幕間.王都にて その男、トラブルメーカーにつき
「はぁ……」
一体何度目だっただろう。シルバーブロンドの髪を首元でくくり、頭には三角巾をし、亜麻色のエプロンをかけ、手にミトンをはめた女性。彼女は窯から熱々のキッシュを取り出してテーブルに乗せた後、悩まし気な息を小さく吐いた。
お付きのダークエルフ達が彼女を痛まし気にそっと見やる。しかしそんな視線にも気づかぬほど、彼女――ダークエルフの女王ドロテアは、随分と気落ちしている様子であった。
理由は皆が分かっている。少し前に、ライトエルフ達が王都を発ったからだ。
そしてその中に、ドロテアが殊更可愛がったライトエルフの女王、ヴェティペールもいたからだ。
彼らが王都から去った後、気落ちするダークエルフ達は非常に多かった。しかしドロテアはそんな彼ら以上に堪えた様である。
菓子作りのモチベーションも相当に落ちてしまった様子で、あまり身が入っていない事がはた目にも分かる有様だった。
「……ボツじゃな」
粗熱を少し取ってから、キッシュを切り分けたエルフ達。椅子に座りニンジンのキッシュを一口食べたドロテアは、難しそうな顔を見せた後、ぽつりと一言だけ溢した。
サクサクとした生地の食感は良い。しかしニンジンの甘さの引き出し方が今一足りない上、生地と上手く噛み合わない。
何よりも、今一つ特別感がない。パンチが無かったのである。
「味がどうもぼやけておるの。うーむ……折角ニンジンを使っておるのじゃから、ニンジンの旨味を引き出せるようなものにしたいのじゃが。何か良い案はないものか……」
キッシュを目の前に悩むものの、どうにも頭が上手く回らず、良い考えが浮かばない。お付きの者達もそれぞれキッシュを口に運び、ドロテアと同じ感想を持ったようだ。
「生地にもニンジンを入れてみてはどうだろうか」
「それだとくどくなるのでは? それよりも、ニンジンを少し焦がしてコクを出したらどうだろう」
「そうすると折角のニンジンの甘さの邪魔になるのでは?」
彼らは悩まし気なドロテアの横で活発に意見を出し合い始める。それをドロテアは横目でちらりと見たが、口を真一文字に結んだまま三角巾を頭から取って、ゆっくりその目を閉じてしまう。
以前ならドロテアもその中に混じり、自分の考えを積極的に口に出していたはずだ。しかし今の彼女には妙案が無いばかりでなく、そうしようという意欲すら失われていた。
椅子に座ったまま目を閉じるドロテアは、まるで彫像のように動かない。
「――普通に美味しいじゃないですかコレ」
だがそんな時、思わぬ低い声が聞こえて、ドロテアは思わずそちらを向く。
そこには調理場に似つかわしくなく、ダークエルフの戦士が着る戦闘服を着て腰に剣を吊るした男が一人、キッシュにフォークを突き刺して、もぐもぐと口を動かしている姿があった。
ダークエルフの戦士長、 バイエン・ガド・エルトルートであった。
「何をしに来よったバイエン。ここは調理場じゃ、清潔にしておらん奴は立ち入り禁止じゃ。直ちに出て行くが良い」
途端にドロテアの眉間にしわが寄る。ドロテアはこの能力はあるものの、癖が強く扱いづらい男の事を、あまり好ましく思っていなかった。
度々問題を起こす男でもある。そう思われても仕方のないところはあった。何せ研究室一つを吹き飛ばした事もあるのだ。その評価は自業自得であった。
が、バイエンはそんな事を気にする男ではなかった。自分の仕えるべき女王が自分を見て嫌そうな顔をしていると言うのに、彼は全く気にする素振りも無く、銀縁眼鏡――伊達である――のブリッジを中指でくいと持ち上げた後、もう一つのキッシュにフォークを伸ばしてぶすりと刺した。
「そう言われると思い、入る前に手は洗いました。それに僕は菓子作りに興味は無いので、何かをするつもりもありませんよ」
「……ならば良いが。じゃが決して儂の邪魔をするでないぞ」
「承知しました。ですが余った試作品を食べるくらい構わないでしょう? ――うん、やっぱり普通に美味しい」
悪びれもせず言ってから、また同じ言葉を口にしたバイエン。彼の感想は思ったそのままなのであろうが、しかしその”普通に”という所がドロテアは気に食わなかった。
「……普通に美味い、か。じゃが普通では駄目じゃ。我らは歴史に残るレシピを考えねばならぬのじゃ、その程度では納得できぬ」
「はぁそうですか。これでも十分だと思いますけど」
前言通りさして興味もなさそうに言うバイエンに、女王もこれ以上相手にする必要も無しと彼を意識から切り離す。
「あ、そのニンジンの葉っぱ、使わないなら僕に下さい」
が、そこで彼が意外な事を口にしたため、女王は再び彼へ目を向けたのだ。
見ればバイエンは脇に積まれたニンジンの葉っぱを指差している。これを一体どうするのか。ドロテアはその用途が分からず、思わずバイエンに声を掛けていた。
「待てバイエン。お主、葉なぞ一体何に使うつもりだ?」
「はい? いえ、そりゃ素揚げにして酒のつまみにするんですよ。ここだとつまみは色々ありますが、故郷じゃニンジンの葉っぱをよくつまみにしたもんです。苦みが意外といけるんですがね。陛下はそう言った経験はおありで?」
尊い身であるドロテアがそんなものを食した経験があるわけが無い。ニンジンの葉っぱなぞ可食部でないとすら思っていたのだ。
ここにいた他のエルフ達もそうだった。何せ女王の傍にいられる者達だ、高い身分の者達ばかりで、そんなものを口にした経験は一度たりとも持っていなかった。
だがそこにもたらされたこの情報。ドロテアが見れば、お付きの者達は早速ニンジンの葉っぱを素揚げにしようと動き出している。
数分程して出来上がったニンジンの素揚げ。
さっと揚がったそれにドロテアは少量の塩をつけ、口に運ぶ。
彼女の両目がカッと見開いた。
「――これじゃ」
お付きの者達も次々に葉っぱを口に運び、うんと大きく頷いた。
彼らの動きは速かった。
「ちょっと、酷くないですか? 僕の晩酌分くらい下さいよ」
「そんな話は後にせよバイエン。今はこの閃きが失われる前に行動せねばならんのじゃっ」
何か言っているバイエンを皆で無視して、ドロテアはお付きの者達と連携し、手際よく再びキッシュを作り始める。
生地を練り、そこに軽く炒って刻んだニンジンの葉っぱを混ぜ込む。それを窯に入れて焼いている時間に、キッシュの中身となる液状の生地、アパレイユをニンジンをベースに作っていく。
そうして三十分が経つ頃には、彼らの目の前にニンジンの葉入り試作第一号が三つ、テーブルの上に並んでいた。
橙色の中身と深緑色の生地は、ニンジンの配色そのものだ。見た目にも楽しいキッシュに粗熱を取る時間ももどかしく、数分”そよ風”の魔法で冷ました後、彼らは早速ナイフを入れて切り分け始めた。
まず一切れ皿に取ったドロテアは、一口分を切り取り口へ運ぶ。ニンジンの風味がほんのり甘いフィリングが口の中でふわりと崩れ、かと思えばその後に、独特の苦みのある生地がさくりと弾ける。
甘さと苦さが交じり合う。
だがどちらも元々ニンジンだ。調和しないはずが無い。
自然とドロテアの口から言葉が出ていた。
「美味じゃ」
まだ粗削りで詰めなければならない部分は多い。しかし、方向性は決まった。
わっとキッシュを取り始めたエルフ達。彼らもドロテアと同じ感想を抱いたようで、早速更なる試作を行うべく、わいわいと議論に花を咲かせていた。
残りのキッシュを頬張るドロテアは彼らの議論を聞きながら、その意見を頭の中で咀嚼し、自分の舌でそれを吟味する。そして彼らの意見に口を挟みつつ、頭の中で第二試作の構想を練っていく。
そうして十分程が経ち、ドロテアの中で次の構想が凡そ固まった頃だった。議論をする者達から外れてたった一人、もりもりとキッシュを食べるバイエンの存在に、ドロテアはやっと気が付いたのだ。
(そう言えばこ奴、一体ここに何をしに来たのじゃったか? ……聞いておらんかったような気がするの)
バイエンという男は興味のある対象にのめり込む一方、そうでないものにはかなり冷めている男だ。
そんな男が料理場にわざわざやって来た理由は何なのだろうと思い、
「バイエン。そう言えばお主、一体何をしにここに来たのじゃ」
ドロテアはそう彼に声を掛けたのだ。
「成程、葉っぱの苦さが甘みを引き立てるのか。先程の甘いだけの物も美味しかったけども、これもこれで中々いけますね」
「バイエン。聞いておるのか?」
「つまみにはこちらの方が適していますね。葉っぱはどうやら譲って頂けないようですし、代わりにこちらをいくつか貰って行くとしましょう」
だが一人で何やらぶつぶつ言うバイエンは、女王の言葉が全く耳に入っていないようだった。
彼は集中すると人の話を聞かない嫌いがある。そのためドロテアは更に大きな声で、彼の注意を引こうと呼びかけた。
「おいバイエン! 儂の話を聞かんか!」
「ん? あ、はい。何でしょう陛下」
そうしてやっと反応した彼だが、態度はまるで悪びれもしていない。そこにイラつきながらも、ドロテアは冷静になれと一度ため息を吐いてから、再度彼に問いを投げたのだ。
「何用でここに来たのじゃと聞いておる。さっさと答えよ」
「え? ……ああ、そうでした。すっかり忘れていました」
そんな女王の苛立ちを知ってか知らずか、バイエンはまた銀縁眼鏡をくいと中指で持ち上げると、フォークと皿を離さぬまま、ドロテアにこんな事を言ったのだ。
「ユーディット殿下が女王陛下に、お茶でもどうかと言ってましたよ」
今までわいわいと賑やかだった調理場が、その言葉に一気に静まり返った。
動きを止めるお付きのダークエルフ達。ドロテアも一瞬何を言われたか分からず動きを止める。
「早く返事をした方が良いんじゃないですかね」
動いているのはそんな事を言いつつキッシュを頬張るバイエンだけであった。
「――は?」
ドロテアが言えたのはこの一言だけである。それにバイエンは「ですから」と再度同じ事を言った。
「ユーディット殿下が女王陛下とお話がしたいと、そう言っておられましたので、僕はここに来た次第なのです。ご理解頂けましたか、陛下」
ユーディット殿下。それはこの国の第一王女にして王子エーベルハルトの妹である、ユーディット・クリスタ・アインシュバルツ以外になかった。
バイエンがここに来て、一体どのくらい時間が経ったのだろう。もしかしたら一時間以上経っているのではないか――。
ドロテアは次の瞬間、勢いよく立ち上がっていた。
「ば、馬鹿者ッ! なぜそれを最初に言わんッ!?」
「いえ、陛下が邪魔をするなと仰っていたので、きりの良いところまで待とうかと思いまして」
「たっ、確かに言うたが! 何を置いても先に言うべき事であろうがっ! というかなぜ戦士長であるお主がそんな話を儂に持ってくるのじゃ!」
「ああ、たまたま殿下の目に止まったのが僕だったらしくて。僕も暇だったので自分でお伝えに行こうかと。身分からすれば陛下の方が上でしょう? 多少待たせるくらい問題にならないと思ったのですが、何か問題が?」
「キッシュを作っていたから待たせたなぞ言えるかッ! 相手は王族じゃぞ!!」
興味が無さすぎるにも程があるだろう。ドロテアは頭を掻きむしりたい気持ちで一杯になりつつも、こうしてはいられないとエプロンを脱ぎ捨てた。
「先触れ! 後十分で行くと殿下にお伝えせよっ!」
「はっ!」
慌てて飛び出して行く一人のダークエルフ。その間にもドロテアの外観を整えんと、お付きの者達が慌ただしく動き始めた。
「うーん……でも、僕はさっきの甘いキッシュの方が好みですね。まだ余っているようだしそちらも貰って行きましょう」
そんな中でもキッシュを頬張るバイエンに、その場にいた全員の鋭い視線が突き刺さる。だが彼は全く気にした様子もなく、しれっとその場に残り続けていた。
普段はこんなだが、彼は戦士長としては有能なのだ。
彼が戦士長となってから、ダークエルフの戦士団は彼の指導の下訓練する事でかなり練度を増し、先の戦争でもかなりの活躍を見せた。
まだライトエルフと仲違いをしている時にも、誰もが眉を顰める中これも良い機会だとかしれっと宣って、ライトエルフの戦士団とも彼は積極的に交流し、早いうちから彼らと上手く連携が取れるようになった。
それが二つのエルフ達の仲を良くする一つの切っ掛けともなった。
戦士長としてはダークエルフ、そしてライトエルフ達にも非常に頼りにされている存在なのだ。だがあまりにもこの男はマイペース過ぎて、時々思わぬところでおかしな行動を取り、妙な失敗をする。
女王の胃にダメージを与える事もしばしばあって、バイエンという男はドロテアにとって、あまり顔を見たくない存在となっていた。
(この男は……っ! くぅっ、分かっていたが――やはり、儂は好かんっ!)
皆の厳しい視線を受けても、まるで気にしていないバイエン。その悪びれもしない顔を前に、ドロテアは一人歯噛みをしたのであった。
------------------
「ドロテア様ったら遅いわねぇ。何かあったのかしら?」
王宮にある第一王女の私室で、テーブルに頬杖をつき足をぶらぶらさせる一人の少女。白いドレスを着る彼女は群青の長髪を指先でくるくると弄びながら、誰ともなしに呟いた。
彼女の名はユーディット・クリスタ・アインシュバルツ。この神聖アインシュバルツ王国の、第一王女その人であった。
「姫様、行儀が悪いですよ。お止め下さい」
「誰もいないじゃない。誰も見ていなければ、していないのと一緒よ」
部屋に控える一人の近衛騎士が注意するも、ユーディットは全く悪びれもしない。そればかりか得意げな目を向けてくる始末である。
「私がおります」
「何言ってるの。ヒルデはノーカウントよ」
「姫様……」
「良いじゃない。大丈夫、必要があるときはちゃんと取り繕うから。私、こう見えてネコ被るの上手なのよ? ヒルデも知ってるでしょ?」
諫めるも、柳に風だ。全く、一体誰の影響を受けたのか。
分かり切った事を自問しつつ、近衛騎士ヒルデガルド・シェルは痛む頭を我慢するように、ぎゅっと両目を瞑ったのだった。
五年前、魔族の襲撃により王都が陥落寸前となった時、このユーディットもまた兄エーベルハルトと共に、王都を脱する一団の中にいた。
その時、彼女はまだ九歳。王都や敬愛する父と母を捨てて逃げ出さなければならない現実を幼い彼女は受け止めきれず、旅の途中毎日泣き腫らしていたのだが、そんな彼女を支えたのがこのヒルデガルドであった。
王女殿下付きとして、当時同期の近衛騎士だった現第二師団長のジェナスや、少数の侍女らも付き従っていたが、王女と最も心を通わせられたのはヒルデガルドだった。
ヒルデガルドは四人姉妹の長女であった。女児の扱いは慣れており、だから王女に一番寄り添えたのであろう。
初めての城の外、そして敗走の旅という現実に怯える儚く可憐な少女を、ヒルデガルドは絶対に守り抜いてみせると己に誓った。
王都を見捨て、逃げるように進む旅は心身共に辛かった。しかし彼女は自分の何を犠牲にしようとも、この少女を救ってみせると、そう心に誓ったのだ。
「ヴェティペール様が行っちゃって気落ちしてるだろうと思ってドロテア様を誘ったのに、何だか余計な事しちゃったかなぁ。ね、どう思う? ヒルデ」
「気落ちされているのは姫様の仰る通りかと存じます。お二方は随分と懇意にされておりましたし」
「そうだよねぇ? だから私の話し相手には打ってつけだと思ったのに。最近面白い話が何にもなくって、退屈なんだもの」
「姫様。ドロテア様に失礼ですよ」
だが。そんな儚い少女はどうやらあの旅を切っ掛けに、随分と太々しくなってしまった様子である。
時々ため息を吐きたくなる時もある。今日もまたヒルデガルドはそんな気持ちを押し殺し、王女を一人諫めていた。
「それだけじゃないのよ。何かね、帝国の第一皇子が近々来るらしいのよ。何の用かは私も詳しくは知らないんだけどね。まあこの前、帝国が戦争を仕掛けて来ようとした時の事絡みだとは思うけど」
「姫様。そのような事を私に話しては――」
「でもさ、帝国って怪しくない? だからドロテア様はどう考えるかなぁって。ほら、ドロテア様って長い間女王してるじゃない? だから意見を聞いてみたいなぁって思ってね」
そうして王女に声を掛けるも、王女は全く聞いていない。ヒルデガルドは王女をこんな風にした男を少々怨めしく思いつつも、勝ち得たかけがえのない平和を一人、存分に噛み締めていた。
「あーあ、エイクおじさんだったら第一皇子に何て言うかなぁ。とりあえず一発殴らせろや! とかかなぁ、やっぱり。帝国の事すっごい嫌いだもんねぇ。流石に国家間の問題になるから、言っちゃダメだけどね」
くすくすと楽し気に笑うユーディット。彼女は五年前、敗走した現実に打ちのめされた兵らの士気向上のためと、幼い身でありながらプロバガンダに利用されそうになった事があった。
泣き暮れる王女には到底できない重責だと、ヒルデガルドは王女を守るため必死に抗った。しかし王子や騎士団長に命令をされてはどうする事も出来ず、諦めかけたそんな時、ヒルデガルドに思わぬ援軍が現れる。
それはまさかの最近仲間になったという、山賊団の一味であった。
山賊達は「ガキに大人の責務を押し付けてねぇで、まずテメェらが全力でやってみてから言いやがれ!」と激しい抵抗の末王女を守り、その後王女をさんざん甘やかしてくれた。
そのためあろうことか王女は山賊達に大変懐く事となり、今や彼らに少しばかり染まってしまってもいたのだ。
「それにしてもドロテア様は遅いわねぇ。もう私から行こうかしら?」
「お止め下さい。するにしてもまず先触れを」
「分かってるってば。冗談よ、冗談」
椅子から立ち上がった王女を諫めれば、またもユーディットはけらけらと笑った。
思わず一歩踏み出してしまったヒルデガルドの銀の長髪がさらりと揺れる。こうして人をよく揶揄うようになったのもあの男のせいである。山賊風味の王女にヒルデガルドは翻弄されてばかりだった。
エイク様親衛隊No.10、ヒルデガルド・シェル。
彼女の悩みは尽きない。
しかし戦時戦後変わらず、彼女の誓いはユーディットにある。
いついかなる時でも、自分はこの愛すべき王女を守ってみせよう。その思いは平和であるこの時においても、かつてあの山賊に「王子だろうが騎士団長だろうが引くんじゃねぇ! テメェが死守しなきゃ、一体誰がこのガキを守るんだよっ!」と怒鳴られて、柄にもなく怒鳴り返してしまったあの時抱いた決意と、何ら変わらない熱さを持っていた。
なおこの少し後にドロテアがやって来るのだが、珍しく慌てた様子のダークエルフの女王に、なぜ遅れたのか事の次第を聞き出して、ユーディットが大笑いする事になってしまって。
王女らしからぬ振る舞いにヒルデガルドが内心頭を抱えたのは、言うまでも無い事であった。