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8.ミッション①ー調理を教わろうー

「久しぶり~」

「元気だった?」

新学期初めの校舎内は休み中会うことのなかった学友たちと挨拶をしあい、普段より賑やかだった。


例にもれず友人2人も元気で、何をしていたのか、ラリアンはこんがりと肌が焼けていた。

「ララ、日焼けしたんだね。」

「そうなの。肩なんて皮がむけてヒリヒリしてる。面倒くさがってちゃんとクリーム塗らなかったせいよ~」

泣き言を言っているが、赤い髪をした彼女には色白よりも今のように小麦色の方が健康そうで似合ってる。

制服の袖から見えるほんのりと赤みを伴った小麦色の肌に大変そうだね、と他人事のように呟いた。



「それでね~」

楽しく話しながら教室に向かって歩いていると少し先に自分の婚約者が見えた。隣には例の男爵令嬢がいる。


「シュナイザー様!おはようございます!久しぶりにお会いできて嬉しいです!お元気でしたか?」

「あ、ああ。ニック令嬢は元気そうだな。」

「もう~レベッカと呼んでくださいと言っているではありませんか。家名は堅苦しいですもの。」


ああ、見たくなかった。

人混みで見えなくなっても彼女の甲高く猫撫でたような大きい声はこちらまで届いている。

自ら男性の腕にまとわりつく令嬢に嗜みもしない婚約者にイライラした。そもそも婚約者でもない異性には家名を呼ぶのが常識だ。なのにそれすらできていない。それどころか自分のことも名前で呼べという。私と婚約破棄させてあいつと婚約しようと思っているのかと疑いたくなる所業だ。


この界隈、誰と誰が婚約者同士かなんてみんな知っている。だから同情した目で見てくる人、あざ笑う人、婚約者を律することもできないのかと非難する人、様々な視線が向けられる。居心地悪く肩をすぼめたら両脇にいた友人が一歩前に出た。ちょうど周りからの視線を遮ってくれる形だ。


「早く行きましょ。」

引っ張られるように教室へ連れていかれた。



私以上に怒ってくれていた2人も話題を避けるように別の話をし出した。

「マリ、バイトはどう?店長ががんばってくれてるって言ってたけど、もう慣れた?」

「うん、最初は分からない事ばかりで大変だったけどね、ミスも多かったし。でも今は楽しみながら働いてるよ。」

「すごいわねえ。前に行ったときも思ったけど、あんなに重そうなものを一度にたくさん。私なら持てないわ。努力したのね。」

「まあね。お金を貰う以上ちゃんとしないと。それに紹介してくれたララの顔に泥を塗るわけにもいかないし。」


ブオノで働き始めたときには立て続いたミスに泣きそうになることもあったが、辛抱強くみんなが教えてくれているおかげでなんとか続けられている。まだ学生の私がちょこちょこと動き回っているのをフォローしてくれて、可愛がってもらっている。

あそこは自分にとって居心地のいい場所の1つであるだろう。


この間はついに調理もしてみないかと声をかけられた。

「すごいじゃない。マリが作った物を食べてみたいわ。」

「いや、まずは賄いからね。ランチタイム時に賄いも作るの大変らしくて。食べれるもの作れるかなぁ?」

「側で教えてくれるんだから大丈夫でしょう。早く上達して私たちに美味しい手料理食べさせてね。」


賄いの件はこの間のバイトの時にちらりと言われていた。まずは人が混みだす前に材料を切るところから始めるらしい。楽しみでもあり、不安でもある。



週の半ばから始まった学校はすぐに休日を迎える。


「こんにちは~。」

「ああ、こんにちは。」

バイト先に行くと、厨房スタッフはすでに準備を開始していた。

「じゃあさっそく作っていこうか。今日は初めてだから簡単なもの、サンドイッチを作ろう。」


教えてもらった通りにレタスを洗って水を切り、トマトのへたを取って輪切りにしていく。

「指切らない様に気を付けてね。」

皮が少し硬めのトマトだったから切りやすかったが、包丁の切れ味に背筋がひんやりする。

キュウリは指を切らない様にと注意していたら太くなってしまった。不器用すぎる。

「まあ、最初はみんなそうだよ。」

そういって太いキュウリを半分の厚さに手直しされていく。


「このベーコン、焦げ目が付いたら裏返してくれる?鉄板熱いから気を付けて。」

「分かりました。」

料理長でもある店長ことハゴルさんが他の料理人に呼ばれたため、指示を出して行ってしまった。


(焦げ目ってどれくらいだろう?もういいかな?)

持つ手の部分も全て鉄製のこのフライパンは火傷をしないよう、取っ手を触るときは濡れ布巾を巻いている。ジュージューと良い音といい匂いがするこのフライパンの中の物をトングでひっくり返した。

(思ったより焦げた気がする。)

焦げ目ってどれくらいだろうと躊躇していたのと、思ったより重かったベーコンにひっくり返すのを手間取っていたら真っ黒とまではいかないが、全面に焦げが付いてしまった。やり過ぎてしまったのは自分でもわかった。


その後はマヨネーズとからしを混ぜたり、刻んでくれた卵とマヨネーズを混ぜたりし、パンにはさんでいく。

パンにからしマヨネーズを塗り、レタス、ベーコンの薄切り(といっても1cm弱位の厚み)、トマト、レタスと順に挟む。

もう一種類、はキュウリと卵を挟んだ。

昼は自分を含めて7人が働いているため、大きな皿2枚にそれぞれのサンドイッチを置いた。すごい量だ。



「美味しかったよ。」

「ありがとうございます。ベーコン焦がしちゃったんですけど・・・」

「あはは。初めは皆やらかすもんさ。俺たちは他所(よそ)で料理を習ってからここで作っているから自分だけだと思うかもしれないが、俺だって目を離した隙に真っ黒こげにしてげんこつ食らったこともあるんだ。」


失敗したが、みんなが美味しいと言ってくれたことで嬉しく、ふわふわした気持ちになった。

料理を作ってくれている彼らはみんなからのこういう声が嬉しくてしている部分もあるんだろうな。



それからは他にも煮物に焼き物、麺類などいろいろ教えてもらいながら作っていた。

以上ミッション①平民の生活(主に食事)を学ぼうをお送りしました。

次回からはミッション②家を買おう(資金繰り)予定です。


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