20.理由なんて無くて
少し長めです。
掛け布団に使っていた布を地面に敷き、その上にガザをそっと寝かせる。
先ほど無理をしたせいか息がかなり荒い。意識もすでに朦朧としているようで、反応が殆ど無くなっていた。
意識がなくなる前、持っていた毒消しを飲ませたため、恐らく毒の方はもう大丈夫だろう。次は傷の方を何とかしてやらないといけない。
「スティア、ガザの傷を見てやってくれ」
「……よろしいのですか? これは魔族ですが」
「スティアが嫌なら無理強いはしないが、頼めないか?」
俺がそう言うと、彼女はすねたような顔をしてじろりと見返してくる。
「その言い方は卑怯ですわ。わたくしが断れないと分かって仰っているでしょう?」
「……すまん。じゃあ、頼む」
「しょうがないですわね。承知しましたわ」
その返事にはやはり、不満がありありと含まれていた。
そばに来て膝を突いたスティア。彼女の横顔をちらりと盗み見ると、いつもより険しい顔をしていた。
これは、何か埋め合わせを考えておいたほうがよさそうだ。
「ロナ、と言ったな。この包帯を取ってくれ」
「は、はい! 今!」
彼は慌てた様子で、しかし丁寧に包帯を外していく。包帯をはがすとき皮膚が引っ張られるのかガザは痛みに呻くが、ぐったりとしていて抵抗らしい抵抗もない。
ロナがするすると包帯を取り去るにつれ、傷口が徐々に露になっていく。俺はあまりに深い傷口と悪臭に、思わず顔をしかめた。
「こりゃ酷い傷だな……でも、それ以上に化膿が酷い。まずはこれを何とかしないと……ホシ!」
「何ー?」
「こいつを抑えておいてくれ。暴れられると困る」
「えー……? うん……分かった」
ホシもちょっと不満そうだ。しょうがないが、ホシにもちょっと我慢して貰おう。
ホシは渋々ガザを抑える。それを見てから、俺は傷口に手をかざした。
「水の精霊ウンディーネよ、我が呼び声に応じ、不浄なる者を清め賜え……”浄化”」
「ぐ――がっ!?」
”浄化”によって、傷口に付着した膿などがじわじわと消えていく。だが傷に障るのだろう、痛みにガザはバタバタと暴れ始めた。
ホシに加わり、ロナもガザに抱きついて必死に抑えている。だが非力なせいか、彼は飛んでいきそうなほど振り回されていた。
見かねたスティアがため息を吐きつつ抑えに加わる。ロナはびくりと反応したが、すぐにぺこりと頭を下げた。
「よし、こんなもんだろ。次、傷薬を。ロナ」
「は、はい!」
俺の言葉に、ロナは先ほど渡した傷薬の蓋を開け、ガザの傷口に塗布し始める。
だがその瞬間、ガザの体がビクンと弾けた。
「あがっ!? ぐあああっ!」
傷口に染みるのだろう、先ほどよりも必死に暴れ始める。とは言えホシとスティアに抑えつけられた体は、まるでびくともしていなかった。
ホシは馬鹿力だし、スティアは抑えられると動けなくなる場所を熟知している。いかに魔族とは言え、今のガザに振りほどくことなど絶対にできないだろう。
「お、終わりました!」
「よし、スティア、傷を塞いでやってくれ」
「あんまり、親しい方以外にやりたくないのですが……」
最後の処置をスティアに頼むが、あんまりいい顔をしてくれない。
「後で血ぃやるから頼む!」
「やる! やりますわっ! このスティア・フェルディールに、お任せあれっ!」
仕方がなしに最後の手段をとると、スティアの目が爛々と輝きだした。
彼女は飛び掛らんばかりの勢いで俺の手を両手で握って宣言すると、バッとガザの傷口に手をかざした。
なぜこうもやる気が出たのかと言うとだ。俺自身は複雑なのだが、スティアにとって俺の血は至上のご馳走なのだそうだ。
なんでも体中の血液が沸騰したかのように滾り、心身共に至上の高揚に包まれる、らしい。
だが、そんなことを嬉々として説明されても反応に困ってしまう。俺に一体どうしろと言うのだ。「お前の血が美味いんだよ!」と言われて、「ヨッシャーッ!」と喜ぶ奴はいないと思う。
「あの、何が……?」
「いいから。見ていれば分かる」
不安そうに聞いてきたロナに、目だけを動かして傷口を見るよう促す。困惑しながらも、ロナは口を閉ざして傷口に視線を移した。
それと同時だっただろうか。傷口からピシピシと小さな音が鳴り始めたかと思うと、そこから溢れ出ていた血が徐々に固まり始めたのだ。
「――あっ! 血が!? どうして!?」
「わたくしの技能ですわ。血を操って血止めするくらい何ということはありません。まあ、先ほど言った通りあまりやりたくはないのですけれど」
そう不満を漏らしながらも、スティアは傷口に沿って手を動かしていく。傷口はあっという間に凝固した血で覆われ、溢れ出していた血も、見えてしまっていた肉も、真っ赤なかさぶたで見えなくなってしまった。
見た目は赤一色で痛々しいが、問題なのは外観だけで、この場でできる血止めとしてはこれ以上ない処置だろう。
「はい、終わりですわ。ふぅ……。少々厚めに血を固めたので、また血が溢れることはないかと」
「すまんスティア、助かった。とりあえず応急処置はこんなもんで大丈夫か?」
「そうですわね。ただ軽傷なら放置で良いのですけれど、この魔族は重傷ですから、かさぶたをこのままにしておくとまた悪化しますわ。ですから数日したらまたかさぶたを取って、今回と同じ処置をしないといけませんわね」
へー。そうなのか。知らんかったわ。
「……また頼めるか?」
「乗りかかった船ですから、やりますわよ」
呆れたように肩をすくめるスティア。ほんとこいついい女だわ。惚れ直しそう。
で、こっからが本題だ。
「怪我の方はどうだった?」
「大地の穢れに冒されていますわね。このままだと助かる見込みもあまりないでしょう」
さらりととんでもないことを言うな。隣にロナもいるってのに。
あまりにもそっけない言い方に眉を潜めると、ばつが悪かったのかスティアはぷいとそっぽを向いてしまった。
傷口を土などで汚れたままにしておくとかかる病、大地の穢れ。戦場などの真っ当に治療できない場所で主に発症し、死に至る確率も非常に高く恐れられている病だ。
だが恐れられているのは、死亡率が高いという理由だけではなかった。
病にかかった者は人の声や日光に反応して激しく痙攣し、呼吸困難に陥ったり、酷い場合には弓のように体を反り返らせたりして死んでしまうこともあり、その様子は壮絶を極めるのだ。
そんな姿から、この病は土を血で汚された精霊の怒りだの恨みだのとも言われている。
だが、そも精霊の力を借りて魔法を行使する魔法使いからすると暴論や妄言の類にしか聞こえず、そんな理屈は非常に懐疑的ではあった。
まあそれはともかくとして、スティアはガザがその大地の穢れに冒されていると言う。ならそれをどうするかだ。
「えっ! そんなことまで分かるんですか!?」
「だからやりたくないんですわ。血から色々情報が読み取れて”しまいます”ので」
俺達の会話に割って入ってきたロナに、スティアは嫌そうにそう答えた。
以前聞いたことがあるが、状況によっては相手の感情や思考すらも分かってしまうことがあるらしい。
俺も相手の感情なんて分かりたくないことの方が多いため、嫌だと言うスティアの気持ちはよく分かる。
スティアには悪いことを頼んだが、だが今はそれよりも、ガザをどうするか考えないと彼の身が危険だ。
傷薬程度じゃ大地の穢れには効果がないだろう。だが他に良い薬なんて持っていないため、どうすることもできない。
かと言って、魔族である彼を医者に担ぎ込むわけにもいかなかった。
「生命の秘薬でもあればよかったんだろうが、今は持ち合わせがなぁ……」
俺はぽつりと溢す。だがその一言に、スティアがくわっと目を見開いた。
「ちょっと貴方様! 生命の秘薬がいくらか分かって仰っているのですか!?」
「わ、分かってるよ。うん。ほら、下位の生命の秘薬でも、あれば違ったかな、と」
スティアの剣幕につい焦ってしまい、なんとか取り繕おうとする。しかしそれに、彼女は盛大にため息をついて返してくれやがった。何じゃい。
「ご存知でしょうけれど、一番下の五等級でも金貨1枚が相場ですわよ? いえ、今は戦争があったことですし、もっと高くなっているはずですわ。貴方様……ちなみに、王国の一般兵に支給される給料一ヶ月分がいくらか、ご存知ですか?」
「えーっと、銀貨2枚くらい?」
「小銀貨12枚ですわ! 12枚っ! 銀貨2枚って……倍ほども違いますわ! いくら下位と言っても、生命の秘薬は一般兵が購入するならどんなに節約しても一年以上はかかる高級品ですのよ!?」
「え、俺は銀貨4枚だったけど……」
「貴方様は師団長でしたでしょう!? 貴方様を基準に一般兵の給料を考えないで下さいまし!」
「いや、ほら、俺一般兵と強さが互角だったからそんなに違わないかな、と」
「自己評価が低すぎますわーっ!!」
言ってることは分かったが、そんなに必死になる話か。ほら、ロナが驚いて固まってるだろが。
「分かったから落ち着け。今そんな話をしてる場合じゃないだろ」
「わたくしには大事な話なのですわ! 貴方様はもっとご自分の価値を理解して下さいまし!」
「はいはい、分かった分かった」
「これ絶対分かってないやつですわ!?」
「分かったって。俺は一般兵の三、四人分なんだろ?」
そう言うと、スティアががっくりと項垂れてしまった。
何か間違っていただろうか。一般兵小銀貨12枚と俺銀貨4枚。小銀貨10枚が銀貨1枚だから、計算はあってるが。
「あ、あの、少し宜しいでしょうか」
「うん?」
スティアが静かになったからか、ロナがおずおずと話しかけてきた。
「他の三人は今どうしているのでしょうか……」
「あっ。そう言えばそうだった」
言われてみれば、ここに来るまでに捕えた連中のことをすっかり忘れていた。
確かにどうしているだろう。発狂していないといいんだが。
と、流石にそれは冗談だが、もうシャドウから出してもきっと大丈夫だろう。今は縄で縛ってもいるしな。
「スティア、ホシ。捕まえてた三人を今から出すから、ちょっと警戒しておいてくれ」
「はーい!」
「はぁいですわ……」
一人頼りない返事だが大丈夫か。
「シャドウ、あいつら出してくれ」
俺がそう言うと、ぐにゃりと影が歪み始める。しばらくぐにゃぐにゃとゆがんでいた影は、俺の目の前にうにょんと伸びたかと思うと、三人をぺぺぺっと吐き出すように放り出した。
ドサドサと地面に倒れこんだ三人を、ロナが目を丸くして見ている。
分かるぞ。初めて見るとわけが分からなくて驚くよな、これ。
「こいつは俺の影にいるシャドウだ。シャドウは色々中に入れられるんでな、こいつらも入れてもらっていたんだ」
「は、はぁ……?」
よく分かっていないような返事をするが、これもお約束だ。説明してもすぐには理解できないだろうから、こっちの三人をまず何とかしよう。
「おい、起きてるか?」
倒れている三人に声をかけると、一様にギロリとこちらを向いてきた。
わけの分からない空間に長時間入れられたにも関わらず、まだ戦意があるようだ。敵ながらよく訓練されていると感心する。
「まず、ここを見ろ。お前達の根城だ。分かるか?」
俺の言葉に反応して、三人ともキョロキョロと周囲を見渡す。そしてロナとガザの姿を確認すると目を見開いた。
彼らを守るためだろうか、すぐにバタバタと暴れだす三人。だが手足を縛られているため起き上がることもできず、もぞもぞと動くだけだった。
その姿を見かねたのか、ロナが足を引きずって彼らのそばに近づく。
「大丈夫です。あの人達は、たぶん敵じゃないです。少なくとも、ガザ様に応急処置をしてくれました」
ロナの言葉を信じられないのか、三人は驚いて目を丸くして硬直する。
「エイク様、彼らにガザ様の様子を見せてやりたいのです。できれば縄を解いてあげたいのですが……」
「とりあえず足だけな」
「はい」
手で解くのも面倒なので、剣で足の縄を切ってやる。すると彼らは争うようにガザの隣まで駆けだした。
入り口で警戒していたバドが構えたのが見える。が、心配ないだろう。
寝かされているガザ。彼に近づき膝を突いた三人は、その傷が処置されているのを見ると、何事か唸りながら泣き始めてしまった。
ロナもまた彼らのそばに近寄ると、三人らの顔を見て頷き、かと思えばまたこちらを向いた。
「エイク様、皆の猿轡を外させて頂きたいのですが……」
「ちょっと待て。≪感覚共有≫」
スティアが不機嫌そうにぴくりと眉を動かしたが、気にせず三人に≪感覚共有≫をかける。
猜疑心はまだまだあるが、俺達に対する敵意は比較的落ち着いているようだ。この様子なら大丈夫だと思う。
念のため、注意するようホシとスティアに視線を送ってから、ロナに頷いて返す。すると彼は急いで三人の猿轡を外し始めた。
しばらくして、洞窟には「ガザ様!」「よかった!」と涙交じりの声が上がり始める。
うん。やっぱり、甘いと言われたとしても、恨み恨まれるよりこっちの方が気分がいい。
スティアにニヤリと笑って見せると、拗ねたようにぷいと横を向かれてしまった。
「エイク殿と言ったか」
「うん?」
突然、魔族の一人が話しかけてきた。
「俺の名はオーリ。ガザ様の部下だ。ガザ様の治療をしてくれたことには感謝する」
「応急処置だけどな」
「それでもだ。俺達では、それすら……できなかった」
彼ら三人は一様に目を伏せる。確かにあんな治療では、ほんの僅かに命を保たせるだけの処置にしかならなかったはずだ。
無念の極みだったのだろう、彼らの胸の内から、強い後悔の念があふれ出してきたのを感じた。
しかしそれも少しの間の事。すぐにオーリが再度顔を上げ、こちらを探るように険しい表情で見据えてきた。
「だが、なぜ俺達を助ける? 俺達はお前達にとって敵だろう? ガザ様を治療し、何を企んでいる?」
「何だと貴様ッ!!」
「ス、スティアっ、落ち着け!」
オーリの吐いた言葉にスティアが激高し、身を乗り出したところを慌てて止める。俺の静止に渋々黙るが、言葉遣いが素に戻っていてちょっと怖い。
あいつは普段お淑やかな言葉遣いをしようと心がけているようだが、敵意がある相手には急に素に戻るから困る。
こちらがそうと心構えができていない時に急に素に戻られると、心臓に悪いから止めて欲しい。だからその手を今すぐ短剣から離して下さい。
「確かに、お前達は俺達にとって仲間の仇だ。死んでいった仲間達のことを思えば、お前達を討つのが正解なのかもしれん」
俺はそこで一呼吸おいた。オーリ達三人は口を挟むことなく、黙って次の言葉を待っている。
「けどな、戦争はもう終わった。お前達が人族を皆殺しにしてやろうなんて思っているなら見逃すわけには行かないが、でもお前達はそうじゃないんだろう? ガザからも聞いたよ」
ガザも言っていた。無駄に命を奪いたくは無いと。それがたとえ人族だったとしても、家族を奪うような真似をしたくないと。
「お前達が南の隠れ家を出たのは、チサ村の人間に見つかったからだろう? 見つかった時点で口封じに村人を殺していれば、隠れ続けられたかもしれないのに、そうしなかったのは、彼らを殺したくなかったからじゃないのか? 敵である人族なのに、お前達はなんで殺さなかった?」
「俺達があの村の人族を殺さなかったのは、あの村の人族に仲間を殺されたわけじゃないからだ。だが、お前達は俺達に仲間を殺されたんだろう? 俺達を殺してやりたいと思わないのか?」
なおも食い下がるオーリに参り、俺はがしがしと頭を掻いた。なんでこんなにしつこいんだろう。別に殺されたいわけでもなかろうに。
彼らの感情は猜疑心があるものの非常に落ち着いていて、俺にどんな答えを求めているのかが良く分からない。こう、明確な理由も無いときに執拗に突っ込まれると困ってしまう。
俺はそんなに理屈をこねる性質じゃない。相手の感情がなんとなく分かるせいもあるだろうが、感情とか直感で突っ走る方だと自分でも理解している。
感情が昂っている人間だったらそれらしい理屈でお茶を濁すこともできるが、彼らはなぜか知らないが妙に落ち着いていて、それも期待できそうにない。
ああだこうだ理屈を言ってもこいつらを納得させることはできなさそうだし、面倒だからぶっちゃけてしまうとしよう。
「お前らの隊長がな、部下達と同じ顔してたんだよ。死んでも仲間を守るって覚悟した顔だよ。そんな顔をしていた奴らは皆死んじまったが、俺はそいつらの顔を見るといつも、死ぬな、生きて戻って来いって思ってたもんだ。……いや、今も思ってるのかもな。だからかな、お前らの隊長も死なせたくないって思っちまった。理由なんて、それだけだっ」
観念して吐き出すと、オーリも他の三人も黙って瞑目した。どういう反応かと感情に意識を向けると、まるで波が引いていくように、波打っていた猜疑心が穏やかなものへと変わって行くのが伝わってきた。
「エイク殿はガザ様と似ているな。考え方というか、物事の捉え方というか」
オーリは目を開けると、俺をじっと見つめてくる。そう言う彼の顔は先ほどから打って変わって、どこかすっきりとした表情をしていた。
「エイク殿。貴方に感謝を。そして、貴方達に武器を向けた非礼を許して欲しい」
オーリがそう言うと、四人はその場であぐらをかいて拳を地面に突き、深々と頭を下げて見せた。
この恰好、ガザも先ほど俺に向かってしていた。恐らく魔族式の最敬礼みたいなもんなんだろう。
「ああ、そりゃまあいい。それに、俺達もロナとガザにちょいと嘘をついたしな」
「嘘? 嘘とはなんですか?」
ロナが首を傾げる。オーリと名乗った魔族もとたんに訝しげな表情に変わった。
まあ信じてみようって思った奴が急に嘘ついたなんて言い出したらそうなるわな。
「ロナとガザには王国の師団長だって言ったんだが、正確には元師団長なんだ。辞めてきたからな! はっはっは!」
「……は!? 師団長!? あんた師団長だったのか!?」
「元だけどな。今の俺は、ただの住所不定無職のおっさんだよ」
またむくむくと膨らんできた魔族達の不信感を吹き飛ばそうと、努めて明るく言ってみた。だが、オーリの右後ろにいた魔族が突っ込んだ以外に反応はなく、四人はぽかんと口を開けたまま硬直してしまった。
うーん、どうも滑ったみたいだ。
とりあえずそのままの流れで、他の三人も俺の元部下で、それぞれ第一部隊、第二部隊、第三部隊の隊長だったと話す。すると彼らはしばらくぼーっと呆けた後に、「敵うわけねぇじゃん……」「よく生きてたな俺達」と呟き始めてしまった。
いや、俺はそんなに強くないんだよ。こいつらがおかしいだけだから。
「とりあえず、ガザのことは何とかしようと思う。このままじゃ死んじまうからな。どうせこの先にある町まで行くつもりだったんだ。こんな場所にずっといるよりはマシだろうし、そこまでは連れて行ってやるよ」
「それはありがたいが……。だがそれには人族の集落を越えなくては――」
「いや、お前達。俺達に捕まってからどうやってここまで来たと思ってるんだ?」
「あっ」
突っ込むと、オーリは再びぽかんと口をあけてこちらを見つめてくる。
さっきからこんな反応が多いな。思いがけないことがありすぎて混乱しているのかもしれない。
こういうときは飯に限る。腹が膨れれば多少は落ち着くだろう。
「よし、もう日暮れも近い。こっちも聞きたいことがまだあるし、飯にしながら話でもしよう。バド! 飯の準備を頼む!」
入り口付近で佇むバドに手を上げると、彼もゆっくり中へ入ってきた。
これからのことは食べながらでも考えよう。それに今思い出したが、俺達も朝から何も食べていなかったんだった。
なんだか急に腹が減ってきた。緊張の糸が切れ、自然と長い息が一つ漏れる。
俺の気が緩んだのを察してか、腹の虫がぐぅと文句をたれた。