160.忘れていた依頼
引きずられていったスティアを店内に入って探すと、店の奥にある一室で、困惑顔を浮かべ先ほどの店員に採寸を受けている彼女の姿を見つけた。
無理やり引っ張って行ったのもそうだが、それ以上に、見た目だの体型だのをあれこれ言うのは、流石に初対面で失礼すぎる。
俺なんてスティアがまだ丸くなかった頃に、「お前ガリガリだな、飯食ってんのか?」なんて言って、ナイフを飛ばされたぐらいだからな。命に関わる。
そんなことを思い出しつつ、店員に苦言を呈そうとしたのだが、
「なあ、あんた。あのなぁ――」
「しっ、静かに! 今いい所なんだから、そんなダミ声で話しかけないで! お願いだから向こうへ行っていて!」
「ダ、ダミ声ってお前……」
店員に話を聞こうと近寄ると、向こうに行けと怒鳴られてしまった。
そりゃ俺は汚ぇ声かもしれねぇよ。でもなぁ、元山賊のおっさんが、心が澄んだような声なんて出せるわけがねぇだろが。逆に気持ち悪いわい。
剣幕に押され、俺はすごすごと引っ込む。どうやらあの店員は、スティアの姿を見てインスピレーションが湧いたらしい。非常に真剣な顔つきで、鼻息もかなり荒かった。
正直迷惑だが、しかし俺にもこういう時があるから何となく気持ちが分かる。いてもたってもいられない感じというのか。
あのシュレンツィアを救ったマー君―― マジックカートリッジ交換型魔導戦車試作機mk-Ⅱのことだ――もそれで生まれたからな。
店員には非常に共感できる。だが共感できるからこそ、彼女が人に言われて止まらないだろうことも同時に理解できてしまう。
「面倒臭ぇのに引っ掛かったな……。しゃーない。バド、お前はここでスティアを見ててくれ。あの店員が変なことをしないようにな」
興奮状態の店員に危機感を覚え、スティアの安全をバドに託す。守りに定評のあるバドだ。何かあってもきっと大丈夫だろう。
バドがちょっと困惑しているように見えるが、俺は気付かないふりをした。
「あたしもここにいる!」
すでにテーブルにちゃっかりと座り、他の店員にお菓子を貰っているホシ。
嬉しそうに足をパタパタさせてご機嫌だ。行儀が悪いから止めなさい。
「それなら俺だけでギルドに行ってくるわ。報告だけなら一人で十分だろ」
思わぬところで変な奴に引っかかってしまった。だがあの勢いでは、スティアから無理に引き離そうとすると、何だかんだとまとわりついて来て手に負えなくなるだろう。
ならその熱が可及的速やかに冷めるようにしてやるしか、こちらに打つ手はないと思われます、はい。
仕方がないと頭を掻きつつ、俺はその店を一人後にする。
ホシの「いってらっしゃーい!」という明るい声と、「あ、貴方様! 助けて下さいまし!」というスティアの焦った声が聞こえたが、俺はそれに背を向けた。
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「南っつっても、ギルドはこっちで合ってんだかなぁ」
道案内をスティア頼みにしていた俺は、ギルドの詳しい場所も分からず、とりあえずスティアが行こうとしていた道を真っすぐ歩いていた。
だが南と一概に言っても随分広い。道すがら誰かに聞いてみようかと思うも、不幸にも今は誰の姿もなかった。
流石に頭上に飛ぶシルキーモスに聞くわけにもいくまい。
まあどうしてもとなったら、どこかの店にでも入ればいいか。そんなふうに軽く考えていた時だった。
(……ん? 何だ、衛兵か?)
俺の目に、四人の衛兵達の姿が映った。
彼らは俺の向かう方向からこちらへ歩いてくる。だが、どうにも巡回中という雰囲気ではない。
急ぎ足で歩く姿からは、少しピリピリとしたものが感じられた。
彼らは鎧を鳴らしながらこちらへ向かってくるが、目は俺を見ていない。
だからそのまま素通りしていくだろうと、俺は何と無しに見ていたのだが。
「む? 皆待て」
先頭を歩いていた衛兵が後ろの三人を呼び止めながら、俺へと視線を向けてきたのだ。
「そこのフードの男。君は冒険者か?」
俺へそう話しかけながら、彼らは歩調を緩めて近づいてくる。
口調は穏やかだ。しかしそれには、どこか探るような気配も滲んでいた。
「ああ、さっきここに着いたばかりだ」
「なるほど。ようこそルーデイルへ。とその前に……すまないが、顔を見せてもらってもいいだろうか」
反射的に眉がピクリと動く。なぜだろう。町に入っている以上、不審な輩ではないことは確認できているはずなのに。
ここで顔を見せろと言うのはどうにも不自然に思える。彼らの意図が気になり、俺の頭が急速に動き出した。
まさか、王国から俺の捜索命令が出されたか? となれば事態は非常に不味い。
この衛兵達を撒くのは簡単だ。だが問題はそこにはない。
この町でそんな事態になったとなれば、十中八九この先の町でも同様の事が起こる。つまり町を経由して東に向かう事が非常に困難になると言う事だ。
俺は内心冷や汗をかきながら、ゆっくりとフードを脱ぐ。
さて、どういう反応を返されるか――
「確かに見ない顔だな。この町には一人で?」
セーフ! 全く冷や冷やさせやがるぜ衛兵共め!
何が顔を見せろよ! ドキドキさせるんじゃないわよ!
「いや。仲間もいるんだが、今は別行動中だ」
「仲間……別行動とは?」
「向こうの店でさっき店員に捕まってな。無理やりモデルさせられてるよ」
「モ、モデル?」
困惑した顔を見せる衛兵達。そりゃそうだ。意味分からんよな。俺もだよ。
近くを通ったら店に引きずり込まれるとか、押し売りってレベルじゃねぇ。もう魔物みたいなもんだ。
「そ、そうか。分かった。……一応聞くが、この町は初めてか?」
顔を見せれば終わりかと思えば、衛兵達はなおも声をかけてくる。
なんだろう。初めてだと何かあるんだろうか。
俺は不思議に思いつつも丁度いいと、首肯しながら口を開いた。
「ああ。それで今ギルドを探してるんだが、場所がよく分からなくてな。こっちで合ってるんだろうか?」
「ああ、冒険者ギルドの場所か。それならこの道をそのまま行けばいい。真っすぐ歩くと森に突き当たるんだが、その辺りにある。まあ行けば分かるさ」
俺の疑問に、衛兵は後ろを指さして答えてくれた。
なるほど。かつての偉人も言ってたな。迷わず行けよ、行けば分かるさってな。
だがまだ何かあるのか、彼は振り向いた後、ただ、と更に口を開いた。
「森には絶対に入らないようにしてくれよ。森はシルキーモスの縄張りだ。町の人間は大丈夫なんだが、あんたが入ればどうなるか保証はできないからな。たまに考え無しの冒険者が森に入る事があってな、ギルドにも注意喚起を徹底させているんだが、これが中々無くならない。困ったもんだ」
そこで俺は合点がいき、なるほどと頷く。彼らが俺の顔を確かめようとした理由は、きっとこれだったのだろう。
彼は俺を守るように言うが、きっとシルキーモスの方を守りたいんだろう。この町の貴重な財産だからな。
「君がそんな冒険者であってくれない事を祈るが」
「分かった。気を付けるさ」
「そうしてくれ。――よし、行くぞ!」
彼らはそう言って、俺の横を急ぎ足で通り過ぎて行く。急な案件でも入ったんだろうか。ご苦労なことだ。
彼らの背中を見送りながらフードをかぶり直すと、俺はまた南へと足を向ける。
そうして数分程歩いた後。深い森と、そこにひらひらと飛び回る数匹のシルキーモスの姿が目に映った。
森の近くに冒険者ギルドらしい建物もある。ここが衛兵達の言っていた森の突き当たりだろう。
結構歩いたなと思うものの、だが俺の目は目的地よりも森の方に行っていた。
「……もしかして、ここが町と森の境目なのか?」
先程衛兵達から聞いたときは何とも思わなかったが、実際に見てみると異様な光景に疑問が湧いてくる。
普通なら町の周りをぐるりと囲む、柵なり防御壁なりがあるはずだ。俺達が通った西門にも、それらしき柵があったのをこの目で見ている。
だがどうしてか、ここにはそれがない。不思議に思いながら森に近づくと、急にシルキーモス達の様子に変化が見られた。
「――っ!?」
咄嗟にその場から飛び退く。森に近づく俺を見て、シルキーモス達に警戒の色が見られたのだ。
もしそれに気づかず進んでいたら、敵とみなされて攻撃されていたに違いない。どうやら森に入るだけでなく、近づくのも駄目らしい。
「その森に入ってはなりません」
一人冷汗をかいていると、背後から声がかかる。
振り向くとそこには一人の男が立っていた。
「シルキーモス達に滅ッ! されちゃいますぞ! ノホホホーッ!」
「またお前かっ!」
そこに立っていたのは紛れもなく、シュレンツィアの冒険者ギルドにいたマァドだった。
「ふむ? また、とは何ですかな? もしやナンパのつもりですかな?」
「誰がテメェをナンパなんぞするかっ!」
その胡散臭い男は胡散臭い仕草で小首をかしげる。しかしその出で立ちは見間違えようがないものだった。
頭の両脇を刈り込み中央をアップにするというツーブロックの髪形に、鼻の下にはカイゼル髭、丸眼鏡に蝶ネクタイと、相変わらず胡散臭さが天元突破している。
「お前マァドだろ! なんでこんなところにいやがる!?」
「おっと、そう言うことでしたら早合点が過ぎますな。もうちょっと落ち着かないと、恥ずかしいことになりますぞ~? ンノッホ!」
「お前と話してることが既に恥ずかしいよ俺は!」
そういえばシュレンツィアに着いた時にも、こんな話をしたような気がする。
俺がにらみ付けると、そいつは涼しい顔でこう答えた。
「わたくしはツーケィ。マァドはわたくしの従弟ですな!」
「またこの展開かよ!」
なんだこいつら。血縁者全員が全くの同一人物にしか見えないんだが。
血が濃すぎだろ。呪いか何かか?
「このカイゼル髭がその証拠ですな!」
そう言って奴は髭を指で摘まんで見せる。そう言われてみれば確かに、マァドはちょび髭だった気がする。しかし俺の目の前にいるのはカイゼル髭。
なるほど、髭の形が違うのか!
「――って、髭の形が違うだけじゃねぇかふざけんな!」
「ノッホホ! 至って真面目ですが?」
「余計性質が悪いわ!」
しれっと言うマァド――じゃなくてツーケィ。何なのこの胡散臭い一族は。
俺が一人イラついていると、何だかよく分からない独特な恰好をしながら、ツーケィはピッとある場所を指差した。
そのポーズに意味はあるのか? 一々イラつく野郎だ。
「そこの看板をご覧なさいな。あのまま入っていたら大変なことになっておりましたな」
その場所に目をやると、確かに看板が立てられており、そこにはこう書かれていた。
「この森はハルツハイム伯爵家の私有地である。関係者以外立ち入ることを禁ずる。なお許可なく入ったものの身命の安全、および受けた損害に関しては、伯爵家は一切関与しない、か」
なかなか物騒な内容だ。つまり勝手に入って死んでも知らん、ってことだな。
俺が納得していると、ツーケィはまたもおかしな恰好をして、ピッと両手で森を指差した。だから何なんだそのポーズは。
「あのシルキーモス達は、この町の住人達が羽化させた魔物ですな。なので町の方々を攻撃することはありません。しかぁしぃ。この森はシルキーモス達の縄張りなのですな。なので、入ろうとすれば当然攻撃されることになりますな」
森に立ち入ればそこを縄張りとしている魔物に襲われる。それは当然のことだ。
衛兵達も言っていたが、この森はシルキーモス達が守っている。つまりこの森はルーデイルの町が誇る天然の防御壁ってわけだ。随分物騒な防御壁だなおい。
「いや、でも町の真上を飛んでる奴もいたぞ?」
「ああ、あれは大丈夫ですな。流石に攻撃すれば襲われますが、ちょっかいを出さなければ何もしてきませんな」
聞く話によれば、シルキーワームは世話をしてくれた人を覚えており、犬猫のようにとはいかないが、それでも少し懐くのだそうだ。そしてそれは羽化しても変わらないらしい。
ただ人間は年だったり病気だったりで引退することもあり、そうなると森に入ることが無くなってしまう。
それを寂しく思ったシルキーモス達が、その人に会いに町へ入ってくるそうな。
危険じゃないかと思ったが、そういうシルキーモスは人間の縄張りに入っていることを理解しているため、攻撃さえしなければ襲ってこないとのことだ。
なんか虫の癖に頭よくないか? いや、魔物だから虫とは違うのか?
うーん、考えても分からんな。そういうもんだと納得するよりない。
「なので、森に入るのはお勧めしませんな。ええ、お勧めしません。しませんとも」
「何で三回言った?」
俺のいぶかしむ視線を受けながら、目の前に立つ男は不敵にニヤリと笑った。
駄目だ、こいつのペースに乗せられては。俺は学んだんだ、セントベルとシュレンツィアで。この一族にまともに絡んでは時間の無駄だと。
「お前、どうせ冒険者ギルドの受付なんだろ? この町に到着したから報告だ。さっさと受理しやがれ」
「おや。わたくしが冒険者ギルドの受付と知っているとは。やはりこれはナンパ――」
「そういうのいいから早くしろっ! その髭剃っちまうぞ!」
「なんとご無体な! これを剃ったら双子の弟と見分けがつかなくなりますぞ!」
「まだいるのかよ……」
あまりにも聞く価値のない情報を手に入れながら、俺はツーケィの尻を叩くようにして冒険者ギルドの中へと足を踏み入れたのだった。
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「はい。パーティ”エイク様親衛隊”を、ルーデイル支部に登録しましたな」
俺の冒険者証をカウンターに起きながら、ツーケィはニヤリと笑った。
俺達のパーティランクは、シャドウの中に匿っている魔族達がシュレンツィアのオーク魔窟で大層暴れてくれたため、ランクBまで上がっている。
そのため冒険者証はそれを示す金色だ。個人のランクを示すドッグタグは未だにランクEの赤銅色だけどな。
《大将、ここの魔窟に行く予定はあるのか? あるんだよな? あると言ってくれ!》
シャドウの中で先ほどからオーリが騒いでいる。普段は冷静なオーリだが、魔窟研究者である彼は、魔窟のことになると人が変わってしまう。
オーク魔窟にもぐっていた際に、オーリが珍しく連日ハイテンションだったことを思い出す。
《オーリ、うるせぇぞ! オーク魔窟であれだけ騒いだんだからもういいだろうが!》
《馬鹿者! 魔窟は一つ一つに特色があるのだ! 一つ調べればいいというものじゃない! 素人は黙ってろ!》
今もデュポとオーリが言い合いをしている。だんだん白熱してきて非常にうるさい。しかしこんなところで彼らに話しかけては俺はただの不審人物だ。
俺はそしらぬ顔で独り口をつぐむ。すると急に何かで殴られたような音が二つ聞こえた。
《ごめん大将。静かにさせたからもう大丈夫》
続いてコルツが呆れたような声で話しかけてくる。どうやら彼女が二人を気絶させたらしい。
《あの……デュポさんも気絶させた意味は……?》
《デュポ……》
しかしロナの言う通り、デュポはオーリを宥めていただけだ。だと言うのに、一緒くたに殴られたのか。
ガザの憐れみを含んだ声が、最後に俺の耳に静かに届いた。
「――で、いかが致しますかな?」
「え?」
ツーケィが何やら話しかけてきて意識が目の前に戻る。何か言われていたらしいが、オーリが騒がしすぎて聞いていなかった。
「悪い、聞いてなかった。何だって?」
「しょうがないですなぁ。わたくしとカーテニア様との仲ですから、もう一度だけ説明させて頂きますな。うっふん」
急にしなを作ったツーケィに拳を振り上げると、奴はビシッと姿勢を正した。初めから真面目にやれ。
「えー、カーテニア様、並びに他の三名の方ですが、ランクDに昇格できる条件が満たされておりますな」
「え? ランクD?」
「後はこちらの指定する人間との実技試験を行い、実力が問題ないと判断されれば昇格できますな!」
「ま、待て待て!」
ニィと歯を見せて笑うツーケィ。しかし条件を満たしたという意味が分からず、俺は困惑の声を上げた。
「確か、ランクD昇格には護衛依頼達成が必須条件だっただろう? 貴族の護衛依頼も必要だったと思うが?」
「ですな。”エイク様親衛隊”はすでに条件を満たしておりますな」
「いやいや、覚えがないぞ!?」
「そうですかな? えーっと、少々お待ちを」
首を九十度も傾げるツーケィ。それ首折れてねぇのか。
だが奴はすぐに髭を指で弄りながら、キャビネットの引き出しを開けて何かを探し出す。程なくして一枚の紙を取り出し、カウンターへと置いた。
「えー……ハルツハイム伯爵家から、ご令嬢の護衛依頼完遂の依頼票が届いておりますな。護衛依頼六件の達成とのことですので、護衛依頼の条件については問題なくクリアしておりますな!」
「あっ」
そうか。すっかり忘れていたが、シュレンツィアで伯爵の娘、フィリーネを護衛したことがあったんだった。
訓練が主だったため、全く思いつかなかった。
思えば、確かにフィリーネを伴って、六回くらい魔窟にもぐった気がする。それを伯爵は律儀にも、こうして冒険者ギルドに連絡してくれたのか。
「あと護衛の報酬については、多額すぎるので冒険者ギルドで立て替えはちょっと難しいですな。伯爵も是非直接渡したいと仰られておりますから、恐れ入りますがそうして頂けるとありがたいですな」
立て替えが難しいって、一体いくらだ。聞くのが怖い。絶対、護衛依頼以外の何かが含まれているだろう。
そう考えてハッとする。伯爵は、俺が出奔したことで騒ぎになっていると言っていた。
つまりだ。このエサにつられてシュレンツィアに戻ったところを、何食わぬ顔で捕獲してしまおうという魂胆かもしれない。
うん、その線が濃いな。ふっ、俺はそう簡単に騙されんぞ。
「分かった。ま、そのうち行くわ」
俺の顔を胡散臭い表情で見つめるツーケィには、そう適当に誤魔化しておいた。
「それで、昇格はどうしますかな?」
ツーケィの言葉に俺は思考を巡らす。
どうもこのランク制度というものは殆どの場合、個人とパーティ、二つのランクのどちらか高い方を優先して、ギルドの支援内容を決めるようなのだ。
つまり個人のランクがEだとしても、パーティランクがSだったなら、ランクSの支援が受けられると言うことだ。
ならわざわざ時間を潰して昇格試験を受ける必要性が全く無い。
「Eのままでいいわ」
俺はツーケィにそう答える。
答えた後、なんかギャグみたいになったなと思っていると、
「そのオヤジギャグつまらないですな」
そう心底つまらなそうな顔をしてツーケィに突っ込まれてしまった。
こいつら本当にもう……なんなんだよ。俺をいら立たせることに命でもかけてんのか。
俺はひくひくと頬を引きつらせる。
ちくしょう。誰か助けてくれ。




