新しい朝と目覚め
パン作りはいつも朝早くから行う。
日が登り始める頃には目を覚まし、俺は移動した事で竈門に影響がないかのチェックか始める。『オーブン』スキルのある俺には、今や竈門を使う必要はない。
しかし、加護を得るまでは竈門の方が楽だった。
そして、俺以外にとっては竈門で焼くのが一般的だ。俺は、パンを作る事を極めたかった。今まで向き合ってきた技術を錆びさせたくないと言う思いもあった。
武神様と食神様の神像は、パン工房に置くことにした。貴重な物らしいので外に置いて置くのはやめておいた。技術神像での愚行を繰り返さない意味でも・・・。
こうする事で、神様がパン作りを見守ってくれている気持ちになる。
俺は今日も、神に感謝しながら・・・パンを焼く。
これからも定期的に、竈門でもパンを焼こうと思っている。
『オーブン』と併用する事で生産量は増える。味は・・・正直言うとオーブンの方が楽に安定して作れる。しかし、竈門で作ると稀に発見がある。きっと無駄にはならない。
「うん。大きな影響はなさそうだな。森より少し湿度が低いか・・・?加熱時間と温度を調整した方が良いかもしれないな」
などと確認しながら100個程のパンを焼き上げた俺は、リビングでゆっくりしていた。
「しかし・・・みんな起きてこないな?」
そう言えば、みんなに言い忘れていた。
実は『ブレッどん』は寝心地が良すぎて、慣れるまで朝起きられないのだ・・・。
時刻は8時半、8時から皆で朝食を食べる話をしていたのだが・・・。
「起こしに行くか・・・」
まず誰の所に行くかだが、ピュアとリズは女性だし、エビちゃん一択である。
ちなみに二階にある六部屋にはそれぞれの神にちなんだ名前が付いている。
俺の部屋は『食の間』。エビちゃんは『武の間』だ。
二階に上がり、エビちゃんのいる『武の間』をノックするが・・・返事がない。
まぁ、ブレッどんだから仕方ない。
仕方ないので、扉を開けよう。開けていいよな?エビちゃんは男だし・・・。
でも、何故か言い知れない罪悪感を感じるのは何故だろうか・・・?
意を決して、ドアを開けて声を掛ける。
「エビちゃん、朝だぞ。集合時間を過ぎている、起きてくれ」
そう告げた俺の目には、艶かしくすらっとした美しい脚を投げ出し、おへそが見える程まではだけたシャツのエビちゃん・・・何故だろう?直視してはいけない気がする・・・。
おかしい。エビちゃんは男だ。
色っぽく寝返りをうつエビちゃん。何故かドキドキする。
おかしい。エビちゃんは男だ。
その時だった。
『寝坊したのニャぁああああ!!』
ピュアの叫びが、呪いの館に鳴り響いた。
いや、俺の家は別に呪いの館ではないのだが・・・。
「ん?あ!?え?ごめん。寝坊したみたい。ラック起こしに来てくれたのね」
ピュアの叫び声でエビちゃんが目覚めたようだ。
昨日の今日なのに女装が板についているな・・・。
寝起き姿も妙に艶っぽい。おかしい・・・俺がおかしいのだろうか?
ピュアの叫び声を皮切りに、三人がバタバタと身支度を始める。
どうやら、みんな目覚めた様だ。俺は目覚めていない事を祈る。
『何に』とは言わないが・・・。
賑やかに、各々に動き回る音が響く。
俺は再度、一階に戻り朝食の準備を始める。
静寂に包まれていた、この家に自分以外の人の動きを感じる。
それは俺にとって、とても非日常な空気だった。
それは俺にとって、とても心地よかった。
「賑やかだな・・・」
今まで気付かなかったが・・・気付かない振りをしていたのだが、しかしハッキリと確かにその身に張り付いていた焦燥感。自分自身の存在が揺らぐ様な不安感。
俺は、これの名前を知っていたが・・・捉える事が出来ずにいた。
それが今まさに目の前にいて、その背中を眺めている、そんな気がした。
その名前は・・・『孤独』。
俺は、その背中にそっと別れを告げて新しい生活を受け入れる。
「みんな朝ごはん食べるよな?」
「食べます!と言うかラックは何時から起きてたんです?」
「五時くらいかな?」
「「「はやっ!」」」
パン職人の朝は早いのだ。




