パンダ
彼が差し出したのは、1つの大きなパンだった。
1個で十食分はくだらない。巨大なパン。
それを切り分けて私達四人で頂く。
切った瞬間に分かるフワッと感。外はカリッと、中はモチッとの理想的な感触。
間違いない・・・
これはパンだ!
最初からパンだと言ってましたね。
ここで私は少し冷静になります。
「リズの鑑定ではどうなってます?」
私はリズに鑑定を促します。
「パンですね。まごう事なきパンです。パン以外のなにものでもないです」
どうやら普通の鑑定では、ただのパンの様です。
見た目は凄く美味しそうなパンですね。
私達は皆で同時にそのパンにかぶりつきました。
それはパンでした。
最初からパンだと言っています。
しかし、パンです。とても美味しいパンでした。
今まで食べたどのパンよりも美味しいパンでした。
美味しいパンと言われると何を思い浮かべるでしょうか?
まず、食感。もっちもちです。しかし、ふっくらしています。
なぜ、この二つが両立するのでしょうか?答えはこのパンが教えてくれました。
空気を含み膨らんだパンは咀嚼によって押さえつけられ気泡が潰れて萎みます。
よりきめ細かく無数の気泡を含む、その絶妙な塩梅。
それがこのふっくら感を出しているのです。
そして、歯で圧縮されたパンは次に適度な弾力を生み出します。
不快な粘り気や、ベタつきがなく、ただ弾力によって反発する。
これがこの心地よいもちもち感を作り出している。
味は香ばしさ、甘味、塩味。雑味のない、それでいて飽きがこない旨味がある。
何故でしょう、止まりません。一口食べ終われば次の一口を求めていました。
完璧なパンです。カンパンです。違います、それだと別物です。
食べる事で幸せを感じたのは初めてでした。
気付けば私は涙を流していました。
私はその理由が分かりませんでした。
しかし、私達は三者三様の涙を流していたのです。
私はステータスを確認します。
本来の目的を忘れそうになるほどの味でした。
私のステータスは・・・生命力は、全回復していた・・・。
たった一つのパンで、15000以上減少した生命力を全て回復してしまったのです。
それを確認した私は、先程の涙よりも何倍も大きな大粒の涙を流しました。
私は驚いていた。
私は・・・これ程に死ぬ事を恐れていたのだ・・・。
私は生きる事を諦めてはいなかった。
誰よりも生きたいと思っていると自負していた。
しかし、麻痺していた。死が現実的である程に、死が確実に近づく程に、受け入れる準備を心が始めていたのです。
私はそれに、必死で抗っていた。
認めたくなかった。認められなかった。
私はずっとみんなに告げてきた『生きられる」「諦めてはいけません」「必ず大丈夫です」それらは私にも跳ね返ってきた。
そして、決して自分には帰ってこない一言がありました。
『私が何とかします』
私はみんなを助けて、私は・・・。
私は生きたがっていた・・・ずっと叫び続けていたんです・・・。
『誰か・・・助けて・・・』
そんな私を救ってくれたのは・・・
「これは・・・なんですか?」
私はラックさんに問いかけます。
ラックさんはハッキリと端的に答えてくれました。
「パンだ」
・・・
知ってます。




