178.とんだ拾い物
「貴方様、お目覚めになりましたか?」
ふわりと漂う匂いに誘われて、意識がゆっくり覚醒していく。
俺が目を覚まして最初に見たのは、スティアの顔のどアップだった。
「もう朝ですよー? うふふふ」
彼女は俺のベッドに入り、対面で横になっていた。
既に窓は開かれているらしく、差し込む朝日が彼女の銀髪を煌めかせる。機嫌良さそうに目を細める彼女の表情は、非常に優しい。
俺はそんな彼女の顔へ、無意識に手を伸ばす。
そして顔面を鷲掴みにした。
「あだだだだーっ!?」
スティアの悲鳴に耳を貸さず、無言で力を込め続ける。バタバタと暴れていたスティアはすぐに、ベッドから転がり落ちていった。
結局あの後、俺達は傭兵達と鉢合わせすることもなく、無事に宿へと入ることができた。
普段よりずっと格の高い宿に、お上りさんよろしくどやどやと宿へ入った俺達。だがフロント係はそんな俺達をあざ笑うことなく、にこやかに案内してくれた。
部屋にも丁度空きがあり、二人部屋二部屋を予約した俺達。その分お高くはあったが、しかし広い風呂に美味い食事、デザートなども出て、俺も含め皆かなり満足しながら、その日は柔らかいベッドに沈んだのだった。
で。翌朝早速この騒ぎだ。
俺は広くなったベッドの上で思いきり体を伸ばす。そして大あくびをこきながら、むくりと体を起こした。
「痛たたた……ひ、酷いですわ、貴方様……」
「勝手にベッドに入ってくんなって、いっつも言ってるだろうが」
ツキンと痛む首筋をさすり、じろりと視線を送る。するとスティアはツイと視線を逸らした。
まったく、血吸うのに首筋は止めろと言ってるのに。忘れた頃に隙を見てやってくるんだからなコイツは。
変な所が痛むと妙に気になるんだよ。どうせなら腕とかにして欲しいもんだ。
というか、そもそも勝手に吸うなって話だが。
「せっかく起こして差し上げたのに、あんまりですわっ」
スティアは口を尖らせる。まるでいじけているような口調だ。
だが俺としては、その髪から覗く耳を隠してから言って欲しかった。そんな真っ赤な耳を見せられちゃあ、こっちも小っ恥ずかしいわ。
「そういやバドはどこ行った? もしかして、もう飯か?」
俺は咳払いをしてから、本来この部屋にいるはずの男について話を振る。
「ええ。どうも待ちきれない様子だったので、先にどうぞと伝えたら、ホシさんと一緒に朝食を食べに一階に行きましたわ」
俺達が宿泊しているのは二階の部屋だ。今は俺達以外に客がいないらしく、どの部屋でも好きに選び放題だった。なので日当たりが一番良い部屋にしてもらったわけだ。
待遇が非常に良かったのも、客が俺達だけだという理由があったのかもしれない。
「じゃあ俺達も行くかぁ」
「貴方様、寝ぐせがついておりますわよ?」
手櫛で髪を梳かしながら言うと、スティアはしょうがないなぁといった口調で眉尻を下げた。
どうも久々のベッドで寝入ってしまったようだ。確かに手で触ると、後頭部にぴょこりと跳ねる髪の感触があった。
スティアにくすりと笑われる。
まったく、これじゃまるで子供だ。
「悪い、直してから行くわ。スティア、先に行ってて――」
苦笑いしながら口を開く。だがその時だ。
俺の言葉を阻むように、何かの大声が階下から轟いた。かと思えば何かの破壊音が鳴り響き、足元を揺らす。
俺達は顔を見合わせる。スティアの顔は先ほどまでとは違い、非常に引きつったものだった。
たぶん、俺も同じような表情をしていたんじゃないだろうか。
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「お前らは右から行け! 俺達は逆から攻める!」
「こいつらただじゃおかねぇ! ぜってぇブチのめしてやるッ!」
俺とスティアが慌てて階下へ降りていくと、そこはなぜか戦場になっていた。
「あははは! 弱っちいの! 次、いっくぞーっ!」
「あああああ! お客様! お止め下さいいいっ!」
テーブルの下に潜り込むと、ホシは両手で持ち上げ傭兵達へ投げつける。空を飛んだテーブルが傭兵もろとも四散する様子にホシは腹を抱えて笑うが、対して宿の従業員達は頭を抱えて悲鳴のような声を上げていた。
ホシのそばにはバドの姿もあった。彼は彼で襲い来る傭兵達を素手でいなし、投げ飛ばしていた。
バドはいつもの鎧は来ておらずローブ姿だ。もし盾があれば”盾突撃”でぶっ飛ばすところなんだろうが――
「バドちん、これ使って!」
ホシがバドにテーブルを投げ飛ばす。バドはそれを受け取ると、少し考えた後、盾のように構えて傭兵達へ突っ込んでいった。
次々と吹き飛ぶ傭兵達。あー、もう滅茶苦茶だよ。
「おい! あそこにもいやがったぞ!」
傭兵達のうち一人が俺とスティアを指さす。その顔には憎悪がありありと浮かんでいた。
一体何だとよく見れば、その男には前歯がない。その指も、俺と言うよりスティアに向けられていた。
その見た目から分かったが、あいつはアレだ。たぶん昨日スティアに殴られた……えーっと。
うん、名前忘れた。
「うおぉらぁぁあっ! 許さねぇぞテメェらぁぁあっ!」
男は剣を手に、怒鳴りながら猛然と向かってくる。それに続く二人の傭兵も、怒りに顔を赤くしていた。
「スティア悪い! 任せた!」
「お任せを」
俺はその場から横っ飛びに離脱し、傭兵達を避ける。対してスティアは余裕綽々の表情で、右手の人差し指をすっと前へ伸ばした。
「風の精霊よ、殲滅の雷火で駆逐し賜え。”破砕の雷火”」
スティアへ向かって行った傭兵達。威勢は良かったが、それだけだった。
『ぐあぁぁぁーっ!?』
バリバリと爆ぜる稲光が室内を激しく明滅させる。木の焼ける独特の臭いと共に、閃光に囚われた傭兵達の絶叫が周囲に反響した。
「ひぃぃぃいっ!?」
「いやぁぁぁぁっ!!」
従業員達はもう恐慌状態だ。皆頭を抱えてその場にうずくまる。
俺はそんな彼らに駆け寄り、責任者っぽい男の手に金貨を数枚ねじ込んだ。
「悪い、これで通報は勘弁してくれ! 邪魔したな! サービス良かったぜ!」
「――は!? え!? ちょっと、お客様!?」
よっしゃ、相手は金を受け取った。これで示談は成立だ。
無理やり結ばせたっぽいが、金を受け取った以上後で知りませんとは言わねぇよなぁ? 頼むぜおい!
「お前ら、ずらかるぞっ!」
「了解!」
「あはははは! りょーかいっ!」
「シャドウ、バドに盾を! 受け取れバドっ!」
シャドウがぽいと投げた壁盾を受け取ったバド。その間に俺達は彼の後ろへと走った。
出口を見れば、十数人の傭兵達が武器を抜き構えている。
絶対逃がさないと顔に書いてある。だがそれに構わず、バドは盾を傭兵達に向けた。
「バド!」
バドは腰を深く落とし、構える。
「やっちまえッ!」
「やっちまえー!」
俺とホシの声が重なる。次の瞬間、バキリと床を踏み抜く音が聞こえた。
くびきから解き放たれたように、バドは傭兵達へ真正面から突っ込んで行く。
捻りも何もないど真ん前への特攻。だがその突撃はあまりにも速く、重すぎた。
『ぐはぁぁぁあっ!?』
『がはぁぁあっ!!』
傭兵達はなすすべもなく次々に跳ね飛ばされ、無残に宙を舞った。
苦悶の声を上げながら、きりもんで吹き飛ぶ傭兵達。バドはその中を突っ切ると、宿のドアも”盾突撃”で破壊し、そのまま外へ飛び出していく。
俺達もその背に続き、外へと飛び出した。
「へっ! ざまぁみろ! このまま逃げるぞ――って何ぃっ!?」
だが予想外にもそこには、更に多くの傭兵達が待ち受けていた。
「こっ……こいつらっ! 出て来やがったぞ!」
「取り押さえろっ! かかれーっ!」
武器を抜き、飛びかかってくる傭兵達。
おいおい俺達が何したってんだよ! ただ因縁つけて来た傭兵をぶちのめしただけだろうが!
お前らもぶちのめされてぇってのか、このドM集団が! 付き合ってられっかい!
「お前ら、一旦避難しろ、避難っ!」
「お邪魔しまーす!」
「それでは失礼して」
ぴょいぴょいと俺の影へ飛び込んでくる三人。その間に、俺は精を練りながら懐へ手を突っ込み、一つの魔法陣を取り出した。
「”飛翔の風翼”ッ!」
三人の姿が影に消えた瞬間、俺はそう唱え地を蹴った。俺の体は傭兵達の頭上に舞い上がり、宿の屋根へと着地する。
ぽかんと見上げる奴や、指をさして怒鳴る奴。いろんな奴がいる中で、俺はガハハと口を開けて笑った。
「バカが! 捕まえられるもんなら捕まえてみやがれド素人共がっ! はーっはっはっは!」
山賊心得その七 ―― 逃亡時には必ず捨て台詞を残しましょう。
舐められたら終わりの山賊稼業だ。逃げるんじゃねぇ。相手にしないだけなんだからねっ! ――とまぁ、そういうこった!
身を翻し、屋根の上を走り出す。すぐにぽんぽんぽんと、三人が影から出て来た。
シャドウの中は真っ暗で居心地は最悪だからな。長居はしたくないだろう。
なぜか魔族達は居心地が良いなんて言ってるが。
「あははは! あー面白かった!」
「何が何だか分かりませんが、人騒がせな方達でしたわねぇ」
楽しそうに笑うホシとは対照的に、スティアは迷惑そうに眉をひそめる。
宿の奴らには悪いことしたな。渡した金で修理費が足りるといいが。
貰い事故で恨まれちゃたまらねぇよ。
「しょうがねぇ。飯もまだだが、このまま町を出ちまおう」
「おっけー!」
ホシの声に続き、バドもぐっと親指を立てる。だが肝心のもう一人の声が続いて聞こえてこなかった。
何か気になることでもあったか。そう視線を向けるとスティアはなぜか、何かに集中するような表情を見せていた。
「スティア、どうした?」
「いえ……今、何か悲鳴のようなものがどこからか聞こえまして」
「悲鳴? 何、どこからだ?」
「んー……少々お待ちを」
スティアが足を止めたため、俺達の足も自然と止まる。
彼女はすぐに耳に手をあて、その目を閉じた。
建物がある場所は音が反響し、場所の特定が難しいらしい。その声の発生源を注意深く探っているのだろう。
俺達は黙って様子を見る。スティアは意外とすぐに目を開いた。
「女性と複数の男達が言い合う声が、この先から聞こえますわね。どうもスラム街の方向のようですが……どう致します?」
スティアは南の方角を指さし、視線をこちらに向けた。
女の悲鳴か。無視してもいいが、しかし知っていて素通りするのも気分が悪い。
「ちょろっと見て、問題なきゃスルーしよう。スティア、先導を頼むわ」
俺はスティアにそう返す。
だがそんな時、また無粋な声が下から上がった。
「いたぞっ! あそこだーっ!」
傭兵が路地にまで入ってきて、俺達を見上げて声を張り上げる。
しつっけぇなぁ……。何でそんなに執拗に追いかけてくるかね。どうせぶちのめされるだけなのによ。
「チッ! サッと行って、サッと町を出よう。スティア、頼んだ!」
「承知しましたわ。ではこちらへ!」
スティアは声がしたという方へ駆け出していく。俺達もその背に続き、屋根を蹴った。
俺達が移動すると、あちこちから「こっちだ!」だの「向こうへ行ったぞ!」などなど、傭兵達の怒鳴り声が聞こえてくる。
その情熱をもっと別の方向に向けた方が有意義だと思うがなぁ。時間の無駄だと分からんかね。
治安を守る部隊であれば、不審者を追うというのは正しい。だがあいつらは治安部隊どころか、むしろ賊に近いだろう。
だが普通賊というのは、敵わない敵には噛み付かないものだ。鎮圧されるからな。
つまりあいつらは敵わない相手にも吠えかかる、知能が低い野犬と同じだ。
そんなんで傭兵なんてまともにやれるのかね。こっちが心配になってくるわ。
「あそこですわ!」
余計なことを考えつつスティアの背を追いかける。すると彼女が後ろをチラと向き、前方をピッと指さした。
彼女が示す方向に目を向ける。そこには倒れ込んだ一人の女と、それを取り囲む傭兵達の姿があった。
なるほど、向こうも向こうで傭兵絡みの面倒事らしい。
事情は知らないが、倒れた女を複数の男が取り囲むなんて、どっちが悪者か一目瞭然だ。
「貴方様」
「えーちゃん!」
スティアとホシが同時に俺を呼ぶ。
「どう致しますか?」
「どうする!?」
口ではそう言うが、しかし二人の目はどこか期待するような光を湛えている。
分かってるくせに聞くんじゃない。どう思うと後ろを向けば、バドもこくりと頷いた。
「決まってるだろ。行きがけの駄賃だ」
また前を向き答える。
二人はニッコリと笑った。
「それではお先に失礼しますわ!」
「突撃だーっ! ひゃほーいっ!」
「あっ、こら待て!」
楽し気な掛け声と共に、スティアとホシは我先にと屋根から飛び降りていく。俺の静止なんて聞いちゃいねぇ。
そりゃあの程度の傭兵なんぞ相手にはならんだろうけどさ。俺の味方はバドだけだよ、全く。
と思ったが、バドもすぐその後に続いて飛び降りていった。
ちょっとアンタ達待ちなさいよ! わたしを置いて行くんじゃないわよ!
「おい、いい加減言う事を聞いたらどうなんだ。俺達は女でも容赦しねえぞ。痛い目を見たいわけじゃないだろうが?」
「そうだぜ。せっかく代官様が目をかけてやるっつーのによ。馬鹿じゃねぇか? こんなスラム街で何がしてぇんだか」
屋根から飛び降り前を向く。傭兵達は依然として女を取り囲み、彼女を見下ろして威圧的に笑っていた。
そんな彼らを女は倒れたまま見上げている。後ろ姿でどんな表情をしているか分からないが、まあ十分想像できるわな。
「まったく、手間かけさせやがるぜ。オラ! こっちに来やがれこのアマッ!」
傭兵の一人が女へ手を伸ばす。そしてその腕を掴もうかといった、その時だった。
「弱い者いじめ反対だーっ! うりゃうりゃうりゃーっ!」
「ぶごぁっ!?」
うちのチビっ子が楽しそうにメイスを振り回し、その男を殴り飛ばした。
まるで蹴られたボールのように吹き飛んでいく男。
大丈夫かアレ。流石に死んでねぇと思うが。
「なっ!? こ、こいつっ!?」
「何だこのクソガキがぁッ!」
突然現れたホシに、次々に武器を抜く傭兵達。
奴らは剣を振り上げる。だがその反応は遅きに失した。
「女の子にクソガキはないでしょう! 反省なさい野蛮人共!」
「おごっ!?」
「ごはっ!」
傭兵二人のみぞおちに深々とスティアの短剣、その柄頭が突き刺さる。二人の男はぐらりとよろめき、そのままバタリと地に倒れた。
「レオンハルト! アレクサンダー! バルトロメウ!」
驚愕の表情で、倒れ伏した者達の名を呼ぶ最後の一人。だが無慈悲にも躍動する筋肉の塊が、そんな彼目がけて真っすぐに突っ込んでいく。
「うわぁぁぁぁあっ!!」
悲痛な叫びをその場に残し、最後の一人も強烈な拳に意識を断たれ、ドサリと崩れ落ちた。
その場に残るのは楽しそうな三人と、ただ見ていただけの俺。そして倒れたままの女。
あーもう、俺の分も残しておいてくれよ……。消化不良だ。くそう。
「と、いかん。よっこいせ!」
「ひゃあっ!?」
気を取り直し、俺は女の腰を小脇に抱えて持ち上げる。
女から素っ頓狂な声があがるが、今は急ぐんだ。ちっと乱暴なエスコートだが、少しくらい勘弁してくれやなぁ!
「お前ら、傭兵共が来る前にずらかるぞ!」
『了解!』
とりあえず、この場に留まるのは不味い。倒れた傭兵達をそのままに、俺達はダッと駆けだした。
スラム街と言えば、狭く入り組んだ路地に密集した家屋と、身を隠すにはもってこい。入り込んでしまえばこっちのもんだ。
まずはこの嬢ちゃんを送って、それから適当に身を隠した後この町を出てしまおう。
「付き合わせて悪いな嬢ちゃん! 巻き込んだ詫びじゃねぇが、このまま送ってくぜ! どこに行きゃいいんだ!?」
俺はスラム街を爆走しながら、抱えた女に声をかける。
向こうの面倒事を解決してやった形だが、そもそもあれはこちらのバタバタに巻き込んだ結果じゃないかと思う。
その程度してもいいだろう。そう思っていたのだが――
「ひっひっひ……嬉しい事言ってくれるねぇ。何だい、アタシをナンパしてんのかい」
「なっ――!」
俺の耳に聞こえたのは予想外の声色だった。
妙なしゃがれ声にぎょっとする。目を向けて見れば、そこには皺くちゃの婆さんがにやにやと笑っていた。
おいおいこれのどこが嬢ちゃんだ! ババアじゃねぇか誰だ嬢ちゃんとか言ったのはよぉ!
傭兵達もこんな婆さん攫おうとしてんじゃねぇよバカ! 普通に勘違いしたわ!
「照れるじゃないか。アタシに惚れちまったって? やれやれ困ったねぇ。罪作りな女だよアタシは」
「貴様ぁッ! 戯れもほどほどにしておけッ! その口、開かないようにしてやろうか!」
婆さんはなおも揶揄うように笑う。だがそれに反応したのは、当人の俺でなくスティアの方だった。
「おいスティア! お前も婆さん相手に本気にするな! 一々食って掛かるんじゃねぇ!」
「ひっひっひ……! 子供は何人欲しい? ダーリン!」
「この色ボケババアがぁーッ!」
婆さんのちょっかいに、スティアが急にマジギレし始める。婆さんに対抗意識燃やしてんじゃねぇよ本当によぉ!
顔を突き合わせる婆さんとスティアをなだめながら、俺達はスラム街をひた走る。幸い傭兵達の追っ手は撒けたようで追撃はなかった。
だが……なぁ。
「そこになおれ貴様ッ! その口を今すぐ縫い付けてやるッ!」
「いくら口を縫い付けても、この激しく燃える愛は消えやしないんだよ! ひっひっひ! 残念だったね!」
「むがーッ!!」
「うるせぇーッ! お前ら黙れ! 逃げてんのに居場所知らせてどうすんだバカ!」
いつまでも下らないことで騒ぐ二人に、俺は思わず悲鳴のような声を上げた。




