すーちゃん先生の特別講座5
本作の舞台となる世界に関しての説明などです。
無駄に長いですが、興味のある方はどうぞ。
なお読まないと本編のほうで意味不明な内容が出てくるなど、
そういったことはありません。
また本編と説明が重複する部分がありますが、ご容赦ください。
すーちゃん先生
「すーちゃん先生の特別講座ー! なんと今回はその第五回目! 始まりましたわ! わーわーわー! パチパチパチー! 前回は助手があまりにもポンのコツで失礼致しました! そのお詫びに今回はなんと、このお二人をお呼びしましたわ! どうぞ!」
べてぃちん助手
「……もう宜しいですか? えー……助手として呼ばれました、べ、べてぃちん助手です。よろしくお願い致します」
どろちん助手
「くくく、何を恥ずかしがる事があるべてぃちん助手よ。もっといつものように自然体でいれば良かろうに」
べてぃちん助手
「し、しかしですね。流石にこの年でべてぃちんというのはちょっと抵抗がありまして……」
どろちん助手
「可愛らしくて良いでは無いか。ホシに言われている時は嬉しそうにしていたと思ったがの。さて、儂は同じく呼ばれたどろちん助手じゃ。ま、よろしく頼むの」
すーちゃん先生
「と言うわけで、今回来て頂いたのはエイク様親衛隊ナンバー8のべてぃちん助手と、エイク様親衛隊ナンバー9のどろちん助手です! 本日は宜しくお願い致しますね!」
べてぃちん助手
「助手を任されるなど初めての経験ではありますが、やるからには微力を尽くしましょう。すーちゃん先生、とお呼びすれば良いのでしたか? どうにも慣れませんが……」
すーちゃん先生
「是非慣れて下さいまし。どろちん助手も、良いですわね?」
どろちん助手
「うむ、承知した。それではすーちゃん先生よ、本日のお題は一体何じゃ?」
すーちゃん先生
「そうですわね、それでは早速始めましょうか。こほんっ。では本日第五回目となるこの講義を始めましょう。最初の内容は、こちらですわっ!」
Q.マナとオドについて
すーちゃん先生
「さてさてそれではべてぃちん助手、貴方に質問です。人族の間では一般的に魔力と一括りに呼ばれているマナとオドですが、実際は全く異なるものです。この二つの違いを教えて下さいまし」
べてぃちん助手
「はい。マナは私達人間種が体内で生成している魔力の事です。一方オドはこの世界全体に拡散している神気の事ですね」
すーちゃん先生
「あら。森人族ではマナの事を魔力、オドの事を神気と呼んでいるのですね」
べてぃちん助手
「ええ。魔力は人間種の持つ魔導の力。オドは神の力の残渣ですから、正しく神の気――神気というわけですね」
すーちゃん先生
「なるほど、それはわたくしも初めて聞きましたわ。完璧な回答、ありがとうございます」
べてぃちん助手
「いえ、この程度お安い御用です」
どろちん助手
「そういえば今の質問で思い出したが、昔人族が神気を知らんと聞いた時は耳を疑ったものよ。懐かしいの」
べてぃちん助手
「ああ、やはりドロテアも驚いたのですね。私もです。全く異なるものを一括りに魔力と呼んでいるものですから、何を言っているのかと思いましたね」
すーちゃん先生
「ふむ。森人族は正確にマナとオドを理解していると。それは分かりましたわ。では今度はどろちん助手に質問です。私達人間がオドを使う事は可能でしょうか?」
どろちん助手
「無理じゃの。神気は神やその眷属のみにしか扱えん。眷属とはつまり、精霊の事じゃな。噂では勇者の持つ神剣なども神気と深い関りがあると聞くが、すまんがその点については儂も確かなところは知らん。あくまでも眉唾程度の話じゃ」
すーちゃん先生
「精霊は人間が放出したマナと引き換えにオドを使って奇跡――つまり魔法を発現しております。ですから人間も間接的にオドを使っているとも言えますが、やはりどろちん助手の言うように、人間がオドを直接使って何かを成す、と言う事は現在不可能と考えられておりますわね」
べてぃちん助手
「そう言えば昔の話ですが、森人族はかつて神気を扱えたそうですね。世界樹がまだ現存していたようなずっと昔の事ですが。ドロテアは何か知っていますか?」
どろちん助手
「その話は儂も知っておるが、しかしその秘伝はもう失われて久しい。恐らく森人族の誰一人、それを成すことはできんじゃろう」
べてぃちん助手
「そうですか……」
すーちゃん先生
「オドを扱う、ですか。もしそんな手段があるのであればわたくしも興味がありますが、もう失われてしまったようですわね。もしそんな事が可能なら一体どんなことが可能なのか。夢が膨らむ話ですわねぇ」
Q.世界樹について
すーちゃん先生
「それでは次のお題ですが。先ほどべてぃちん助手が口にしましたが、世界樹についてです」
べてぃちん助手
「世界樹の事ですか……」
すーちゃん先生
「とは言え申しわけありませんが、わたくしは世界樹の事に詳しくありません。なのでここはべてぃちん助手とどろちん助手に説明をして頂こうと思います」
どろちん助手
「うーむ……まあ話をする程度構わんが。しかし儂らとて目にした事のないものじゃ。軽く千年以上は前からの口伝となるため確かでない内容もあるし、正直期待に応えられるような話は無いと思うぞ?」
すーちゃん先生
「それで構いませんわ。でもそれならわたくしから質問をしたほうが良いかもしれませんわね。それでも宜しいですか? どろちん助手。べてぃちん助手も」
べてぃちん助手
「え、ええ。そのくらいでしたら構いませんよ」
どろちん助手
「儂も構わんぞ」
すーちゃん先生
「ありがとうございます。こほんっ、それでは。そもそも世界樹とは何なのでしょう? ただの樹木とは当然違うのでしょう?」
どろちん助手
「無論じゃな。話に聞く限りでは、世界樹とは神気を養分として成長する神に賜りし神木であり、その大きさは天を突き、伸びた枝葉が空を覆い隠すような巨大なものであったと言う話じゃ」
べてぃちん助手
「それに奇跡とも呼べる実をその枝に付け、我ら森人族に大きな恵みを齎したという話です。どんな実か、と言うのは曖昧ですが、どうも人と対話をする程の高い知能を持つらしく、賢者の実とも呼ばれていたとか」
すーちゃん先生
「え? 枝に? それに、賢者の実、ですか? それはまぁ何というか、大層な事ですわねぇ」
どろちん助手
「他にも、世界樹はその内部で神の獣を生み出していたらしいの。神の獣……詳細は不明じゃが、儂は精霊のような、神の眷属の一種だったのではないかと考えておる。べてぃちん助手はどうじゃ?」
べてぃちん助手
「私達にも神の獣の事は伝わっています。その姿は非常に雄大で美しかったとか。ただそれ以外は残念ながら伝え聞いてはいません。是非一度この目で見てみたかったものです」
すーちゃん先生
「雄大で、美しい、ですか……」
どろちん助手
「全く、どうして枯れてしまったのか……。話では、愚か者が世界樹の手入れを怠り、傷つけたからじゃという話じゃが。ライトエルフの」
べてぃちん助手
「私達は世界樹に巣食う害虫を駆除しなかった愚者がいた、という話でしたが。ダークエルフの」
どろちん助手
「…………」
べてぃちん助手
「…………」
どろちん助手
「ま、まあ、これが事実かどうかは分からんからな。止めるとしよう」
べてぃちん助手
「そう、ですね。今はもう何が正しいかなど分からなくなっていますから、それが良いでしょう」
すーちゃん先生
(エイク様からお聞きした話とは微妙に違う内容ですわね……。うーん。何だか雰囲気が悪くなってしまいましたし、今は話さない方が良さそうですわ。黙っておきましょうか)
Q.迷いの森について
すーちゃん先生
「さて。世界樹についてはよく分かりましたわ。べてぃちん助手、どろちん助手、説明をありがとうございましたわ」
どろちん助手
「うむ。大した情報は無かったと思うが、役に立てたなら何よりじゃ」
べてぃちん助手
「お安い御用です。お気になさらず。今回のお題はこれで全てですか?」
すーちゃん先生
「いえいえ、最後にもう一つ。それは迷いの森について、ですわ」
べてぃちん助手
「迷いの森。と言うと、先の戦争で決戦の地となった、あの森の事ですね?」
すーちゃん先生
「ええ。森の事は森に生きる者に聞け、と言う事で。迷いの森がなぜそう呼ばれているかは二人ともご存じですわよね? しかしどうして迷うのか、という点について、ここで話――と言うよりも、議論をしたいと思いますの」
どろちん助手
「あの神気が濃い森の事か……。良かろう。まあ結局我らがあの森を突破する事は叶わなかったがの」
べてぃちん助手
「そうですね……。話ではマリアさんが道を切り開いたそうですが、一体どのようにして可能としたのでしょう。あれだけ私達が手を拱いていたと言うのに」
すーちゃん先生
「気にはなりますが、今はひとまず置いておきましょう。それよりもあの森の事です。森人族はあの森について、当時から神気が濃いと言ってましたわよね。それはつまり魔窟化している、と言う事ですか?」
べてぃちん助手
「それは違うと思います。確かにあの不可思議に迷う現象は、内部が不可思議な空間となっている魔窟と似ているかもしれません。しかしあの森には魔窟ほど精霊の気配がありませんでした。実際に内部に入った者達からも、魔窟ではないと報告を受けています」
どろちん助手
「うむ、それについては儂も同意見じゃ。魔窟であれば賑やかな程いるはずの精霊が、あの森には殆どおらんらしいからの。それにあの森に生息していた生物は皆魔物じゃったと聞いておる。怪物がおらんのじゃから魔窟ではないと言い切って問題ないじゃろう」
すーちゃん先生
「確かに迷いの森には怪物が全くおりませんわね。精霊も普段よりやや少ない程度ですし、それが魔窟でない事の証左と言われれば、反論の余地はない様にわたくしも思いますわ。では一体なぜあのような森があるのか、と言う事ですが――」
べてぃちん助手
「あら? すーちゃん先生は迷いの森に入った事があるのですか?」
すーちゃん先生
「え?」
べてぃちん助手
「いえ、まるで見て来たように言うのだなと。ですが我々軍の幹部は、迷いの森に入る事を禁止されていましたよね? 入ると何があるか分からないからと」
すーちゃん先生
「え、えーっと。そう言えばそんな事もあったような無かったような?」
べてぃちん助手
「すーちゃん先生も、無理やり入ろうとするエイク殿をそう言って止めていたじゃありませんか。その時の事はよく覚えていますよ?」
すーちゃん先生
「あ、あれはその。えー……うー……うん! ありましたわね、そんな事も! はいそれでは次ですわ!」
べてぃちん助手
「はい?」
すーちゃん先生
「どろちん助手の言ったように、魔窟には精霊が沢山おりますわよね! なら精霊が少ない迷いの森には、魔窟とは別の何らかの力が働いていると考えて間違いない、と言う事ですわね!」
どろちん助手
「……話を露骨に変えて来よったの」
すーちゃん先生
「何か言いましたかどろちん助手!?」
どろちん助手
「まあ良いわ。続けよ続けよ。と、そう言えばすーちゃん先生にも精霊が見えるんじゃったな」
すーちゃん先生
「そうですわね、わたくしにも精霊が見えますわ。まあ普段は見ないようにしておりますが」
べてぃちん助手
「え? そのような事が可能なのですか?」
すーちゃん先生
「魔力をこう、ちょちょっと。慣れるまでは相当の時間を要しますが、精霊は魔法を使う時以外見なくても良いものですし、できるようになれば色々と便利ではありますわね」
べてぃちん助手
「そうなのですか。ですがそんな話は森人族では聞いた事がありません。闇夜族というのは器用なのですね……」
すーちゃん先生
「……ヴァンパイア特有の能力ではなく、私の固有技能ですよ」
べてぃちん助手
「――あっ! あ、いえっ、そうなのですね。失礼しました」
すーちゃん先生
「…………いや。別に構いませんが」
べてぃちん助手
「…………う。あー、ええっと。すーちゃん先生。その――」
どろちん助手
「ふぅ。いやはや、しかしいささか喋り疲れたの。喉が渇いてしまったわ。何か飲みたくなってきたのぉ」
べてぃちん助手
「え? ドロテア?」
どろちん助手
「すーちゃん先生よ、迷いの森についてはもう良いじゃろ? どうせ解明できておらん話じゃ、ここいらでお開きにせんか。実はの、ここに来る前に菓子を焼き始めたのじゃが、そろそろ粗熱も取れる頃合いなのじゃ。すーちゃん先生にも味の方の感想も聞きたいし、共にいかがかの?」
すーちゃん先生
「…………そうですわね。迷いの森の謎は結局分からないままですし、本日の講義はこの程度にしておきましょうか」
どろちん助手
「ならば儂らは茶会の準備をしておこう。締めはすーちゃん先生に任せたわ。ほれ、行くぞべてぃちん助手」
べてぃちん助手
「は、はい。それでは失礼しますね、すーちゃん先生」
すーちゃん先生
「ええ? ちょっと――ああもう、行ってしまいましたわね……。締めくらい待てばよろしいのに、全く……。こほんっ。と言うわけで、第五回特別講座はこれにて終了致します。 ご清聴ありがとうございますね。それではまた次回をお楽しみに。さようなら~」
どろちん助手
「珍しく下手をうったのヴェティ。スティアに闇夜族の話は禁句じゃと、お主も分かっておったろうに」
べてぃちん助手
「つい口が滑りまして……口調も戻りかかっていましたし、流石にひやりとしました。すみませんドロテア、助かりました」
どろちん助手
「構わん構わん。じゃが全く、同族が嫌いとは難儀な事よ。儂も闇夜族の事は知っておるが、同族を虐げるような連中では無かったはずなんじゃがなぁ」
どろちん助手
(それに人族同様、闇夜族にも精霊は見えんはずじゃったが……一旦全体どういう事なんじゃろうか。そこに何らかの理由があるように思うのじゃが……)
どろちん助手
「ま、スティアに直接は聞けん話じゃのぉ」
べてぃちん助手
「え? 何か言いましたか?」
どろちん助手
「む? いや何、茶会の準備はお主に任せて、儂は一足先に寛がせて貰おうかとの。よろしく頼むぞヴェティ」
べてぃちん助手
「致し方ありませんね、私の失言が元なわけですから。スティアさんの機嫌も何とか回復させないといけませんし、私からも何か出した方が良いでしょうか……」
どろちん助手
「ふ、お主にトゥドゥカス神のお導きがあると良いのぉ」
べてぃちん助手
「そんな事を願われてもトゥドゥカス神はお困りになると思いますが……まあ、そうですね。あると良いですね……はぁ」
おしまい