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元山賊師団長の、出奔道中旅日記  作者: 新堂しいろ
第三_五章 揺らぐ心、揺るがぬ信頼

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幕間.男達の憂鬱

中盤、暴力表現が強めです。苦手な方はご注意ください。

本編の掘り下げなので、読まなくても問題はありません。

苦手だけど内容が気になる……という方は、------------------で区切られた中央部分を飛ばしてご覧ください。中盤がどんな内容だったか、なんとなく分かるかと思います。

 シュレンツィアから少し離れた丘の上。町が小さく見えるその場所に、陣を張っている一団がいた。

 陣の中では歩哨(ほしょう)が歩き回り、厳しい面持ちで警戒に当たっている。

 現在王国は魔族達と戦争の真っただ中。彼ら王国兵達が警戒するのも当然の事であった。


 しかし。その点を考慮してもなお、歩哨(ほしょう)達の表情は非常に鋭く険しい。そのただならない様子に、肌を突きさすような張り詰めた空気が陣の中に漂っていた。


 そんな険しい空気の中、激しく足音を立てながら真っすぐに走る兵士達がいた。

 その三人の兵士達はわき目も振らず陣の中を全力で駆け抜けると、入り口に立つ兵すら目に入らない様子で、慌ただしく陣中央のテントへ駆け込んで行った。


「大変だ! エイク様っ!」


 そのテントの中では現在、軍議の真っ最中であった。中央に置いてあるテーブルを囲んで軍の幹部たちが揃って座っている。

 そこへ急に駆け込んできた不届き者。皆の視線が集中するのは自然なことであろう。


「何だアノールト! 貴様、今軍議中だぞ!」


 一人の男が椅子から立ち上がり、飛び込んできた男に怒声を浴びせる。だがアノールトはそんな声になど目もくれず、二人の男を伴いズカズカと足を進め、バンとテーブルに両手を突いた。


「第二部隊の第二中隊、第四中隊がシュレンツィアに出撃しちまった! もう一時間以上経ってるらしい!」

「な――何だとッ!?」


 そこにいた全ての人間が、顔を驚愕に染めて椅子から立ち上がる。予想だにしなかった報告に、周囲の時が凍り付いた。

 だがその拘束から逃れ、いち早く動いた者がいた。その男は巨体に見合わぬスピードでテントの出口へと走る。


「バド殿っ!」


 第四部隊の隊長、アゼルノが即座に声を飛ばすが、バドの足は止まらない。

 彼の体はそのままテントの外へ飛び出そうとして――


「バドッ! 抑えろッ!!」


 しかし続いたその一喝で、拘束されたようにピタリと止まった。

 くるりと振り向いた彼の表情は、黒のフルフェイスヘルムに覆われて見えない。しかし納得がいかないとその気配が物語っていた。


 バドを一喝した男、師団長のエイクは、アノールトに目を向ける。それと同時にアノールトの後ろから二人の男が歩み出てきた。


「発言をお許しくださいッ! 私は第二部隊、第二中隊所属、”水月傭兵団”のトマスと申しますっ!」

「私は第二部隊、第四中隊所属、”茜の傭兵団”のスヴェンと申しますっ!」


 二人はザッと敬礼すると、そのままの態勢で弁明を始める。


「”水月傭兵団”は、長きに渡ってシュレンツィアに本部を置く、ハルツハイム領に根差した傭兵団です! シュレンツィアには家族がいる者も大勢います! 我らは、それを見捨てることなどできません! どうか、お許しくださいッ!」

「”茜の傭兵団”は先の王都防衛戦にて、”水月傭兵団”に救われた恩があります! その恩を返す機会はここしかないと判断致しましたっ! 勝手な行動、申し訳ありませんッ! 罰はいかようにも受けますッ!」


 悲鳴を上げるように言う二人の目からは、はらはらと涙が流れていた。


 魔族がシュレンツィアを襲撃し、門を破壊し中へと雪崩れ込んで行ったのは二時間程前のことだ。第三師団はそれを把握しながらもここに陣を張り、様子を伺っていたのだ。


 理由は明快である。この陣の中にいる兵士の数は凡そ七千ほど。対する魔族は二万。地力でも数でも勝る魔族軍に、勝てる見込みが全くなかったからだ。

 それに本来であれば今ここに、第一師団が加わっているはずなのだ。予定外の事態に、すでに第一師団へ早馬を飛ばしている。

 それらの理由があり、ここで悪戯(いたずら)に兵の命を散らす手は打てないと、断腸の思いで待機していたのだ。


「――馬鹿野郎がッ!!」


 エイクは思い切りテーブルを殴りつける。テーブルは真っ二つに折れ、周囲に破片が飛び散った。


 二つの中隊は合わせて千八百人にも上る。誰に知られることもなく抜け出すのは絶対にありえない数だ。

 それが第三師団の幹部らに知られず消えたと言うのはつまり、それを手助けした者がいるということ。

 ならば今把握できていないだけで、他の傭兵団もそれに参戦している可能性すらあった。


 彼らの気持ちは痛いほど分かっていた。彼らに恨まれることも覚悟で、恫喝交じりに待機命令を出した。

 しかし、結局その無謀な行為を止めることは叶わなかった。


 エイクは(ほぞ)を噛むような思いで歯を食いしばる。ギリギリと歯が軋む音が、テント内に微かに響いた。


「ここにいる奴らは何があろうと待機だッ! もし陣から出ようとしたらブッ殺してやるから覚悟しやがれッ!」

『――はっ!!』


 ブルブルと震える拳を握り締めながら言う師団長に、幹部らは敬礼を返す。

 憤怒の表情でテントを去るエイクの背中を追い、バドとアゼルノの二人も慌ててテントから出ていく。

 残されたテントには、沈痛な面持ちを浮かべる面々が残った。


 その場にいる誰もが口を開かず沈黙している。そんな彼らの耳に、二人の男の嗚咽だけが痛ましく届いていた。



 ------------------



 その日から二日後。ようやく第一師団が第三師団に合流し、シュレンツィアは魔族の手から守られた。

 第一師団の合流時、互いの師団の長が激しくぶつかり合ったものの、防衛戦自体は王国軍に大きな被害もなく、シュレンツィアを守り抜いて幕を閉じることとなった。


 だが。この防衛戦はそこで終わりとはならなかった。

 戦を終えたその日、深夜のことである。


「貴様らっ! 第三師団の者か!? くっ……私を誰だと思っているのだ!」


 一人の喚く男を捕縛し、兵士達が一つのテントへと向かっていた。


 男はギャンギャンと威勢よく喚いているが、兵士達は意に介した様子もない。

 喚く男を引きずるようにテントへと運び込むと、地面に叩きつけるかの如く放り投げた。


 男は苦痛の声を漏らす。そして先ほどからの不当な扱いに文句を言わずにいられず、顔を上げた、その時である。


「お前か。話にあった大馬鹿野郎ってのは」


 男の目に二本の足が映った。その人物を見ようと更に顔を上げ、結果見たその顔に、男は怒気を露にした。


「貴様っ! エイクっ! 私をこんな目に合わせたのは貴様かっ!」


 男は眉を吊り上げながら身じろぎして立ち上がる。

 彼は後ろ手に縛られているが足は縛られておらず、猿轡(さるぐつわ)も目隠しもされていない。強制連行されている割には意外にも比較的自由に動ける状態であった。


「卑しい身の上の貴様が私をこのような目に合わせるとは、思い上がりも甚だしいっ! 私はバルトルト伯爵が次男、ロキュス・フレット・バルトルトだぞ! やはり貴様に師団長など務まらん! 盗賊風情が調子に乗りおって! この所業――」


 父上に掛け合い、必ず貴様をさらし首にしてくれる。

 そう吐かれる筈だった言葉は、ついぞその口から紡がれることはなかった。


「ブガハァッ!?」


 ロキュスの顔にエイクの拳が深々と突き刺さったからだ。

 無様にも地を転がるロキュス。だがエイクは無言のまま彼に近づくと、更に拳を雨のように降らせた。


「ゥガッ!? ガハッ!! や、やめっ! ウゴッ!? ゲハッ!!」


 ロキュスの悲鳴と彼を殴打する音のみがテントに鳴り響く。

 彼を連れてきたトマスとスヴェン、そして最初からその場にいたアノールトや第三師団の幹部らは、止める気配もなく黙ってそれを眺めていた。


 ロキュスの悲鳴に懇願が混じり始めた時、やっとエイクは手を止める。ロキュスの顔はすでに原型を止めないほどに張れ、歪み、血に濡れていた。


「ウゲッ……ひぐっ……もう……やめ……」

「なんでテメェがこんな目に合ってるか、分かってんのか」

「な、なぜ……私が……っ?」

「テメェが今回の作戦の伝令役にちょっかいをかけたって話はもう知ってんだ。テメェが黒幕と共謀し、ハルツハイムと俺達を潰そうと画策してたってこともな」

「――っ!?」

「まさか”王家の影”すら抱き込んでやがったとはな。おかげで俺達はこんな場所でお前らに待ちぼうけを食らう始末よ。やってくれやがったな」


 ロキュスは息を飲んだ。エイクの言う通り、彼は黒幕からの指示を受けシュレンツィア防衛作戦の伝令役となっている兵士を買収し、ハルツハイムに嘘の情報を渡すように指示した男だった。

 また、それだけではない。

 王国の暗部、”王家の影”。彼らを使い第一師団の到着を遅らせたものまた、ロキュスの仕業だった。


「そ、それは……っ!」

「俺はな、俺を舐めた奴には容赦しねぇ主義なんだ。貴族だか何だか知らねぇが、俺には関係ねぇ。当然お前にも――一切容赦はしねぇぞッ!」


 エイクは腰の剣を抜き放ち、素早く振り抜く。


「う――ぎゃぁぁぁぁあっ!!」


 薄暗いテントの中に銀の輝きがぬるりと滑り、ロキュスの両手がぼとりと落ちた。


「血を止めろ」

『はっ!』


 エイクの命令を受け、兵士らはロキュスの両腕を乱暴に血止めする。

 手を失った痛みと、きつく手首を縛られる痛みにロキュスは地面をのたうち回りながら悲鳴を上げ続けた。


「うるせぇんだよテメェはっ!」

「ぃぎゃぁぁっ!」


 そんな彼の顔をエイクは思い切り踏み潰す。そして腰から抜いた刺突短剣(スティレット)を彼の腕に突き刺した。


「テメェがいらねぇ事をしたせいで、大勢の無関係の人間が死んだんだ。分かるか? そんな目に遭わなきゃならねぇ理由もねぇ人間達が、痛みに呻きながら死んでいったんだっ! テメェにそれが分かるかっ!」


 エイクは刺突短剣(スティレット)に力を入れながら低い声を出す。ずぶずぶと腕に沈んでいく短剣は、何かが塗布されているのか、しっとりと濡れていた。


 両腕に走る激痛に、ロキュスは返事すらままならない。しかしエイクが更にもう一本、今度は太ももに刺突短剣(スティレット)を突き刺すと、どうしてか徐々に痛みが薄れていった。


 普通ならなぜと思うだろう。だが恐怖と激痛によって混乱の極みに達したロキュスの口からは、ただただ懇願のみが転がり落ちて来た。


「ゆ、許してくれっ! そんなつもりじゃなかったんだっ! 命令だったんだっ! 私のせいじゃないぃっ!」

「大勢の人間を殺しておいて、テメェの命一つがそんなに惜しいか。クズがっ! テメェにはな、これから苦しみぬいて死ぬ以外の未来はねぇんだよっ!」

「嫌だっ! た、助けてくれっ! なんでもするっ! なんでもするからぁっ!」


 涙ながらに懇願するロキュスの目の前で、エイクは膝を突く。そして”それ”を拾い上げると、彼の目の前でぶらぶらと揺らして見せた。


「俺はこの程度で勘弁してやる。だがな。この後テメェに礼が言いたいって傭兵がわんさといるんでな。遠慮しねぇで楽しんでこいや」

「う――うわぁぁぁぁーッ!!」


 ロキュスは恐怖に絶叫する。だが彼を見る男の目は据わったままで、ロキュスを捕えて離さない。

 それがまたロキュスの恐怖をさらに煽った。


「テメェが黒幕の情報をすべて吐いたなら、その時点で楽に殺してやるから安心しろ。だがもし根性見せるようなら、仕方がねぇ。そんときゃここから出してやる」

「ほ、本当かっ!?」

「ああ。ここから出して、(はりつけ)にしてシュレンツィアの中央広場に飾ってやる。”私が町を魔族に襲わせたバルトルト伯爵の息子です”って看板立ててな。見ものだぜ、こりゃあ」

「そ、そんなっ!? 言う! なんでも言う! だから! だから助けてくれぇっ!」

「そりゃ無理だ。テメェを助けたいと思う奴は、ここにはいねぇ」

「あ、ああ……っ」


 貴族として生まれ、権威を振りかざし、平民を見下し上に媚びへつらい、そうして世を渡ってきたロキュス。

 彼は知らない。貴族の権威が全く通じない世界など、今まで彼の人生には無かった。


 この戦争でも権力を利用し、下の者を前線に送ることで自分の身を守り、得られる戦果だけを手に入れようと考えていた。それが貴族として当然とも思っていた。


 金が、権威が、名声が全てだった。

 それ以外の世界があるなど全く思わなかった。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーッ!!」


 そんな欲にまみれた人生は思いも寄らない急展開を迎えた。


 己の傲慢さを理解できないまま、彼は恐怖に絶叫する。

 自分の知らない世界があると初めて知ったロキュス。だがそんな彼の命が消える日は、片手で数えるほどしか残されていなかった。



 ------------------



 その数日後、第三師団の団長、そして幹部らは第一師団に殴り込みをかけ、ロキュスに吐かせた関係者らを問答無用で叩き伏せると第三師団の営倉へと連行した。

 その際に抵抗してきた第一師団の兵らは全員返り討ちにあい、しばし戦線を離れることになったそうだ。


 だがそれを、第一師団の長アウグスト・ガヴェロニアは単身第三師団に乗り込み、事態を収拾させる。

 結果、第一師団の兵らからは粗暴な第三師団に屈しない英雄として、尊敬の眼差しを受けることになるのだが――


「まさかあの第一師団長が、エイク様に謝罪するとは思わなかったよなぁ」


 アノールトは傭兵団本部の執務室で頬杖を突いていた。


「実際のところ第一師団の団長も、あいつらの動きを薄々察して動いてたみたいだからな。まあ止められなかった以上同罪だが。つーかアノールト、お前も仕事しろや」


 アノールトの隣には一人の男が座っている。

 彼がカリカリと羊皮紙にペンを走らながら文句を飛ばすと、アノールトは「はいはい」とおざなりな返事をした。


「あんときゃお前も死んだと思ってたが、生き残るとは思ってなかったぜ」

「俺もだよ」


 アノールトが皮肉な笑いを浮かべて言えば、男も苦笑するように顔を歪める。男の顔には大きな眼帯がつけられているが、それでも隠せない程の傷が、額から下顎にかけて痛々し気に見えていた。

 その体に左腕はなく、机に隠れ見えないが、左足も根元から忽然と姿を消していた。


 彼は”茜の傭兵団”の元団長、エーギル。シュレンツィア防衛戦の折、多くの団員達を失った彼だったが、左目、左腕、そして左足を失いながらも彼自身は辛うじて命を拾っていた。


 しかし、己の率いた”茜の傭兵団”及び、共にシュレンツィアを守るため戦った”水月傭兵団”、そして同じく参戦したもう三つの傭兵団はほぼ壊滅。

 五つの傭兵団は解散を余儀なくされ、生き残った四百人のうち三百人ほどが、当時アノールトが長を務めていた”鉄砕傭兵団”に吸収されることになった。


 経緯はどうあれ規模が拡大した”鉄砕傭兵団”は、それを機に名を”月茜(つきあかね)の傭兵団”と改める。そして”水月傭兵団”が残した想いを受け継ぎ、こうしてシュレンツィアに本部を構えているのであった。


「しっかし、エイク様にくっそダセぇところ見せちまったよなぁ……」


 アノールトは渋い顔で呟く。あの時ウォードを襲っていたのは、”水月傭兵団”の団長、ヒューイの忘れ形見達だったのだ。

 信頼篤い男だったヒューイ。そんな彼の息子達が嘘を言うとも思えず突っ走ってしまった結果、尊敬する男にみっともない姿を晒すことになってしまった。


 アノールトは自分が情けなさ過ぎて、あの時の自分に”破砕撃(クラッシュブレイク)”を食らわせてやりたい気持ちでいっぱいだった。


「お前はまだ挽回できるからいいだろうが。俺なんて合わせる顔がねぇよ。命令違反の尻まで拭って貰っちまってよぉ。汚名も被せちまったしよぉ」


 そんなアノールトを横目で見ていたエーギルは、自分の方が重傷だと言わんばかりに肩を落とし長嘆息を漏らす。

 エーギルの言う通り、第三師団は命令違反をした上、第一師団に不当な八つ当たりをしたとして、当時貴族の間で非常に揉めることとなった。


 事情を知る王子らが御咎めなしとしたものの、不満に思う者達がそれに納得するはずもなく、それ以降さらに第三師団を見る目は厳しさを増すことになったのだ。


「エイク様も気にすんなって言ってただろうが」

「んなこと言われても気にすんだよタコ助がっ!」

「きったねぇなっ! ツバ飛ばすんじゃねぇっ!」


 二人は罵り合いながら書類と格闘を続ける。

 傭兵団とは言え武器を手に戦ってばかりではない。こうしてペンを手に書類と戦うこともまた仕事の一つなのだ。

 それ故戦う力を失ったエーギルら傭兵達も、事務や武器の管理などの雑務担当として、こうして”月茜(つきあかね)の傭兵団”に在籍しているのだ。


「あ? なんだこりゃ?」

「どうした?」

「……マジか」

「だからどうしたってんだよ?」


 エーギルが一つの羊皮紙を掴み、目を丸くしながら呆然とした様子で口にする。


「領主様から、二か月くらい後にハルツハイム騎士団と合同で演習しねぇかって依頼が」

「は?」

「報酬が、最低金貨十枚らしいぞ。必要経費は向こう持ちで」

「――はぁぁぁっ!?」


 バッとエーギルの掴む羊皮紙を取り上げ、アノールトもそれに目を落とす。


「……本当だ」


 傭兵団はその名の通り雇われ兵である。その立場上、兵らと同列に扱われることはまずない。

 それがここにきて演習のお誘いである。


 それはハルツハイム騎士団と比肩する実力があると目されたことの証。

 対等な者として扱うだけの価値がある。そう明言しているのと同じ意味を持っていた。


「これ以上恥かかないようにしろよ、アノールト」

「テメェ……自分が戦えねぇからって簡単に言いやがって! 入ったばっかの奴だって多いんだぞ! 騎士団相手にどうしろって言うんだよおいっ!」

「ちょっ! 待てコラッ! 俺は片手片足ねぇんだぞ!」

「うるせぇ! 表に出ろ!」

「出るわけねぇだろ! 出たいなら一人で外出て腹踊りでもしてやがれっ!」

「なんだとこのクソダサ眼帯野郎ッ!」

「放しやがれイカレトマト(モタモ)頭がぁッ!」


 突然ギャアギャアと醜い争いを始める二人。面倒な仕事が入ると突然団長室が騒がしくなるのは、月茜(つきあかね)の傭兵団では日常茶飯事だった。


 現実から逃避するように争うエーギルとアノールト。その二人を止めるため、団員達が部屋に雪崩れ込むこともまたいつもの光景であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >そんな目に遭わなきゃならねぇ理由もねぇ人間達が お貴族様の権力闘争に必要な犠牲、というのが王国として掲げる理由だと思うよ
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