ナンの話でしたっけ?
大混乱の私を他所にラックさんは話を続けます。
「家には大量の本があり退屈はしなかった」
なるほど、それは何よりでした。退屈は大変です、などと私は現実逃避の様に適当に思考を彼の話に追従させます。
「俺は目が悪くて、景色は常にぼやけていた」
読めませんね・・・。一生懸命、追いかけたのにぶっちぎられました。
マラソンかと思ったら50メートル走だった気分です。会話繋がってます?
繋がってませんね。わざとですか?
「しかし、なぜか文字は読めた」
頭が痛くなって来ました。頭痛が痛いです。
なんですか、この会話のドッチボールは?
いえ、こっちは投げていませんから野球?
投げたボールが全て場外ホームランです。
いえ、ファールボールですかねぇ・・・。予想の斜め上に飛んでいきます
こっちに向かって打ってくれているかが、怪しいんですけどね・・・。
「その読んだ書物の中に、とある英雄の冒険譚があった」
そもそも、なんでこんな話を聞いていたのでしたっけ?
彼の過去語りを聞きながら、本質を見失っている自分に気付きました。
彼がパンだけで生き延びる不思議生物であろうと、彼を信じるか否かの判断には大した問題ではありません。あれ?ないのかな?
怪しい人物かどうか以前に、人かどうか怪しくなっている気すらしますが・・・。
「その英雄は幼少期、武神様の神像を殴り続けた事で武神様に認められ強力な加護を受けた。そして、その加護によって弱かった視力が回復したと言うのだ」
武神様ですかぁ。確かに武神様の加護があれば視力が回復する可能性はあります。
技術神様の呪いとは関係の無さそうなですが・・・。でももしかして関係があるのかもしれませんし、もう少し大人しく話を聞きましょう。
「五歳だった俺は、それを信じた。家の庭には三体の神像があったのだ」
ん?神像はとても貴重なモノで貴族ですら一体持っていれば大いに自慢出来るものです。それを三体も持っていたという事は、それが本当に神像なら彼の家はかなり裕福だった可能性が高いです。ますますもって不思議な人ですねぇ。両親は何をしている人だったのでしょうか・・・。
「俺は毎日、毎日、武神像を殴り続けた。1日も欠かす事なく殴り続けた」
視力を回復させる為に必死だったんですねぇ。
五歳の子供が一心不乱に神像を殴る姿を想像すると若干、狂気を感じますが・・・。