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3.タコさんウインナーはあと三回の変身を残している

「ところで、今日泊まっていくってことは明日は弁当作った方がいいよね?」


「大変じゃなきゃお願いしてもいい?」


「ん、おまかせあれ」


 夕食後、テレビを見ながら聞くと詩織は申し訳なさそうに返事をした。

 僕はそんな詩織の肩を抱き寄せ、髪が崩れないように頭を撫でた。


「前も言ったと思うけど僕はね、僕が作ったものを詩織が美味しそうに食べてくれるのが好きなんだ。今日も夕飯美味しいって言ってくれて、あぁ作った甲斐があったなって温かい気持ちになったんだよ。だから弁当を作ることに重圧とか感じてないから気にしないで」


「うん……けど、私何も手伝えないから……」


「じゃあ今度から料理少し手伝ってみる?」


「失敗しちゃうよ?」


「別にいいよ。詩織が手伝ってくれたものならどんな失敗作だって僕は喜んで食べるから」


 今や男女平等なんかを謳って男も家事育児をするべきだなんて風潮があるけど、できるけど分担して負担を減らすのと出来ないからやってもらうのとだと精神的にも大分違うだろうし。

 皿を割ったりなんてミスを繰り返してから詩織自体に家事への苦手意識ができちゃってるだろうから少しずついろいろなことができるように練習していったほうが健全な生活が送れる気がする。

 僕だってミスくらい平気でするんだから詩織には極力失敗を恐れず挑戦してほしいもんな。


「どうせ明日も夕飯食べてくんでしょ? まずはそこで手伝いしてみる?」


「……うん。じゃあ頑張ってみようかな」


「不安かもしれないけど僕も最大限協力するから大丈夫。失敗しても何とでもなるよ。だからそんな不安そうな顔しなくていいんだよ」


 僕がそう言いながら抱き寄せる力を強めると、詩織は向かい合うように僕の上に乗って来るとそのまま肩に顎を乗せるように抱き着いてくる。

 僕はそんな詩織の背中に両手を回してぎゅっと抱きしめると赤子をあやすように背中をトントンと優しく叩いた。

 横目で時計を見ればもうすぐ九時。

 明日も学校であることを考えれば遅くとも十一時には寝たいところ。


「そろそろベッド行く?」


「……ん」


 そう聞くとこくりと頷いたので僕はそのまま詩織を抱っこして寝室へと向かった。

 道中詩織は僕に顔を見せてくれることは無かったけど、ただ恥ずかしがってるだけだとわかっていたから微笑ましい気持ちになっただけだった。



 ***



 翌朝、セットしていた目覚ましの振動で目が覚めると、目の前には穏やかな顔でスヤスヤと眠っている詩織がいた。

 起こさないようにそっとベッドから抜け出すと、頭を一撫でしてから浴室に向かう。

 昨晩は結局盛り上がって眠ったのは日付を跨いでからだったのもあって汗を流すために軽くシャワーを浴びようと思ったのだ。

 詩織もいつもより少し早めに起こしてシャワー浴びる時間を作ってあげないとだな。


 シャワーを浴びたら制服を着て、朝食と弁当を作る。

 ブレザーは汚れなんかが怖いから着ないで置いて、ワイシャツの上からエプロンを身につける。

 朝食のメニューは無難に目玉焼きとかでいいだろう。

 昨夜米は炊けるようにセットしておいたので時間になれば勝手に炊ける。

 味噌汁はインスタントでもいいだろう。


 弁当の方が時間がかかるので先に弁当から仕上げていく。

 結構頻繁に詩織が泊まるのもあって家には僕用の他に詩織用の弁当箱も常備されていた。

 二つの弁当箱を出して、冷蔵庫の中身を見ながらおかずを考える。


 冷凍の唐揚げとかあるから肉系はそれでいいけど、色味が茶色っぽくなっちゃうのが心配だな。

 男の僕はそれでもいいかもだけど、花のJKである詩織は茶色ばかりのお弁当は可哀想だろう。

 可愛さも兼ね備えた食いでのある最強の弁当を作らなければならないわけだ。


 野菜も入れたいから緑色枠でブロッコリーを入れつつ、もうちょっとおかずが欲しいだろうしタコさんウインナーとか入れたら可愛いかな?

 たこさんウィンナーといえば、前に何かでタコさんドックとかいう派生系を見たことがあったけど、どうやって作るんだろう。

 名前的にアメリカンドックが由来っぽいけどアメリカンドックの衣って何でできてるんだ?

 ……考えても分からないからスマホで検索した方が早いな。


「えー、タコさんドックっと……」


 調べると個人ブログやらクッ○パッドやら色々なサイトで作り方が出てくる。

 適当に一番上のサイトを見ると、どうやらホットケーキミックスで作れるようだった。

 記事を読みながら手順に沿ってタコさんドックを作っていく。

 足部分を八等分にしてからミックス生地を頭部分にくっつける。

 それを油で揚げるとタコさんドックの完成だ。


 生地があるだけこれを繰り返していくと、少し生地を作りすぎたのか弁当に入り切らないほどのタコさんドックが出来てしまったがまぁ、余った分は朝食に回せばいいだろう。

 余談だが、タコの足は一般的に八本とされているらしいが一本切られたら二本に増えて生えてくるとかいう性質があるらしくすごい数の足を持ったタコとかもいたらしい。

 九本足のタコとかはそういう原理で生まれるそうな。


 弁当に入れる分を確保して他を朝食用の皿に盛り付ける。

 これで弁当の二品目はできたのでブロッコリーを茹でつつ卵焼きを作る。

 どうせなら黄色もあった方が見栄えいいだろうし。

 卵焼きに関しては一定のこだわりがあって、卵焼きって多分二つの派閥に別れると思うんだ。

 最終的には色んな味があるのはわかってるんだけど、極論言っちゃえば甘い卵焼きと、甘くない卵焼きの二択になる。

 僕は甘い卵焼きの方が好きで、外で買った弁当とかに甘くない卵焼きが入ったりしてるとちょっと残念な気持ちになったりする。

 そのくらい甘い卵焼きが好き。


 そして詩織はこんな僕が小さな時から甘い卵焼きの素晴らしさを身体に教えこんできた結果、見事に甘い卵焼き派閥に入れることに成功していた。

 ということで完成した甘い卵焼きを切って弁当に詰め込んで、茹でてたブロッコリーを水に晒して水切って盛り付けておかずは完成。


 ご飯は基本おにぎりのほうが食べやすいと思ってる質なんだけど、今日は何味にしようか。

 混ぜ込みわ○めって美味しいけど同じ味ばかりだとだんだん飽きてくるよね。

 昨日は梅じそ味だったから、今日は鮭とかがいいかな。


 気づけば炊き上がっていた米をボウルに移して混ぜ込み鮭を適量入れる。

 それをムラなく混ぜ合わせて握る。

 僕のは大きめのやつを一個で、詩織は小さめのやつを二個。

 出来上がったおにぎりに海苔を巻いていく。

 それをラップで包んで弁当完成。


 時間は六時ちょい過ぎ。

 そろそろ詩織を起こしてシャワー浴びてもらわないと後がバタついてしまう。

 朝食もほぼ完成出し起きてもらうとしよう。


「そろそろ起きて。おーい、詩織ー?」


 寝室に行って、寝入っている詩織の頬をムニムニと触りながら起こす。


「ほら、起きないとイタズラするよ?」


 僕がそう耳元で囁くと、ピクっと反応して寝たフリを続ける。

 そんな詩織の鼻を摘むと眉間に皺を寄せながらゆっくりと目を開けた。


「おはよ」


「うー、もうちょっと違うイタズラないの?」


「これ毎回やってるから。本当は六時にアラームで起きてるの知ってるし、こんな茶番に付き合ってあげるだけ感謝して欲しいよ」


 そういうと、文句をたれる詩織のおでこにキスをして部屋を出た。

 部屋を出る際にちらっと様子を見ればおでこを手で押えて顔を赤くしながら驚いた様子でこっちを見つめる詩織の姿があった。

 僕はそんな詩織の顔が面白くて気分よく朝食の準備を終わらせた。



 ***



 あの後シャワーを浴びた詩織と朝食を摂って、そのまま一緒に家を出た。

 想像していた通りタコさんドックにテンション爆上がりした詩織に今度一緒に作りたいとお願いされて作った僕も嬉しくなった。


 僕達の家から学校までは電車で二駅行かないといけないので、乗り遅れないように少し早めに家を出ている。

 駅までの道中、毎度の事ながら結構な視線を集めてしまっていた。

 原因は言わずもがな詩織の存在だ。

 外見が相当に整っているうえに学生に似つかわしくないほどにまで成長してしまったそのお胸。

 歩くたびに上下するそれに視線が勝手に吸い寄せられてしまうのはわからなくもない。

 ただそれが気にならないかといわれるとそうでもないわけで……。

 僕は半歩詩織に近づくとそっと手を握った。


「また?」


「まぁ……いつものだな」


「もー、別に直接何かされたわけでもないから見られるくらい気にしないのに」


「詩織が気にならなくても僕が気にするんだよ。下心マシマシで見られるのなんか嫌じゃん」


 独占欲が強いってのはわかってるけど、それでもこのお胸様を拝めるのは僕だけであってほしいという気持ちもある。

 もういっそのこと体形が分からないように全身鎧みたいなの着せて登校しようかな。

 ネットで一万円せずに買えるだろ鎧くらい。

 恥も外聞を投げ捨てて無敵の人とかになればやってやれないこともないだろう。


「さっさと行こう」


「ふふっ、うん!」


 僕が手を引いて歩きだすと詩織は笑いながら僕の腕に抱き着いてきた。

 いきなりのことに心臓が跳ねるけど、同時に僕のささくれだった心が浄化されていくような気さえしてくる至高の感触だった。

 なるほど天国(エデン)はここにあったのか……ッ!

 僕は顔が緩みそうになるのを必死にこらえながら駅に向かったのだった。


 駅について電車を待っている間に、ちらほらと同じ学校の生徒が見え始めた。

 初めのころは僕も詩織も結構話しかけられたりしてたけど、こうして二人で登校することが続くと次第に話しかけられることも少なくなった。

 それでもやっぱり見られるのはもう諦めるしかないのだろう。


「今日って体育あったっけ?」


「四時間目にあったと思うけど。なに? ジャージ忘れたの?」


「いや、学校に置いてあるけど飯前に体動かさせられるの面倒だなって」


「あー、分かる。時間割って誰が考えてるんだろうね」


「さぁ? 水泳の後に国語とか中学の時もよくあったけど絶対あれ眠くなるように授業組んでるよ」


 それで寝てたら先生に目をつけられるんだよな。

 本当に未だに納得いってないからね、あの時めちゃくちゃに怒鳴り散らしてきた国語の沢田先生。


「お昼の後の授業は毎回眠くなっちゃってダメだなぁ」


「詩織いつも寝てるよね、睡眠時間足りてない?」


「や、普通に時間の問題だと思う。最近なんて暖かくなってきたから余計にね」


「隣の人とかに起こして貰えないの?」


「真尋以外に起こされるとめちゃ不機嫌になるよ私」


「詩織ってそんな寝起き悪かったんだ……」


 なんだかんだいつも素直に起きてくれるから全くそんなこと知らなかった。

 もしかしてクラスで僕って詩織の目覚ましだと思われてる?


「電車来たね」


「あー、今日も混んでるなぁ……」


 時間が時間と言うこともあってちょうど通勤ラッシュなんだよね。

 もっと始発付近の駅なら人も乗ってないらしいけどちょうどど真ん中ら辺だからめちゃめちゃ人乗ってるんだよな。


「ほら、こっち来て」


「ん……」


 僕達は電車に乗り込むと、何とか壁側に詩織を追いやって人側に僕が乗る。

 過去に一回普通に乗って詩織が痴漢にあったことがあってから毎回こうして僕が守るようにしている。

 満員レベルに混んでる時は壁ドンみたいな状態になることもしばしばあるけど、詩織に危害が及ぶことに比べれば周りからの視線とか気にならない。


「今日はちょっと多めだね」


「うん。詩織は大丈夫? 体勢が辛い様ならもうちょっとこっち寄ってもいいよ?」


「ううん、大丈夫。真尋が守ってくれてるから私は苦しくないし」


「ならいいけど」


 ここから学校までの二駅、詩織にも無駄な接触をしないように人混みから守るとか実質体幹トレーニングみたいなものだよね。

 まぁお陰様でベッドの上では無双できてるわけなんですけれども……。


「あれ、珍しいね第一ボタン外してるの」


「あぁ、最近暑くなってきたからそろそろキッチリ留めてると苦しいんだよね。もうちょっとで衣替えだしそれまでの辛抱だけど」


「確かに今の気温でブレザー着てるの暑いよね。かと言ってワイシャツだけってなるとちょっと透けるの気になるしなぁ」


「下着の上になんか着ればいいんじゃないの? 半袖Tシャツとか」


「んー、そうなんだけどさぁ……」


 女子には女子のなにかこだわりみたいなものがあるんだろうか。

 男なんて衣替えしたら即ワイシャツになるのに。

 結構ギリギリまでブレザー着てる女子いるし、そういう何かが関係してるんだろう。

 僕が理解できないのは純粋に女心が分かってないんだろうな。


「まぁいいや、それよりもうすぐ夏休みだよ! どこ行く!?」


「……なんでどこかに行く前提なのか分からないけど、遊び行くとしたら課題終わってからだからね」


「んぇぇ……ちょっとくらい良いじゃん」


「そう言って詩織はいつも後回しにして最終日に泣きついてくるんだからダメだよ。僕も一緒にやるからさっさと終わらせちゃおう」


「うぅ……わかったよぉ……」


「ま、その前に期末テストも待ってるんだけどね」


「……思い出させないで欲しかったなぁ」


 詩織は決して頭は悪くないのに、勉強が嫌いなせいで高得点を取れない。

 下手したら赤点すら有り得る教科に関しては僕が教えて何とか乗り切って来てはいるけど、それでももう少し勉強にもやる気を出してくれれば安心できるんだけど……。


「今回は大丈夫?」


「うっ……あっ、ほら、もう降りる駅だよほら!」


「露骨に話を逸らして……またテスト期間始まったら勉強会するからね」


「やりたくないのぉ!」


「僕より点数取れるようになったら色々言わないよ」


「無理言わないでよっ!」


 ペシペシと腕を叩いてくる詩織を連れて僕は電車から降りる。

 まだ今日は登校しているだけだと言うのに詩織のテンションは家を出た時とは打って変わってダダ下がりだった。

 どれだけ勉強したくないんだろうか。


「頑張ったらなにかご褒美用意してあげるから勉強頑張ろう」


「……夏休み一緒に過ごして」


「そんなのご褒美関係なくしてあげるよ?」


「海とか遊園地とか行きたい」


「それもご褒美じゃなくてもいいけど」


「じゃあ休み中一緒に寝て」


「そんなことでいいの?」


 むしろ休み中と言わず何時でもウェルカムなんですが?

 歩きながら他のご褒美を考えているのだろう、フラフラと歩いている詩織の腕を引いて僕は学校へ歩を進めた。

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