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元山賊師団長の、出奔道中旅日記  作者: 新堂しいろ
第六章 迷いの森と闇の精霊
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326.正門前での乱戦

 武器を手に襲い掛かって来る闇夜(あんや)族達。それを俺達は真正面から迎え撃った。


『おおおおーッ!!』

「はぁあッ!」

「おりゃおりゃーっ!」

「うおおおおおっ!」


 武器と武器とが激しくぶつかり合う。戦場と化した正門前は瞬く間に剣戟の音で埋め尽くされ、それに混ざり合うように雄たけびのような怒号が響き渡っていた。


「おおおおおーッ!!」


 俺にもまた敵が剣を振り上げて襲って来る。


「おおおらぁッ!」

「がはっ!?」


 向かって来た剣先を魔剣でかち上げ、返す剣で相手の胴を切り裂く。魔剣は鋼の胴体鎧(ブレストプレート)を易々と切り裂き、相手は胴から赤い血を噴き出しながら、その場でがくりと膝を突いた。


 さて次の相手はどいつだ。そう思うが早いか横合いから鋭い突きが飛んで来る。

 あわやと言う所、俺は魔剣でそいつを受け止めた。


「次は私とお手合わせ願おうか!」

「へ……後悔すんじゃねぇぞ!」


 お返しと魔剣を振るえば、相手はこれを左手の短剣で容易く受け止める。そして今度はこちらだと言わんばかりに、再び鋭い突きを繰り出してきた。

 こいつは確かキールストラの屋敷で会った、なんたら侯爵とかいう男だ。こちらへ突き出される剣先は非常に疾い。他の雑魚とは違う事がすぐに分かった。


「シィッ!」


 俺は魔剣を逆袈裟に振るう。だが相手はこれをひらりと避けると、喉元目がけて突きを繰り出してきた。

 その剣技はかなりの技量を感じさせる。俺はレイピアの切っ先をかわしながら、思わず笑みを浮かべていた。


 相手がしているあの、右にレイピア左に短剣という構え。俺はこれに覚えがあった。

 あれは俺が、相手の攻撃を誘いカウンターで倒したい場合に取る構えに酷似している。最近であればグレッシェルの町で、グレッシェルの牙、団長のアウレーンに対して取ったのが記憶に新しかった。


 だがよく見れば違う点も多い。俺の場合短剣を逆手で持つのに対し、相手は順手持ちである。それに相手は突きを主体とするためだろう、常に半身に構えており、サイドステップを踏みながら隙を極小としている。

 だが俺の場合はカウンター狙いのため、あえて隙を作るような攻め方だった。


 俺の構えは完全に我流で編み出したものだ。しかし相手の動きは洗練されており、この事から彼らの正式な剣技なのだと察する事ができる。


 俺はぺろりと上唇を舐める。俺は元々山賊で、剣を習うなんて事とは縁遠い人生を送ってきた。そのため俺の戦い方は、様々な戦いを見た経験からくる模倣を、自分なりに昇華させたものだった。


 だからこういう初めて見る戦い方ってのは、どうにも。

 俺の模倣根性に火を点けやがるぜ。


「シャドウ、太刀をくれ!」


 俺は相手の突きを魔剣で大きく弾き、叫ぶ。すぐに足元から飛び出してきた太刀を左で受け取ると、代わりに魔剣を足元に落とし、鞘から太刀を抜き放った。


「面白れぇ。ちょいと相手をしてやろうじゃねぇか」

「小癪な……」


 俺は太刀を頭の横で縦に構える。八相の構え。刀を用いた構え――五行の構えの内の一つで、一番疲れにくく機敏に動ける特徴を持つ構えである。


 向こうは突きが主な攻撃だ、この構えが一番相手をしやすいだろう。

 俺が太刀を構えたのを見た相手は警戒を滲ませ、間合いの外、僅か半歩の所で構えを取りつつ、油断のない目で俺を見ていた。


 俺の予想なら奴は太刀、そして俺の構えを初めて見るはずだ。

 そして俺も奴の戦い方は初見。初見同士の戦いだ。

 警戒するのも無理はない。とは言え今は乱戦の最中だ。膠着していて横から茶々が入っては面白くない。


(そんならこっちから仕掛けるとするかい!)


 そうして俺が前に出ようと、重心を前にかけた瞬間だった。


「ハッ!!」


 攻めるタイミングを見切られ、俺の喉元に剣先が飛んでくる。僅かに身を反らしてかわすも、奴はすぐ剣を引き、また同じ構えで俺を見据えた。

 なるほどこれは厄介だ。反撃しようにもレイピアの長いリーチが生き、攻撃を捌いた瞬間相手は元の構えに戻っている。


 そして左手に持つ短剣。よく見ればその直剣は幅が広く、鍔の部分にはガードがついていると、独特の形をしている。攻撃に適しているようには見えないため、完全に防御用の剣なんだろう。


 防具なら盾を考えるが、盾は重く隙を作りやすい。つまりレイピアを生かすために徹底的に隙を潰す必要があり、その結果出来たのがあの短剣なんだろう。


(そんじゃ答え合わせと行きますか!)


 その推察が正しいか、俺はまた仕掛けようと足を踏み出す。そこへ間髪入れず突きが飛んでくるが、俺はそれに合わせて横合いから叩くように刀を振るった。

 太刀とレイピアがぶつかり合う。その瞬間俺は手首を返し、刀を左に回して奴の武器を絡めとった。


「――む!?」


 困惑の声を上げる相手に構わず、俺は即座に地面を蹴る。レイピアに刀の(しのぎ)――刃と峰の中間部分にあたる箇所だ――を押し当てながら、奴の武器を封じつつ奴へ肉薄する。


「はぁぁあああッ!」


 既に間合いは俺のものだ。俺は勢いそのままに、太刀を大きく横に薙いだ。

 半月を描く銀の軌跡が奴の首目がけて飛んで行く。だがその軌跡は奴の首すれすれで、激しい金属音を打ち鳴らしてピタリと止まった。


 俺の太刀を止めたのは、奴の左に握られた短剣だった。俺の渾身の一撃を受けたと言うのに短剣はびくともしておらず、さも当然のように太刀の斬撃を受け止めていた。

 

「このマンゴーシュは”左手”という意味もあってな。これを左に握った私は、一族の何者からも攻撃を受けた事が無い」

 

 敵はまるで焦った様子も無く、俺を見ながらそう話す。


「貴殿はこの守りを崩せるか!?」

「くっ!」


 そして俺の太刀を短剣でいなすと、跳び退りざまに突きを繰り出してくる。身を引き何とか避けたものの、奴は手首をくいと曲げ、剣の先端をかすめるようにして横に斬りつけてきた。


 反射的にのけ反った俺の鼻っ面を剣先が通り過ぎる。この斬撃を見て俺は、相手への警戒を更に上げる。

 レイピアは突き特化とは言え両刃剣、一応斬撃が可能である。だが剣身が細いため、斬撃は折れる危険性も孕んでいる。だと言うのにその斬撃を実戦に組み入れる。それだけで相手の技量が知れたからだ。


「やるじゃねぇか。忘れたんでな、名前をもう一度聞いておこうか」

「……ディルク・エッダ・アルヴィン・プリンセンだ」

「覚えておくぜ、その名前」


 ますます面白くなってきやがった。再び間合いを取られたにも関わらず俺が笑ったのが気に障ったのだろうか、奴は方眉をぴくりと動かした。


「随分と余裕のようだな。だが忘れたか? 我らには闇魔法がある。貴殿はなぜか効かないようではあるが……。しかし、他の者はどうかな!?」


 その言葉が合図だったのだろうか。不意に一人の人間が俺へと躍りかかる。

 その小柄な人物は俺目がけて武器を振り上げると、こちらに向かって思いきり振り下ろす。彼女の持つ金属製のメイスがうなりを上げて襲い掛かって来た。


「うお!? 危ねぇっ!!」


 慌てて飛び退き攻撃を避ける。メイスは俺のいた場所に叩きつけられ、轟音と共に地面をバキバキと割った。

 ……あわや潰れたトマト(モタモ)になるところだった。そう安堵するも、そんな隙をついて今度はディルクが突きを飛ばして来る。


「くそっ!」


 俺は何とか太刀で弾き飛ばすと一旦距離を取る。そして顔をディルクに向けたまま、襲い掛かってきた馬鹿を怒鳴りつけた。


「おいホシッ! 俺に攻撃してくるんじゃねぇ!」

「だって! 何も見えないんだもん!」

「だからあんまり動き回って戦うなって言っておいただろうが!」


 自分から飛びかかって来たくせに、ホシは自分のせいじゃないとでも言いたげに文句を言う。そして俺の言葉を聞いているのか、メイスをやたらめったらに振り回しながら「おりゃあーっ!」と走って行ってしまった。


 だから動き回るなって言ってるのに! テンション上がると人の話聞きゃしねぇな全くよ!


「チッ、厄介な魔法だぜ、闇魔法ってのはよ」


 ちらと俺は仲間達を見る。ホシ以外の仲間達もまた闇夜(あんや)族を相手に戦っている。だがその動きはホシ同様に、どこかおかしなものだった。


「くっ……うおおおお!」

「チクショーッ! またかよ面倒臭ぇなぁもう!」

「落ち着け! 鼻と耳を使えデュポ!」


 動きに精彩を欠き、敵の攻撃に終始押され気味の魔族達。バドも攻撃より防御を厚くしており、敵から袋叩きにあっている状態だった。

 普段ならバタバタと敵を倒すはずの仲間達が、皆かなり苦戦をしている。明らかな異常事態だった。


 目の前の男はこの事を言っていたのだろう。俺の様子を探るように、奴はこちらをじろりと見る。

 とは言え俺にとって、こんな様子を見るのは二回目だ。俺は奴へ余裕を見せるように、へっと笑って見せてやった。


「闇魔法が厄介な魔法だってのは別に忘れちゃいねぇよ。だが、お前も忘れてんじゃねぇか? 俺達が最初にルチア達を相手して来たって事をよ」


 ルチア達が待ち受けていた裏口での戦い。その時にもまた仲間達は、あのように闇魔法で視界を奪われた状態で戦う事を強いられたのだ。

 だがこれに対してはホシは天性の直感で、魔族達はその優れた鼻と耳で。バドはそれらは無いが、豊富な戦闘経験とあの鎧と盾で敵の攻撃を防ぎ、それぞれ何とか敵を倒していた。


 先ほどのように同士討ちの危険がある点が不安要素ではあるが。

 だが敵が数を頼みに来ている以上そこは今どうにもならず、あまり動き回らず近づいて来る敵を倒すようにと作戦を立てていた。


 まあそんな理由から、ディルクが言ったように闇魔法は脅威ではあるものの、だがそれだけで容易くやられるような仲間達では無い事を俺は知っている。

 だから焦りは感じていなかったが、そこにはもう一つの理由もあった。


「”深淵の監獄(アビスオブプリズン)”!」


 その時、後方に控える敵の、魔法使いの一団からその声が上がった。

 これは相手を洗脳する闇魔法だ。視界を潰されるのは放置しているが、流石に洗脳は不味すぎる。

 俺はその魔法がかかる対象を、目だけを動かして素早く探した。


「――ぐ!? がああ…っ!」


 かけられたのはガザだった。彼は急に額を左手で抑え、片膝を突くと漏れ出るような苦悶の声を上げ始めた。

 旅の途中彼らから聞いた話だが、魔族とは魔力が非常に少ない種族らしく、魔法が使えないばかりか魔法に対する抵抗が非常に低いのだそうだ。


 当然闇魔法も例外ではない。苦しみ出したガザに、これを好機と一人の闇夜(あんや)族が武器を手に躍りかかる。

 悠長にしている暇は無い。俺は足元の相棒に魔力を送った。


「シャドウ!」


 俺から魔力を貰ったシャドウは、いつもの緩慢な動きからは考えられない程の速さで、ガザへとぐんと影を伸ばした。

 その時間はコンマ数秒も満たない瞬間。ガザの影にピタリとシャドウがくっついたのと同時に、闇夜(あんや)族の剣がガザへと振り下ろされる。


 洗脳状態にあるのなら、その武器は避けられないはずだった。

 だが俺は裏口での戦いで、ノエルに聞いていたのだ。闇魔法をかけられた者に対しての対処法を。


「ぐ……! ぉ、らぁーっ!!」


 ガザは振り下ろされた剣を地面を転がって避ける。そして驚愕の表情を浮かべる闇夜(あんや)族の顔面に、鉄拳を食らわせ吹き飛ばした。

 あの状況でよく当てたもんだ。俺がヒュゥと口笛を吹くと、聞こえたのかガザが前を向きながらも、こちらへ親指を立てて返して見せた。


「な、馬鹿な! 闇魔法を解除しただと!?」


 驚愕に目を見開くディルク。俺はこれにニヤリと口角を上げる。シャドウは俺の闇魔法を瞬時に解いてくれる。だから俺には闇魔法が効かないのだが、これは当然仲間に対しても有効な手段であったのだ。


 闇魔法を解くには、かけられた人物の体内から魔法の影響を消し去らなければならない。ノエルはこれを、治療対象に触れて体内魔力に干渉し魔法を解いていたが、シャドウはそんな事をする必要すらない。


 シャドウは闇の大精霊だ。そして闇魔法は闇の精霊によって発動する魔法である。

 自分より下位の精霊が発動した魔法を大精霊が解くなんてわけはない。シャドウは俺達にとって、闇魔法への最大の対抗手段であったのだ。


 ちなみに先程のホシや皆の目が見えない件も解く事は可能だが、そうするとシャドウが解除に走り回らなければならず、手が回らないため対処はしていない。敵も魔法を使って来るから、かけた解除したの堂々巡りできりがないしな。そこは皆も了解済みだった。


「こっちもこっちで対抗策はあるんだよ。闇魔法は確かに面倒だが、だからと言って自分達が圧倒的に有利だとは思うんじゃねぇぜ!」

「くっ! だがそれでも、我らが有利である事には変わりないっ!」


 ディルクはそう言うが、焦りの感情は俺に隠せていなかった。再び襲ってきた突きを太刀で弾くと、俺は今度は右足を引き、太刀を右脇に構える。

 五行の構えの内の一つ、脇構え。刀を体で隠すようにする構えで、相手に間合いを計らせにくくする長所がある。奴にとっては一番戦いにくい構えのはずだ。


 余裕があればもっとディルクの戦い方を見てみたい。だが今は乱戦中だし闇魔法も厄介だ。

 ある程度見れた事だし、惜しいがそろそろけりをつけるとしよう。


「今度はこっちから行くぜ!」

「ぬぅッ!?」


 俺は地面を蹴り飛ばし、ディルクへ真正面から突っ込んだ。ディルクも突きを繰り出してくるが、愚直な攻めが逆に予想外だったのか、その突きは僅かに遅く、そして甘い。

 俺はそれを太刀ですくい上げるようにかち上げた。


「ぐぅ!? ――だがッ!」


 跳ね上げられた右の武器。しかしディルクは左のマンゴーシュを構える。

 そうなるよな。確かにそいつの防御は見た目以上に堅牢だ。この程度で崩せるとは俺も思っちゃいなかった。


「食らいやがれぇッ!」


 だがそんな事は承知の上。俺は全く構わずに、奴へ横薙ぎの一撃を繰り出した。


 その銀の剣閃は先程と同じく、滑るように奴の首筋目がけて走る。ディルクもそれを止めるため、握るマンゴーシュを軌道の先に滑り込ませた。

 このままなら俺の太刀はマンゴーシュに阻まれて終わりだ。そして攻撃の隙を晒した俺は、逆に敵の攻撃を受ける事になる。

 だが――


「シャドウッ!」


 ところがどっこいそうはいかねぇ。こっちにはどんな時も頼りになる、最高の相棒がいるんだよ。

 シャドウは俺の体を伝って既に、左手にまで伸びていた。

 俺は左手から太刀を収納する。代わりに両手で握ったのは、ホシがいつも使っている金属製のメイスだった。


「おおぉらぁーッ!!」


 俺は太刀を振るう勢いそのままに、メイスをマンゴーシュ諸共、ディルクの顔面に叩きつけた。


「ブガッ!?」


 マンゴーシュと顔の骨がベキベキと砕ける感触が手に伝わって来る。ディルクの顔から鮮血が派手に噴き出して、そして奴はまるで糸が切れたかのように、うつ伏せに倒れ伏した。


 その右手に剣、左手に短剣の構えだがな、剣や槍相手なら防御は固いが、鈍器なんて重量のある武器相手にはほぼ意味をなさないんだよ。

 鈍器は避けるが正解なんだ。悪いが呪うなら自分の油断を呪ってくれ。


 俺はメイスを足元に落とし、再び足元から出て来た太刀を手に握る。乱戦はまだ終わっていない。俺も油断すればこの男と同じくあの世行きだ。

 周囲から様々な音が轟く中、次はと視線を巡らせる。周囲の敵は俺がディルクを倒した事を見て、随分と腰が引けていた。


 すぐに襲い掛かって来る様子はないな。そう思い見ていると、遠くで上がった声が耳に届いて、俺はそちらを鋭く見据えた。


「クラメル子爵! 奴らを魔法で焼き払え!」

「し、しかしこのように入り乱れていては味方にも被害が――」

「悠長な事を言っている場合か! この戦い、負ければ我らに未来はないのだぞ! 構わん、やるのだ! 責任は私が取る!」


 乱戦状態の一団から外れた後方で、キールストラ侯爵が一人の男に喚きたてている。なるほど乱戦に乗じて味方諸共敵を倒してしまおうと言う魂胆か。

 俺は思わず舌を打つ。味方を巻き添えにする是非は置いておくとして、こう身動きの取りづらい状況では、取られれば厄介な手である事は間違いなかった。


「バド!」


 ならば取るべき手段は一つだけだ。考えるよりも早く地面を蹴り飛ばし、俺は尻込みする敵を太刀で蹴散らしながらバドのもとへと疾走した。

 敵の攻撃に耐えながら慎重に立ち回っていたバド。そんな彼は俺の呼びかけにぴくりと反応する。

 俺はバドへ更に言葉を投げつけた。


「前方、左四十五度! 敵陣を突っ切るぞ!」


 この集団から抜け出して、後方で余裕をかましている連中に目に物見せてやろう。

 俺は練り上げた(じん)を太刀にまとわせて、バドの周囲に(たむろ)する連中へ切り込んだ。


「”疾風斬(ゲイルスラッシュ)”ッ!」

「ぐあっ!?」

「くぅっ!」


 高速で剣を振り回し、周囲の闇夜(あんや)族を切り刻む。だがそれは体の表面を撫でるような軽い一撃だ。倒せた敵は一人としていないだろう。

 だが致命傷など食らわせなくても良い。バドを取り巻く連中を怯ませさえすればそれで良い。


 俺はそのままバドに接近し、その背中に左手を当てる。シャドウの力で闇魔法が解かれたバドはキッと顔を上げると、迷うことなく得意の構えを取った。


「行けバドッ! ぶちかませーッ!!」


 盾を前に腰を落としたその恰好。ぐ、と力を溜めたバドは次の瞬間、地面を蹴り飛ばしていた。


『ぐはあぁぁあーッ!』


 土が激しく撒き上がり、闇夜(あんや)族達も宙を舞う。バドは目前の敵を跳ね飛ばしながら、敵味方入り乱れる戦場を真っすぐに突っ走った。

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