『ガルブの英雄譚』その2
俺は生き延びた。
シャケい謎の男のお陰で。
しかし、利き腕を失った俺は、もう冒険者としては生きられなかった。
俺はギルドの指導員として雇われた。
その後すぐに分かった事だが、シャケい謎の男の名は『エビル・チャンドラ』。
今日も新人冒険者をボコボコにしている。
彼のおかげで、俺の様な無謀な事をする冒険者は減った。
良い事だ。俺なんかよりも余程、優秀な指導者だ。
リーナは優しく、腕を無くした俺にいつも通り接してくれた。
しかし、こんな俺では・・・腕を失った俺ではとてもじゃないが告白など出来なかった。
戦闘に全てを賭けてきた。俺にはもう・・・何も残ってはいなかった。
抜け殻になった俺は、適当にギルドの仕事をこなし、適当に生きる。
なぜ・・・生きているのだろうか?
俺が死ねば食いぶちが一人減る。
仕事はしているが誰でも出来る仕事だ。過去の功績へ配慮して貰い優先的にあてがって貰えた簡単な仕事。
「腕一本で済んで本当によかった・・・生きていて本当によかった」
リーナは泣きながら帰還を喜んでくれた。
本当にそうなのだろうか?死んだ方がよかったのではないだろうか?
「仕事頑張ってね。サボっちゃだめだよ」
サボっても何も変わらない。
そんな時、仕事を終えた後、酒場で飲んで帰る途中・・・
怪しい人物が俺の前に現れた。
闇に溶ける様に、全身黒いローブに身を包み、フードを深く被る・・・おそらく人と思われる相手に俺は警戒する。
「何者だ?」
腐っても、元Aランク冒険者だ。利き腕がなくてもゴロツキくらいなら相手出来る。
すると、黒いローブは話を始めた。
「貴方を勧誘に来ました」
どういう事だ・・・?
「端的に言います。ヤバンに鞍替えして下さい。この街は、もうすぐヤバンによって侵略されます」
ソボックで生まれ育った俺にとって、とても首を縦に振れる話ではなかった。
「貴方の周囲の人の安全は約束します。なんだったら貴方が守ってあげるといい」
ますます意味が分からない。
「なに、難しい事をお願いするつもりはないのですよ。ただね、ギルドの冒険者の情報をこちらに横流しするだけで結構です」
ソボックがヤバンなんかに負ける訳がない。鞍替えなんてする訳がない。
「報酬は、ヤバン侵攻成功時の役職と・・・貴方の腕の回復です。勿論、成功報酬ですけどね」
顔の見えない黒いローブは・・・ニヤリと笑った様な気がした。
腕が・・・治る?ありえない。しかし、身体の欠損すらも回復する生命魔法が存在すると言う噂は、伝説レベルだが確かにある。しかし・・・
・・・
俺は・・・ソボックを裏切った・・・。
情報を話すだけ、と言う簡単な行為。それに対する大きな報酬。
信じられる根拠などどこにもないと言うのに・・・。
すがってしまったのだ・・・。
腕を手に入れて幸せになる未来を思い描いてしまったのだ。
罪悪感が心を蝕む。
俺は・・・弱い・・・
◆◇◆
後悔と罪の意識を持ちながらも、俺は普通の生活を続けた。
その後、黒いローブは現れなかった。
やはり、騙されたのだろうか?
俺はなんて阿呆なんだろう・・・。
無気力に生きる日々。
そんなある日、転機が訪れた。
何よりも・・・尊い存在。形容できない夢の様な現実。
それは人の形を成して突如、現れた。
それは俺にとっては・・・神よりも尊き存在だった。




