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元山賊師団長の、出奔道中旅日記  作者: 新堂しいろ
第三章 落涙の勇者と赫熱の令嬢

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122.伯爵との面会

 入ってすぐの広いエントランス。そこには初老の男が姿勢正しく立ち、俺達を待っていた。


「お久しぶりでございます」


 男は慇懃に腰を折る。名前までは覚えていないが、確かに顔には見覚えがあった。

 向こうもそれを見透かしたのか顔を上げると、


「家令を務めております、ベルナルド・ヴェーゲナーにございます」


 と、さらに言葉を続けた。


 当主がお待ちです、と彼は半身を下げ片手で促す。

 ルッツは一歩引き、頭を下げた。彼はここまでらしい。

 俺達は家令に促されるまま、その背に続いた。


 普段なら客人をもてなすため、話の一つでも振るのかもしれない。しかしこちらの気配を察してか、はたまた歓迎されていないのか。

 まあ二年前は随分と嫌悪感を抱かれていたから、後者なのだろうが。理由はどうあれ家令の口は閉ざされたままで、城内には俺達の靴音だけが響いていた。


 道すがら、騎士の姿がちらほら目に映る。こちらを見る騎士達の目には、俺達をいぶかしく思う感情がありありと込められていた。

 先頭を歩くベルナルドもそれを察したようで、申し訳ございませんと軽く頭を下げたが、俺は首を振り先を急いでもらった。


 何せ、俺の装備は薄汚れたローブに使い古したレザーアーマー。後ろを歩くバドもお世辞にも綺麗とは言い難いローブ姿で、しかもどちらもフードを被ったまま。

 きっと、何だあの薄汚い平民共は、などと思われているんだろう。


 その通りだし、特に気にしていなかった。

 しかしベルナルドはもう一度ぺこりと頭を下げる。一呼吸おいて上げられた顔は、なぜか眉尻が下がったものだった。


「こちらで当主がお待ちでございます」


 しばらく歩き、通された場所。それは客を通す応接室ではなく、執務室だろう場所だった。


 なぜそう思ったのかと言えば、簡単なこと。周囲に装飾品などは一切無く、廊下敷きのカーペットも、客が上を歩くことを想定した華美なものではない。

 見た目で権威を表す貴族にしては、地味に過ぎたからだ。


 家令の顔を横目で見ると、彼はにっこりと笑い、どうぞと静かに扉を開ける。

 なるほど。俺達は客ではない、ということか。


 少々業腹ではあるが、まあ招かれざる客という意味では間違っていない。

 開け放たれたドアの向こうにいる男の姿にすっきりしない思いを抱きながら、俺はそのドアをくぐった。


 俺達全員が部屋へと入ると、後ろのドアは静かに閉められる。家令は部屋に入ってこなかったようで、伯爵の目の前には俺達三人だけが立っていた。


「お目通り頂き光栄です」


 俺は机に座る男に頭を下げる。伯爵は手元の書類にかりかりとペンを走らせていたが、しばらくして顔を上げた。

 その顔は依然見た通りの、厳しい顔つきだった。


「久しいな、エイク殿」

「二年ぶりですね」

「早いものだ。歳を取ると時が過ぎるのを早く感じると言うが……しかしこの二年という月日は特に、私にとってはまるで迅雷の如き速さであった」


 自分が四十を超えたのもいつだか思い出せないほどにな、と言いながらペンをスタンドへ置くと、彼は静かに立ちあがった。


 アルベール・リーヴェン・ハルツハイム。目の前の彼が、このハルツハイム領を治める領主その人だ。

 長助と同じプラチナブロンドを緩やかに後ろに流しており、はっきりと見える表情には確かに、若人には無いだろう影が見て取れる。

 何の非もないところで随分苦労をしているようだと、思わず同情してしまった。


 五年前に第二次聖魔大戦の引き金となる魔族の王都襲撃があり、その三年後にはこのシュレンツィア襲撃と続いた。

 彼の心労はいかほどのものだったか。恐らく本人以外には理解できないほど重いものだったことだろう。


 彼がスッと片手でソファを指したので、遠慮なく二人掛けのソファに伯爵と向き合うように腰掛ける。

 アノールトとバドはどちらが座るか後ろで少しもめていたが、結局バドが俺の隣へと座り、アノールトがその後ろに立つという形で落ち着く。

 そうこうしている間に、部屋にいたもう一人の男も微かに鎧を鳴らして、伯爵の後ろへついていた。


(確か騎士団長の、ロルフ……なんちゃらだったか?)


 俺達が来ると分かり、面識のある彼を呼んでいたのだろう。こちらを知っているからか、彼の視線には先ほどの騎士達とは異なり、侮蔑の感情は含まれていない。

 むしろ好感というか、友軍に向けられるような、なぜだかそんな気安さが含まれていた。


「さて……そちらは”月茜(つきあかね)の傭兵団”団長のアノールト殿だな。それで、彼は?」


 伯爵は視線だけを動かしバドを見る。そう言えば伯爵は、バドとは鎧姿の時にしか会っていなかったかもしれない。

 この部屋に入った時点でバドもフードを脱いでいるが、顔を知らなければ分かりようがないな。


「バドです。俺の部下の。第二部隊の隊長だった」

「あっ、ああ! バド殿かっ! 失敬、顔は見たことが無かったものでね。なるほど、ダークエルフだったのか」


 ふむ、と珍しいものを見るかのように彼は目を細めた。

 まあ、あのごつい黒塗りの全身鎧の中身が、イケメンスーパーマッチョダークエルフとは思うまい。

 珍しそうに彼の顔を眺めていた伯爵。しかしすぐにこちらへ顔を向けると、膝の上で手を組んだ。


「それで? 私に急用とは何事かね。あまり悪い話ではないと私も助かるのだが」


 ちくり、と嫌味を挟む。表情こそ普通だが、彼から伝わる感情も、やはり先ほどから良いものを感じない。

 確かに俺が伯爵とするのは悪い話ばかりだ。その心配が杞憂だったらどんなに良かったことだろう。

 だが今回もまた悪い話になる。俺には何の落ち度もないが、こうして言われると二年前の惨劇がまぶたに浮かび、気まずさが胸にふわりと浮かんだ。


「残念ながら悪い話です。今、騎士団のオットマーに調査に向かってもらっていますが、結果次第ではシュレンツィアを放棄する必要があります」

「――何?」

「はぁっ!?」


 伯爵は低い声を出す。反対に、アノールトは寝耳に水と、驚愕の声を上げた。

 俺は厳しい表情を浮かべる伯爵を真正面から見据え、


「オーク魔窟(ダンジョン)大海嘯(スタンピード)が発生している可能性があります」


 と、務めて冷静な声で伝えた。


「馬鹿な……」


 信じられないものでも見るような目で伯爵は俺を見る。だが静かに首を横に振る俺に悟ったのだろう。力が急に抜けたように、ふっと肩を下ろした。


 言葉が見つからないのか口を開かない伯爵。そんな彼に、俺はこちらが掴んでいる事情を簡潔に伝える。


「今は南西の街道の目撃情報が本当かどうか、確認してもらっています。ただ今までの状況を考えると、オーク魔窟(ダンジョン)への新しい入り口が周囲にある可能性は高いでしょう」


 俺の言葉に、伯爵は苦々しく顔を歪める。


「南西にオークが現れる事は私も知っている。だが何度か調査を命じたが、何も見つからなかった。そこにエイク殿はあると?」


 やはり伯爵も知っていたか。冒険者ギルドにも情報があるくらいだからな。

 何度か調査しても見つからないと言う事は、分かりにくい場所にあるのだろう。

 だが今回はあの勘の鋭いホシがいる。きっと見つかるはずだと、俺は彼に頷いて返す。

 伯爵はそれを見て目を僅かに伏せた。


「だがもし大海嘯(スタンピード)が事実であれば、オットマーが戻った時にはもう間に合わん可能性もある……」

「彼にはホシをつけました。情報はすぐに伝わります」

「ホシ……。第三部隊の隊長だったか。なるほど、≪感覚共有(センシズシェア)≫か」


 二年前の折、俺は彼に≪感覚共有(センシズシェア)≫の事を伝えている。むろん、他人と情報をやり取りできるというざっくりとした情報しか教えていないが。

 しかし彼は≪感覚共有(センシズシェア)≫の事を知る数少ない人間だった。


「早ければ後一時間もしないうちに連絡が入るでしょう。それまでに――」

「こちらも最悪を想定し、出来ることをしなければなるまいな。ロルフ!」

「ハッ!」

「シュレンツィア内の騎士を全て城内に集めろ。巡回中の騎士もだ。冒険者ギルドにも通達しろ。ただし事情は極力伏せてだ。混乱を招くようなことだけは絶対に避けるよう皆に厳命しろ」

「ハッ!」


 ガシャガシャと鎧を鳴らして出て行こうとするロルフ殿。俺はそれを右手を軽く上げて制した。


「冒険者ギルドから、冒険者へ招集要請をかけてもらっています。名前を言って分かるか分かりませんが、”雪鳴りの銀嶺(ぎんれい)”というパーティにも協力を仰ぎました。上手く使って下さい」

「分かった」


 ロルフはこちらに目礼すると、また鎧を鳴らして部屋を出て行った。

 伯爵はその後姿を見送ると、ふーっと長い溜息をつく。いきなりの話で頭の中が整理できないのだろう。

 その隙にこちらも状況を確認しておくとしよう。


「そっちの状況は? アノールト」

「はっ! シュレンツィアに滞在する団員は現在、全員待機させています!」

「数は?」

「二百と十さ――いえ、十一です」


 何かを言いかけ、すぐに訂正したアノールト。少しだけ気にはなったが、今気にすべきことでは無いかと、追及せずに話を続ける。


「出動はできそうか?」

「……全員は無理でしょう。実は最近、俺達の名を聞いて入ったばかりの新人が多くて。威勢がいいのは多いですが、正直それほど期待できません。しかもオーク相手となると、数は減ります」

「見込みは?」

「五、六割かと」


 傭兵業は命がけだ。しかし傭兵団に入ったからと言って、命を散らす任務に強制的に配属されるかと言えば、そんなことはない。それでは奴隷と変わりなくなってしまう。

 当然拒否権があるし、拒否したからと言って傭兵団を追い出されるなどといった事も、普通なら当然無い。


 とは言え命を懸ける程の危険な仕事は、当然ながら報酬が非常に高い。

 そして傭兵という人種が、命をベットして報酬を得るか否かを迫られた時どちらを取るのかといえば。

 魔族を相手取る戦争であっても、あれだけの傭兵団が手を上げた、と言えば分かるだろう。


 その観点からいけば、この大海嘯(スタンピード)という大災害に対しても、傭兵達の大多数が参加する。そう考えても良いはずだった。


 本来であれば。


「なら多くても四割ってところか」

「……はっ」


 聖魔大戦が勃発し、(おびただ)しい死傷者が出たばかりなのだ。命を危険に晒すことに抵抗感が生まれない理由がない。

 今の状況を考えれば、アノールトの想定よりも低く見積もっておいたほうが確実だった。


 俺達の会話を聞き、伯爵も口を開く。


「シュレンツィアに駐留する兵は、騎士、兵士含めて三百弱しかいない。冒険者もランクD以上となると百がいいところだろう」

「全部集めても五百いけばいいほうですか」

「最悪の事態が現実となればここを放棄するより他あるまい。しかし――民を逃がすための戦力が必要だ」


 低い声を出す伯爵。それはシュレンツィアの町民を逃がすための捨石を指していた。


「ならうちは退散させてもらいますよ。危険を承知で任務を受けるのは傭兵の習いですが、しかし死ぬことを前提にやる奴はいません」

「当然だろうな。私もそこまでは言わんよ。君達にはそんな理由も無いだろう」


 アノールトが突き放すように言えば、伯爵も意外と素直に頷く。

 ただ伯爵は、もしもの場合には町民の避難を頼む、とアノールトに強い眼差しを向ける。彼もそれに分かりましたと返した。


「神殿騎士はどうしたんです?」


 なぜか話に出ないことに疑問を感じ、俺は伯爵へ話を振った。

 ここシュレンツィアにも教会がある。聖皇教会になぜか目の敵にされているらしい俺としては、あまり関わりたくない気持ちもある。

 だが今はそんなことを言っている場合ではなく、無視できない戦力だと口にする。しかし伯爵は首を横に振った。


「確かにこの町にも神殿騎士はいた。だが少し前に王都に発ってから、未だに帰ってきていないのだ。何か理由があるのか分からないが――」


 少し前というと、王都のパレードだろうか。ならもう帰ってきていても良い頃合いだが、まだなのか。

 まさか俺に関係していないよな。そう思う俺の耳に、伯爵の溜息が聞こえた。


「ガリウスもおらんとは、何とも間が悪いことだ」

「ガリウス、ですか?」

「冒険者ギルドのギルドマスターだ。元ランクBの冒険者で、ランクAパーティの一員としてオーク魔窟(ダンジョン)第五階層まで行った凄腕だ。なのだが――」

 

 どうやらシュレンツィアに留まる冒険者の数が激減したことで、オーク魔窟(ダンジョン)の間引きが遅れることを危惧し、軍人となった冒険者を引き込むため王都へ向かったのだそうだ。

 元ランクBなら貴重な戦力になったはずだ。確かにこれは間が悪いとしか言いようがなかった。


「無念、ですか」

「分かってくれるか」


 俺の問いかけに伯爵は自嘲気味に笑った。


 このハルツハイムは肥沃な大地に恵まれ、王都と遜色がないほど富み栄える領として有名だ。

 しかしそれは、ただこの地が豊かであったからこその結果ではない。この地の繁栄のために辣腕(らつわん)を振るうハルツハイム貴族の善政があったからこそなのだ。

 昔、貴族なんてもんはよぉと酒の席で愚痴を言った俺を宥めるように、イーノ騎士団長は困った顔をしながらそう言っていた。


 貴族なんてものは領民のことなど省みない。下民と見下し、金をむしり取ることばかり考える金の亡者だ。

 当時そう考えていた俺は、彼の言葉を右から左へと聞き流していた。


 しかし軍に参加し否が応でも貴族と関わることで、俺は既得権益の上に胡坐を書く堕落した貴族と、民の上に立ち領を守らんとする貴族の二種類がこの世に存在している事を知った。

 貴族と言えども所詮同じ人間なのだと、そう理解する事になったのだ。


 俺は力なく笑う伯爵を静かに見つめる。彼は魔族達に蹂躙された領地を建て直すために、この二年間奔走してきたはずだ。

 しかしその努力がまたも理不尽に踏み潰されようとしている。人の感情が分かる俺には、胸を万力でねじ切られるような痛みに歯噛みする彼の胸の内を、まるで自分のものであるかのように理解できてしまった。


 沈黙が部屋を覆い尽くす。重い空気の中ノックをして入ってきたメイドは、伯爵の青白い顔を見たせいか、小さくカチャリと陶器を鳴らした。



 ------------------



「お父様!」


 その三十分ほど後の事。ノックもなしにドアが開け放たれ、長助が部屋に飛び込んできた。


「フィリーネ……。ノックはどうした、はしたない」

「そのようなことを仰っている場合ではありません!」


 伯爵がたしなめるも、長助はぶんぶんと駄々っ子のように首を振った。

 長助に続いて当たり前のような顔をして入ってきたスティアは、バドが譲った俺の隣に、当たり前のようにポスンと座る。

 お疲れさんと、スティアと無言で視線を交わす。だがそれを見咎めたのか、伯爵は鋭い視線を俺に投げかけてきた。


 以前会った時にもそうだったが、彼は俺がスティアを侍らせていると思っている節がある。

 実際はスティアが俺の世話を焼きたがるだけなのだが、彼にとっては目に余る行為のようで、こうして苦々しい感情と視線を俺に向けてくるのだ。


 今は非常時であるため抑えているようだが、やはり彼から向けられる感情は良い気分のしないものが多い。

 こうして面と向かって会う事はしたくなかったが、状況がそれを許さずどうにもならなかった。


「無事に帰ってきたか」

「先生! ですが、カリアンが……!」


 俺が声をかけると長助は勢い良く振り向く。しかしすぐに言葉を濁して視線を逸らした。


「もし大海嘯(スタンピード)が本当なら、魔窟(ダンジョン)の監視をしている兵や冒険者達を退避させなければと、わたくしが口にしてしまったのです。すると、自分が行くからと一人で向かってしまって……! 魔窟(ダンジョン)の守りは自分一人で十分だと……」

「――あの馬鹿者が」


 きゅっと口を噤む長助。伯爵も苦々しい顔を見せた。


 カリアンと言うと、俺によく絡んできた騎士か。この状況で他人の心配が出来るとはなかなか気骨があるが、たった一人ではもしもの場合何もできないだろうに。

 むしろ無駄に命を散らす可能性もある、限りなく危険な行為でしかなかった。


 だがそんな男気を見せられては、何とかしてやりたいと思ってしまうのは人の性か。


 どうしたものかと考えた俺の頭に、ふとある考えが浮かぶ。

 なんとかしようと思えば俺にはできそうだ。例えば――


「しかしやはり、先生とはエイク殿のことだったか。報告を聞いたときはもしやと思ったが」

「え?」


 だが伯爵のこの一言に、俺の考えは霧散した。

 何だと。いつばれていた?

 目を丸くした俺に伯爵は困ったように苦笑する。


「騎士達から報告があったのだよ。娘に指南をすることになった人間がいると。頬に傷のある人相の悪い男性と、非常に美しい銀髪の女性。赤髪の小さな女の子と、筋肉質の巨漢の四人組だと。最後の人物は思い当たらなかったが、バド殿だったのだな」


 伯爵と俺は親しくも無ければ、実際に会ったことも二、三回程しか無い。その情報だけで俺達を思い浮かべる理由がないと思うが。

 俺の疑問に答えるように、彼は続いて口を開く。


「娘がシュレンツィアに来る際に、黒い騎士を見たという話もあったからな。想像するのは難しくなかった。それに今王都では、王国軍に関して少々問題が起きていてな。民衆にまでは伝わっていないが……貴族なら大体は聞こえてくる話だ」

「……第三師団は、まだあるんでしょうか?」

「当然だろう? 師団長がまだいるのだから」

「解任の話は?」

「解任? さあ……私は聞いていないがね」


 伯爵は軽く肩を竦めた。


 ……あのくそったれ王子! 置手紙に第三師団を解散して再編成しろと書いておいたのに、何そのまま放置してやがるんだ!?

 話を聞けば、エルフ達や鳥人達もまだ王都に滞在している様子。


 お前達、戦争が終わったらすぐ帰るって言ってたじゃん! 何でまだいるのよ!? ふざけんじゃないわよ!


 俺が頭を抱えていると、長助も困惑したように声を上げた。


「あの、お父様? 先生をご存知で?」

「はぁ……。これも父親である私のせいなのだろうが、少々頭が痛いな」

「え、あ、はい? お父様?」


 しどろもどろになる長助に、伯爵は困ったように眉を顰めた。


「彼はエイク殿。王国軍、第三師団の師団長殿だ。もちろん現役のな」


 伯爵はまるで当てつけのように現役、と強調する。

 その言葉に、長助は石のように固まってしまった。

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