『ガルブの英雄譚』その5
領主邸を後にした俺は次に何をするべきかを考えていた。
英雄になる件については今後、追って色々と指示があるそうだ。
そして、今回の件は内密にと言われた。
リーナに英雄になる事を伝えられないのは残念だが、そもそも何がどうなって俺が英雄になるのか、未だ全く分かっていないのだから話しようがない。
しかし、元Aランク冒険者と言えど腕が鈍っていないか心配だ。
元と付けたが今でもAランク冒険者として在籍はしている。
実は、こっそりと隠れて鍛錬は続けていた。
利き腕を失っていたので、あくまで筋トレが中心だったが・・・。
未練タラタラで本当に往生際が悪いと我ながら思うが、今回はおかげで早く復帰できそうだ。
英雄になるに当たって『鍛錬を行い、可能な限りギルドで依頼を受けて、実績を重ねて置いて欲しい』と領主様にも言われたので俺の女々しさは結果的には役に立ったと言えるのかもしれない。
「明日はギルドに行って、依頼の確認でもするか・・・」
俺は明日、ギルドへ向かう事にした。
・・・
翌朝、俺はいつもの様にリーナに挨拶をする。
昨日は領主邸への訪問の事があり、後ろめたさもあって顔を合わせられなかった。
つまり俺は腕が治った事を、初めて伝えるのだ・・・。
「おはよう。実は腕、治ったんだ。腕、生えた」
俺は上手く言葉が出てこず何と説明して良いのか迷った挙句、端的でこれだけでは全く意味の分からない言葉になってしまった。我ながら情けない・・・。
すると・・・
「はい?何言ってんの?雑草じゃないんだから、腕なんて生えるわけ・・・生えてるわね」
雑草と同列に扱われるのは心外だが、言う通りだ。失われた腕は、通常は生えない。だが綺麗さっぱり元通りになっている。
それを見たリーナは・・・
「よかったわね♪あった方がよかったんでしょ?何で生えたの?」
凄い普通だった。あれ?なんかこう、もっと感動とかないのかね?
あった方がいいとか言うレベルなのか・・・?
「尊き存在が一昨日の夜、現れて治してくれた」
嘘は言っていない。と言うか、俺もそれ以上に事は知らない。
「あぁ〜今、話題になっている謎の治癒師様ね♪凄いわよねぇ。昨日は裏のお爺ちゃんの腰を治してくれたらしいわよ?」
かる〜い。え、そんなに流行ってんの?巷で話題なの?
どうやら、俺が知らなかっただけで、街では噂になっているらしい。
コミュ力が壊滅的な俺に情報が入ってきていなかっただけの様だ。
「なんでも、誰もちゃんと姿を見た事がなくて神の御業って言われてるらしいわよ?腕まで生やしちゃうんだから人間業じゃないわよね」
獣人っぽかったけどな。あと猫を連れてた。言わないけど・・・。
言ってはいけない気がした。俺でなきゃ気付かない程に気配を消していたのだ。
気付かれたくないのだろう。恩を仇で返す様な事はしたくなかった。
「俺、これからまた冒険者として真面目にやり直そうと思うんだ」
英雄の事も言えない。でも、実力で英雄になれる程の・・・努力をしてみせる。
俺はそう決意していた。
「おっそいのよ!腕生えるまで気付かないとか相変わらずの鈍感っぷりね。腕がなくても、どうせまた冒険者をやるって私は知ってたわよ?腕が生えたからって調子に乗って、また無茶しないでよね」
えぇ〜・・・。片腕でも冒険者をやると思われていた様だ。
そう言われると、むしろそう思えなかった自分が恥ずかしくなってきた・・・。
リーナは全部知っていたんだな。
俺がやるべき事を・・・そして、やりたい事を・・・。
「あぁ、もうあんな無茶はしない。俺は自分の実力をもう見誤ったりはしない」
俺は弱さを知った。だから、きっともうあんな無茶はしない。
「英雄になるんでしょ?まぁ、ちょっとくらいの休息は英雄譚にも必要だし楽しみにしてるわよ♪」
おいおい・・・。子供の戯言だぞ?まさか覚えているなんて・・・。
いや、人の事は言えないか。
英雄になる事を伝えなくても、彼女は俺が英雄になる事を疑っていなかった。
それが何よりも嬉しかった。
俺・・・英雄になるよ。お飾りなんかじゃなく、ちゃんとみんなに胸張って言える様な英雄に。
無茶はしないけど、限界までは頑張れる気がした。
気力は未だかつてないほどに充実している。
言えない事がいっぱいで、
言いたい事がいっぱいあるのに・・・言葉が出てこない。
それでも俺は振り絞る様に言う。
「ありがとう・・・」
不器用な俺は、精一杯の想いを込めて、ただ一言だけの言葉を送る。
何か少しでも、伝わって欲しいと願いながら・・・。
「何を今更、真面目な顔して言ってるのよ!ギルドに行くんでしょ?いってらっしゃい♪」
リーナは眩しい程の笑顔を俺に向けて照れながら言う。
俺は気付いてしまった。その目には、少し涙が溜まっている事に。
よかった・・・何かは伝わった様だ。
これからも伝えていこう。伝える為に頑張れる。
俺は幸せ者だ。背中を押してくれる人がいる。
俺はようやく、また前を向いて歩き出した。




