アナザーなら死んでた
私は男の話を聞く事にしました。
店番は別の人がやってますし、午前中は冒険者ギルドで今日卸して貰うアイテムの確認と不足している素材の報告と依頼です。時間はあるので問題ありません。
この街『ソボック』はそれほど大きな街ではないので、冒険者ギルドは、飲み屋も兼ねています。昼間は待合や冒険者同士が交流したりしていますが、今の時間は空いているのでそこでお話しを聞く事にしました。
ギルド前で男を正座させて長々と話していると、おかしな噂が立ちかねませんし・・・。
「とりあえず、こちらのテーブルでお話を聞かせて頂きますね」
私は椅子に腰掛ける。男は、と言うと・・・まさかの空気椅子。
「あの・・・椅子は座る為にあるらしいですよ?」
たまに武器にもなるらしいですが。
「俺が椅子に座ると、椅子が弾け飛ぶ」
かわいそうになって来ました・・・プルプルしてらっしゃる。
「あの・・・話が長くなるかもしれませんし立っている方が楽でしたら、立ったままでもいいですよ?」
筋トレを強いる趣味はありません。
プルプルが気になって話が入ってこない可能性すらありますし・・・。
「そうか・・・では、楽な姿勢をとらせていただこう」
そう言うと、どこから取り出したのか身の丈程の謎の金属っぽい筒を取り出して・・・それに絡まる様にして立っていた。
ポールダンスですか?
うん、おかしい。色々おかしい。滑稽です。
まだプルプルしている方が話に集中出来た気がします。男の表情は至って真面目です。それが余計に可笑しいです。
「ぷっふふ・・・。あの・・・なんのご冗談でしょうか・・・?」
もうダメです。笑いを堪えきれません。棒に巻きつく男を前に、私は笑い声を漏らしてしまいました。失礼かとは思いましたが相手も大概、失礼ですし・・・。
「この謎の金属っぽい筒は、素材だから弾け飛ばないんだ」
あ、それやっぱり謎の金属っぽい筒なんですね。
ナニソレ?
「こいつは何故か長さを掌サイズから身の丈サイズまで伸び縮み出来るんだ」
ナニソレ?
「俺は武器も防具も道具も家具もカトラリーも貨幣も食器も触れられない。弾け飛ぶ」
ナニソレ?
冒険者になるのは無理じゃないですかね?
普通に生きるのも難しいと思うのですが・・・。
付与効果のない服は大丈夫らしいです。よかったです。
ダメだったら今頃、男は全裸でした。
あと家も大丈夫だとか。床とか壁、ドアは大丈夫。よかったです。
ダメだったら今頃、ギルドが弾け飛んでました。
あと単体で特殊効果があるモノはダメですが、素材や食べ物は大丈夫らしいです。
ダメだったら今頃、飢え死にしてましたね・・・。
水はいつも、短くした謎の筒に四角い板を添えて飲むらしいです。
しかし・・・
「よく生きてこられましたね」
「アナザーなら死んでいた」
アザーでも死んでたんじゃないですかねぇ・・・。