『ガルブの英雄譚』その1
俺の名は『ガルブ』、ソボックの街で生まれ育った。
俺は魔物との戦闘で利き腕を失った。
英雄候補などと騒がれて調子に乗っていたのかもしれない・・・。
◇◆◇
昔から身体能力が高かった。
「俺は将来、冒険者になってダンジョンを踏破するんだ。この街は俺が守る!」
子供の頃はそんな事を言っていた。
そして十五歳になり、俺は加護を授かった。
それは、武神様の加護【強】という強力な加護だった。
俺は歓喜した。俺には才能がある。
神は俺の事を認めてくれたのだと思った。
俺は順調に強くなっていった。
ギルドからはパーティを組む事を勧められていた。
しかし、俺は一人の方が効率よくレベルを上げれると思っていた。
実際、上手くいっていた。
いや、ただ運が良かっただけなのかもしれない・・・。
俺は五年の歳月を経てAランク冒険者まで上り詰めたのだ。
そんなある日の事だった・・・。
「東のグルアダンジョンに活性の兆しが見られたので暫くは隠密斥候が得意な冒険者の調査結果待ちとなります。近寄らない様にして下さいね」
ギルドの受付嬢に言われていた。
しかし俺なら沈静化も視野に入れて、探索出来る。
活性化したダンジョンは身入りも大きい。
功績を上げて見返してやりたい気持ちもあったのだと思う。
自惚れからの・・・慢心。
グルアダンジョンで俺の前に立ちはだかったのは・・・
『アースドラゴンだった。』
「ドラゴン・・・だと・・・。Aランク冒険者が三・・・いや五人で相手する魔物じゃないか・・・」
俺は絶望した。
勝てるはずがない・・・。
それでも、俺は必死で争う。
三メートルを超える体躯、その俊敏な動きと鋭い攻撃。
致命傷を避けるだけで、精一杯だった。
待っているのは『死』以外なかった。延命は苦しくなるだけだ。
それでも・・・俺は、生きる事を諦めなかった。
諦められなかった。
何故か、頭に過ったのは・・・幼馴染のリーナの声だった。
『貴方はいつも、なんの為に修行をしてるの?』
『気をつけてね。貴方が死んだら・・・悲しむのは私くらいか。仕方ないから、私が言ってあげるわ。無事で帰ってきなさいよね』
乱暴者の俺を、なぜか見放さなかったリーナ・・・。
「そうか・・・俺、リーナの事が好きだったんだな・・・」
アースドラゴンを目の前に、今更に当たり前の事に気がつき呆けていた。
全く・・・俺は、ただの阿呆だ・・・。
アースドラゴンが俺の、剣を持つ利き腕を食い千切った。
強烈な痛みが全身を駆け巡る。それでも俺は全力で延命を試みる。
止血をして、アースドラゴンと距離を取る。
我ながらしぶといな・・・。
思わず、笑ってしまった。
これから死ぬと言うのに・・・呑気なものだ。
遭遇してから30分は経つだろうか?
俺にとっては永遠とも思える程の時間だった。
アースドラゴンも、まさかここまで手こずるとは思っていなかったのか苛立ちが見える。
「ざまぁみろ」
悪あがきも苦しくなってきた俺は、精一杯の皮肉を言った。
その時だった・・・。
「いいじゃねぇか。お前、強いZE!」
颯爽と現れたのは・・・センターハゲにピエロメイク、サーモンピンクの革ジャン。
必死に繋ぎ止めている意識で目を凝らし見つめる彼の背中には・・・
『鮭』の一文字が刻まれていた。
死神だって、もう少しまともな格好をしている事だろう。
その男は・・・アースドラゴンの前に立ちはだかった。
「手加減出来る相手じゃないNA!明日は有給DA♪」
訳の分からないヒャッハーな喋りをする謎の男は・・・
サーモンピンクの刀身、シャケい剣を取り出し・・・それはもう芸術的とも思える斬撃を放ち・・・アースドラゴンを真っ二つにした。
思い浮かべていた理想の一撃が・・・具現化されていた。
憧れた。イメージが初めて見えた。
皮肉なものだ。
利き腕を失い、進む事が出来なくなった俺は・・・始めて理想の自分の片鱗を見た。
どれ程、手を伸ばそうとしても・・・その手はもう・・・存在しないと言うのに。




