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愛が憎しみに変わる時

 機は熟しました。

 作戦を決行します。


「助けて!」


 私は逃げることしかできません。今回は時間をかけた大勝負。200回ぐらいは死に戻りました。

 背後にはオークが迫っています。


「どうした! オークに追われているのか!」

 

 斥候部隊はいち早く背後のオークに気付いて攻撃しました。

 そうなっては後の祭り――

 わらわらとオークたちがたちどころに斥候たちに襲いかかります。


「なんて数のオークだ?! ぎゃあ!」


 逃げ惑うリネオス王国の王都。このオークは暗黒の森に住む高レベルオークたち。

 オークたちはスキルを連打。――戦士系と同じく必中スキルでもあるスタンを使います。こうなれば高回避の斥候系ジョブのものたちは無力。


「救援を! 誰か救援を!」

 

 救援がきたところで、死者が増えるだけ。


「数で対抗するんだ!」


 HP1にする即死攻撃を果敢に仕掛ける斥候たち――


「【スペリオルヒール】!」


 上位版ヒールで瞬く間に【オーク】の体力を回復します。


「何してんだお前!」


 私の所業に気付いた斥候が声を荒げますがもう遅いのです。

 そのままスタンを受け、撲殺されました。


「あら? あなたたちに経験値を持ってきて差し上げたのです」


 私は哄笑を上げながら宣言いたしました。悪役令嬢っぽく振る舞って見せましょう。

 悪そのものかもしれませんが、深くは考えません!


「倒せるかどうかは自己責任ですよ?」


 いるんですわよ。大量にモンスターを釣った挙げ句、死んでしまった責任をヒーラーに押しつける前衛連中が。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ヒーラーの緊急スキル【カムホームリバイブ】を発動して帰還します。


「モンスターを供給して、お世話になった王国にご奉仕いたしますね。I hate you♪」


 私は投げキッスとウインクを添えて彼らにモンスターを送り込みます。

 i love youからI hate youへ。

愛が憎しみに変わる時、情けという言葉は消えるのです。


 私の力は本来人を癒やすことしかできません。しかし今は別の用法で行っています。

 【ヘイト】。私が生き残り、かつ戦闘力がないヒーラーで王国騎士団に対抗する手段。騎士たちはヘイト管理と呼んでいました。

 攻撃やヒールでヘイトが発動し、ヒーラー、バッファーほど狙われやすく、騎士や戦士は彼らを護るために早期に敵を殲滅する必要があります。

 仕様把握さえすれば【魔獣使い】ではなくてもモンスターを意のままに操ることが可能です。


 次のモンスターを選択し、小石を投げて【ヘイト】を発動。ただ王都に向かって逃げるのみ。自分にヒールをかければヘイトは維持することができるのです。

 途中でゴブリンの群れをトレインしてしまいますがご愛敬。そちらにはヘイト管理しないので途中離脱します。

 

 斥候系には必中スキル持ちで数が多いオークをぶつけました。次のターゲットは戦士軍団です。

 

 戦士系には――パズルみたいですわね!


 私はスケルトンの群れを引き連れて王都の城門に向かって一直線に逃走します。

  

 ――私は次に戦士軍団がでてくることを知っているのだから。


「スケルトンを町の中に入れるなー!」


 ケルの雄叫びが聞こえます。スケルトンを倒すには魔法が付与されたものか神性な武器が必要。貴方には私が神性属性を付与して差し上げておりましたかお忘れでしょうか?

 

「ダメだ! 聖職者か魔法使いを呼んでくれ」

「こいつらただのスケルトンじゃねえ! ドラゴンボーンウォリアーやリッチも混ざってるぞ! 俺たちの天敵だ!」


 戦士系のジョブはHPが高い反面、魔法抵抗力が低く、モンスター戦では継戦能力が低いのです。燃費の悪い必殺スキルしかありませんからね。

 だからこそ戦士系ジョブと私達ヒーラーは共同でレベリングすることが多かったのですが。


――あなたが悪いのですよ?


 戦士系がスケルトン軍団に対抗する手段はただ一つ。魔法使い系が応援にくるまで持たせること。


 そんなことは不可能なほどトレインして差し上げました。

 たくさんお召し上がりになってくださいね! これで生き残ったら皆様経験値が爆上げです!


 私はスケルトン軍団に押しつぶされる戦士たちを見届けることもなく、再び帰還魔法を発動してセーブポイントに戻ったのです。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「なんてことだ。アグリヴィナがモンスターを引き連れて王国滅亡を企てるのか? しかも何故か神域の蘇生機能が働いていないようだ」


 魔法使いたちを引き連れたバルデマールが呆然と呟いていました。目の前はケルをはじめとする戦士達の死体が積み重なっております。


 瞬く間にスケルトンを掃討しました。範囲攻撃魔法も使える彼らにとっては容易いでしょう。何より魔法抵抗力が高く、魔法が使える高レベルアンデッドも分が悪いのです。


「きっと彼女のことだ。僕達の弱点を知り尽くしている。次はきっと――魔法抵抗力の高いサイクロプスでも連れてくるだろう。敵に魔法を集中させたまえよ?」


 部下に命じるバルデマール。

 ブッブー。

 残念。外れですね!


「ぎゃあ!」

「弓矢があ! 弓矢があ!」

「なんだと?!」


 私が引き連れたモンスターは斥候軍団を滅ぼしたオークと同種族。今回は戦士系ではなく、遠距離系。弓職のモンスターです。

 一つ間違えれば弓矢のクリティカルによって私が死んでしまいます。ほぼ運ゲーではございますが、根性と回復魔法で乗り切ってここまで逃げてきたんですよ! 誰か褒めて!


 魔法使いもヒーラーもいわゆるローブ職。防御力は紙です。

 その魔法使いには弓矢をもった大量のモンスターを。


 モンスターの視線を回避しながら接近する技術は何巡もする再生のなかで学びました。視線を躱しつつ、ぎりぎりの距離で威力の無い魔法をぶつけて釣るのです。最初の猛攻撃さえ生き延びればあとは逃げるだけ!


 私? 攻撃魔法は使わないので戦士から奪った皮鎧を着込みました。ヒーラーは皮鎧を着用できます。小柄な男性用ならぴったりでしたね。 

 鎧を装備することは魔法使いにはできない芸当です。


「何故だ! 攻撃していないはずだ!」

「それは私がヘイト解除の魔法を使ったからですね」


 驚愕しているバルデマールに、私は姿を見せてにっこり笑いました。


「行き場のないアクティブモンスターのヘイトは、魔法に反応します。――たとえそれが攻撃魔法でなくても。あなたならそんな初歩のことなど知り尽くしていると思いましたが? 部下の教育がなってませんね」

「き、貴様…… アグリヴィナ! 本当に私達を殲滅する気で!」

「当然です。心当たりはおありでしょう?」

「おのれー。ぎゃあ!」


 特大の弓矢が突き刺さり、バルデマールが絶命しました。止めを刺したモンスターはヘルオーク・アーチャーリーダー。敵として対時するには真っ先に倒さなくてはいけない危険な相手です。

 ……本当にこの弓矢痛いのです! 何度殺されたことか!


 最後は王族を護るための騎士団が相手です。火力こそ低いですが物理防御も魔法防御も高く、一瞬だけ火力を高めるスキルやヘイト管理に熟達した、敵に回すとこれ以上にない手強い相手。

 斥候や魔法職は弱点が多く、戦士系を早めに殲滅できたことは僥倖でした。燃費が悪く狩りでは役立たずといわれる反面、対人では強いので厄介な連中です。


 もはやヒールを使った回数を超えたのではないかと思うほどの【カムホームリバイブ】を使用し、セーブポイントに舞い戻ったのです。


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