パンってなんでしたっけ?
ようやく慣れて来て、笑いを堪えられる様になった所で、男は自身の過去を語り始めました。
その内容は・・・なんとも悲惨でした。
やはり、悪い人では無さそうです。
男の名前はラック。街から少し離れた森の中に今も住んでいるそうです。
***
ラックは、森の中で生まれました。
そして、五歳の時に両親が出て行ったそうです。
え?五歳で森の中で一人?鬼畜すぎやしませんか?
「記憶は曖昧だが、どうしても行かないといけなかったらしい。連れて行くのは危険だからと俺は家に残された。すぐ戻ってくるつもりだったらしいが・・・」
ちゃんと愛されていた様です。なにか戻ってこれない理由があったのでしょう。
それは、もしかして・・・いえ、それは考えないでおきましょう・・・。
「五歳で森の中で生きていくのは、何というか・・・無理なのでは?」
オブラートに包もうと思いましたが、牛皮で包んでも溶け出して来そうな程に刺激の強いお話しに私は若干諦め混じりで切り込みました。
足のあるオバケではないラックさんは今、生きている訳ですし。
「それが、森の家には大量のパンが保管されていてな。
パンさえ食べていれば生きていけるだろ?」
そんなの常識でしょ?みたいな顔をされていますが私が見る限り、貴方はト○ネコには見えませんよ?
あれ?無理ですよね?あまりにも自信満々で、一切曇りのない目で言い切られると少し自分が間違っているのでは?と心配になって来ましたが、人はパンだけでは生きていけませんよね?でも目の前の彼は生きています。あれ?やっぱりオバケなのでは?
頭の中は既に『?』で一杯ですが、こんなのは序の口だったのです・・・。