
ニホン国警察組織の重大発表を行う裏には…
「ほ、本当に流すのですか、それ」
スーツ姿の男性が震えながら、年配の男性に聞いた。
「し、仕方がないんだ。新聞やらの発表だけではダメだというのだ。テレビですべての件の謝罪会見を開く、動画、投稿サイトのSNSなどあらゆるメディア、情報発信の場で、我々の長年の過ちを認め、正していかないと…」
「し、しかし総監、そ、それでは、ニホン国警察組織の威信が…。自白を引き出し拷問めいたことまで行った違法な取り調べ、脅迫めいた尋問、杜撰な証拠調べに、科学捜査班に証拠の捏造を強要したなど…。関係者から指摘を受けたものだけでなく、内部告発、判明したもの、いや疑いをもたれたものすべてを告白して、調べなおすなどど」
「た、確かに君のいうとおり、ニホン国警察組織の信用は今度こそ地に堕ちる。証拠品の現金数千万円が消失した、警官の犯罪を隠蔽した、成績のために事件を捏造したなどと騒がれていた以上、いや、取り返しがつかないかもしれない。だが、そうしなければ…」
「国民の信頼が取り戻せないということですか…」
「そ、そうだ、信頼…」
“違うでしょ、無罪の人を苦しめまくった、あのヒドーイ元特高のオジサンのように責めさいなまれたくないんでしょ”
と二人の上から降ってきた子供のような声。その声はあどけなさを残しつつもどこか不気味な雰囲気を漂わせている。
「ヒイイイイイ、こ、こんなところにまで!」
「そ、総監、お、お気を確かに。…ま、まさかほ、本当だったのか。子供の声の化け物が、出てくるって。その隠蔽や横領、冤罪事件があった署に」
“あはは、どこでもみてるよ、知らなかったの?オジサンたちはちょっと目を離すとすーぐ悪いことしちゃうんだもん。正義の味方のはずなのに、罪のない人をいっぱい、いっぱい苦しめて”
“そーんなことばっかり、やってるから、地獄でも扱いきれなくなっちゃうんだよねえ。間違えました、ごめんなさい、賠償とかもしまーすってちゃんとやってくれれば、生きながら苦しんだりい、お子さんとかお孫さんとかもとばっちり受けないで済むのに”
「や、やはりあの冤罪事件を引き起こした悪質捜査の張本人と目されたベンダバヤシさんのご家族が次々とおかしくなったというのは、本当だったんですか、総監」
「あ、ああ。凄惨な悪夢を見続け、次第に言動がおかしくなって、位牌や仏壇を家ごと焼き払い、墓を粉々にし、それでやっと眠れるといって…亡くなったそうだ。彼らだけではない、九州のあの退職した警官から事件の隠蔽、違法捜査などの告発を受けた警部やその上司たちは原因不明の病にかかったり、怪奇現象に悩まされたり、相当な苦しみで、次々に悲惨な死を遂げている。あちこちでそういったことが起きているのだ」
と力なくいう総監に黒い大きな影が続ける。
“あはは、だってしょうがないじゃない。ちゃんとやらなきゃいけないことをやってないで、やっちゃいけない事ばかりやっちゃう人がいるんだもん。ホントは犯罪者を捕まえなきゃいけない人が真犯人を見逃したり、いー加減にしたりするんだもん。だから余計、罪がおもーくなっちゃうんだよ”
“そー、そー、あの世だけでは足りなくなっちゃったのよ、あんまり酷すぎて。だから、生きてるうちから、生きてる人にも罰をあたえなきゃなんなくなっちゃた。冤罪がいっぱいで、取り返しがつかなくなりすぎたの。調べなおしをちゃんとやったり、間違えてるといわれたときに反省したり、告発されたらちゃんと調べて告発者を保護して謝ったり、ちゃーんとやればよかったのに”
“そういうことやらないくせに、大臣さんだの議員さんだののオトモダチのレイプ魔とか法を犯した議員だの大臣だのは見逃しちゃったり、悪徳警官やっちゃうから、いけないのよ。きちんとオシゴトしてる人は何にもないでしょう?”
無邪気すぎて逆に恐ろしくも聞こえる会話にうなだれる総監たち。
「そ、そうかもしれないが、し、しかし、あやふやな告発で真偽が確定しないようなことまで」
“あー、それホントだから、私たちに隠そうたって無駄だもん”
“殺されて真犯人を捕まえそこなったって怒ってる被害者さんとか、告発したのに逆に虐められて自殺しちゃった人とか、拷問すれすれの尋問受けておかしくなって死んじゃった人とかいろいろ証言はあるんだよ、地獄で。あ、もちろん冤罪やりまくった人も洗いざらいしゃべってもらったからねえ。地獄だの舌を切り裂かれてもお話ができて便利なんだよ”
“そー、そー、だからさっさと発表しちゃってよ、間違いがこんな―に多かったです、隠蔽もいっぱい、誤魔化し捜査もありましたって。冤罪いっぱいつくったから罰を茶―んとウケますって”
「え、冤罪による罰!そ、そんな私はそんなことしてない、我々は」
“直接はしてないかもしれないけどお、そういう組織を変えないし、そういうことした人をちゃんと告発して罰を与えなかったし”
“それどころかあ、そういう悪いこと続けて、隠そうと思ってたでしょ、同罪じゃん。やっちゃった人のお子さんとかもお、それで恩恵うけちゃって、親の罪を知ってて黙認しちゃったからねえ”
“親の悪行を批判して、縁切ったような人にはなんもしてないもん、学校とか就職で七光り受けたとかいう奴だけだもんね、ヒドイ目にあってるの”
「な、何もしなくても、そ、組織、上に従ってしまえば、ダメなのか。か、家族も」
“冤罪作って謝んないような悪しき組織の伝統とやらに従ったらね。ちゃーんと告発なり批判なりすれば別だけど”
“そー、そー、警察なのに悪ーいこと続けるからよ、まあ警察じゃなくても悪いことはしちゃだめだけど。取り締まる方がやったら、もっとだめだよねえ、反省もしてない隠蔽体質だし、これぐらいやんないと”
「だ、だがニホン国の警察組織の…」
と声を絞り出す総監の前に
パックリ
大きな二つの口が広がった
“あー、そんなに冤罪隠蔽したいんなら、アナタにも早速罰を与えちゃおうか、総監さーん”
“そこのオッサンも食べちゃおうよ、冤罪加担、エンザイバツってことで。バッラバラに何回もかみ砕いてあげるよ、生きながらね”
「ひいいいい」
“さあさあ、早くしないと、エンザイバツをうけちゃうよ。自白しなよ、さっさとね”
楽しそうな笑い声が総監たちの頭上に響き渡る。
謝ったら駄目だあという思考法の方が、よっぽどダメであとあとトンデモナイことになりがちだとおもうんですけどねえ。そういう風にやってきたどこぞの国の幸福度は最低ランク、自殺率、特に若者の率が最高ランクというよろしくない状態になってるようですし。