『ガルブの英雄譚』その7
俺とエビちゃん、リズ嬢は模擬戦場へ向かう。
未だに信じられないが、彼女・・・彼?が本当にエビル・チャンドラなのであれば、この模擬戦は願ってもないものだった。
彼との距離が、如何程のものなのか・・・確認するチャンスだ!
「リズ、彼が相手となればちょっと手加減を間違えそうなので『あの子』を呼んでおいてくれる?」
誰だろうか?しかし、少しは認めてくれているらしい。嬉しい限りだ。
「えぇ〜・・・呼びますけど。心まで折らないで下さいよ?英雄候補なんですから」
「だからこそ、腕前をしっかりと見せてもらう必要があるでしょう♪」
ん?どうやら英雄の話はエビちゃんにも通っているらしい。
ほどなくして、さらに一人の男が現れた。
『あの子』とはこの男の事なのだろうか?
「リズはいるか?頼まれてた領主様用のパンの補充にきたんだがこっちだと言われた」
「あ、ラックさん。いつもありがとうございます♪ついでだから紹介しておきますね。彼が英雄候補のガルブさんです」
「ん?あぁ、例の・・・。ラックだ。宜しく頼む」
なかなかに鍛えられた肉体。それに何か底知れないものを感じる。
そう言えば領主様が『この街の救世主が作ったパンだ』と言っていたのを思い出した。
「もしや、先日のパンを作った方か?」
俺はリズ嬢に問いかける。
「そうですよ♪」
にこやかに肯定される。そうか、彼が・・・救世主か・・・。
俺はスッと彼に握手を求めるべく手を差し出した。
彼もそれを見て手を差し出し、そして手が触れる瞬間・・・
『パーーーーン』
・・・
え?何が起きたんだ!?
「あ・・・手袋をダメにしてしまった様だ・・・本当に申し訳ない。弁償する」
安物のショボイエンチャント付きの手袋だ。丁度買い替えようと思っていたので弁償は構わないのだが・・・。
「何が起きたのか全く分からなかったのだが・・・」
「あぁ、俺は道具やエンチャント付きの装備は触れると『パーン』するんだ。あ、魔法もだったな。体質の様なものだと思ってくれ・・・」
なぜかショボくれる謎の男。
なんだそれは?この男にかかれば決戦兵器ですら瞬時に破壊出来ると言うのか?
魔法までも・・・?それは一騎当千の役割を果たすだろう・・・。
本当に一体、何者なんだ!?
・・・
一悶着あったが、改めてエビちゃんと対峙する。
「いつでも、どこからでもかかってきていいですよ?」
余裕の表情。互いに武器は木刀のみ。
様子見・・・などはしない。そんなものは道楽剣士の戯言だ。
冒険者は常に命を賭けた一撃を振い続ける。そうでなければ生きてはいけないのだ。
正攻法に拘りなどもない。俺は隠し持っていた礫を投げつける!
卑怯だなどとは言わせない。これが本当の全力だ。更に、
「グラビティ!フラッシュバン!!」
俺の持つスキル。重力魔法と目眩し。
これが俺の必殺の初見殺しだ!
そして、俺の全身全霊を込めた一撃を・・・振り抜いた。
「うん。やはり、いいですね。十分、Aランク冒険者としての実力はありますよ♪
そして、戦略、初手で全力を出し切るのも素晴らしい」
それは・・・レベルが違っていた。
目を瞑ったまま、礫を全て木刀で叩き落とし、重力魔法はものともしない。
俺の一撃は完全に受け流されて・・・俺の首元に木刀が置かれていた。
・・・勝てる気がしない。
「もうおしまいですか?」
煽る様に笑みを浮かべる彼?に折れそうな心を奮い立たせる。
この程度で諦めて、何が英雄か!
「勿論、まだお相手頂こう」
俺は精一杯の虚勢を張りニヤリと笑う。
それから何度、打込んだだろうか・・・。
あらゆる手を尽くしたが、俺の攻撃は・・・一切通用しなかった。
時折、カウンターに攻撃を喰らう。
軽く手を抜いて放たれているであろうその攻撃は、重く受けきれずダメージとして蓄積されていく。だが、少しずつ神経が研ぎ澄まされていくのが分かる。
そうか・・・俺は指導されているのだな。
有難い事だ。自分の問題点が鮮明になっていく。
それを瞬時に修正していく。
・・・楽しい。
俺は高揚していた。
俺はまだ・・・強くなれる。
嬉しさのあまりに笑みが溢れるほどだ。
その時だった。
「リズ〜、呼ばれて来ましたよ。というか気軽にポキポキと冒険者の骨を折らないで下さいよ。って一昨日の・・・」
俺は思わず余所見をしてしまう。
見ずにはいられなかった。
何故なら、その気配は・・・あの『神より尊き存在』のものだったから。
「あ・・・」
余所見した俺の利き腕に、エビちゃんの攻撃がクリーンヒットした。
『ボキッ』
あ、これは確実に折れたな・・・。
激痛と疲労、蓄積されたダメージで俺はその場に倒れ込んだ。
「にゃあああ!せっかく治したのに折るニャよ!!」
「いやぁ、どんどん良くなるもんだから、加減が分からなくて。テヘペロ」
可愛く舌を出す彼?を前にして、俺は辛うじて意識を保っていた。
なんとか一矢報いてやろうと死んだふりをする。
「心まで折れてませんかね?彼には英雄になって貰わないとなんですけど・・・」
リズ嬢が心配そうに言う。
「彼ならこの程度では折れませんよ♪むしろ俄然、やる気になった様ですよ?」
その通りだ。
俺は理解した。彼らこそが領主様の言っていた、この街の切り札だ。
ははは、笑ってしまう。彼らがいるのだ。ソボックが負けるなどあり得ない。
街の中に馴染み溶け込む彼ら。
そうか、俺は彼らの隠れ蓑としての英雄に選ばれたのだな・・・。
全てを理解した俺は・・・それでも清々しい気持ちだった。
光栄じゃないか。
せいぜい全力で踊ってやるさ!もう踊らされるのは十分だ。
俺は本当の意味で、少し強くなった。
英雄の名くらい背負ってみせるさ。
俺は折れていない腕で木刀を拾い、一矢報いるべくエビちゃんに向かって振るう。
利き腕ではない、朦朧とした意識では定まらず・・・
その一撃はエビちゃんの足には届かず・・・
彼?のドレスのスカートを捲り上げた。
地面に倒れ込んでいた俺にはハッキリとそれが見えた。
ふっ、やはり『彼?』は『彼』だったよ・・・グフッ。
「これは一本取られましたね♪」
「・・・変態にゃ。変態がいるのニャああああ!」
笑みを浮かべて倒れている俺を、ゴミを見る様な目で見下ろす『尊き存在』。
ありがとうございまs、いや違う。
誤解だ・・・。
それは言葉にならず、エビちゃんの止めの一撃を頭上から落とされ俺は意識を失った。
====ガルブの冒険譚 ー完ー ====




