桜色の追憶
あの日なにも言えなかった自分を
弥生の空に舞い散る花弁を見るたび思い出す
継ぎの当たった詰襟を着た自分は
糊の効いたセーラー姿の貴女と釣り合わない
断り文句を口にしようと顔を上げ
期待の眼差しに気付きそっぽを向いてしまい
喉まで迫り上がる言葉を飲み込む
再び面を下げた自分は乱暴に第二釦を千切り
強引に小さな掌へ押しつけ逃げた
自分の名を呼ぶ戸惑いに満ちた貴女の声音は
今でも耳の奥深くに反響している
もしあの日の自分に助言することが可能なら
どんな箴言が役に立つのだろうか