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40.関係性が変わるとき

キスが止まった(止めた)時にちょうど時計の針が0時を指し、カチッと音が鳴ったと同時に海の方からドンドンと腹の奥に響くような音と振動が来た。

年明けの花火だ。

外ではこれを見ているカップルがいっぱいで、打ち上げられるたびに感嘆の声や楽しそうに会話するにぎやかな声が自分たちのいるところまで届く。

普段この時間は寝静まっているから不思議な感じがする。


2階の窓から海が見えるため、そこに移動して中から打ち上げられた花火を無言で見ていた。



「終わっちゃったね・・・」

「ああ。綺麗だったな。」

花火が終わった後もしばらく余韻に浸っていたから、いつの間にかシュナイザーの肩に頭を寄せていたことに気付かなかった。


「あ、ごめん。」

「もうちょっとこのままで。」

離れようとした私の肩に手を置き引き寄せられると、さっきと同じ体勢になった。



大分時間が経ってから離され、シャワーを浴びて寝ようかと声がかかる。

「一緒に入るか?」

「入りません!」

わざとらしく聞いてくる彼に、半ば被るようにして拒否すると笑いながらもあっさりと引き下がっていった。





そうやって以前と違う彼に初めは戸惑いもあったが、こうやって一緒に暮らしているとあっという間に慣れてしまった。




年末年始で閉めていた店が再開した後、いつも通りな私たちを見て、他のスタッフは怪訝な顔をする。


「想像以上に変わって無くない?」

「まさかなんの進展もなかったんですかねえ。」

「いや、よく見てください。前よりお互い顔を見ない様にしていませんか?で、他所を向いている時にチラッと。・・・あ、ほら。」

「たしかに・・・よく見れば。でも期待してたのと違う。もっとこう・・・甘酸っぱい感じを期待してたんだけど?」

「長年婚約者同士だったならそれはないでしょう・・・あ、そろそろ戻らないと。」


店の端っこでみんなが集まりコソコソと喋っていたのだが、お客さんが数人入ってきたのを見て先にメイリンが仕事に戻っていった。私からは少し離れた所でみんなが話をしていたため、内容までは聞き取れなかった。が、突き刺さるような視線がなんとなしに私たちのことを言っているのだろうと悟らざるをえなかった。

シュナイザーの方もみんなの視線に気づいていたのか、時々苦笑をしていたが、目が合うと優しい穏やかな目に変わる。それを見たお客さんが、あの人かっこいいと騒いだりもするのだが、何度もこの店に足を運んでいるお客さんは事情も知っており、親のような眼差しで見守られている。


「マスターってさ、まだ結婚しないんですか?」

「え?」

店内をぐるりと見渡していたら一番近いテーブルに座っていた若い女性3人組のうちの1人に声をかけられた。

急に声をかけられたものだからびっくりして聞き返した。


「だって間が空いたとはいえ付き合ってるんでしょ?傍から見てたらお似合いの2人なんだし、いいじゃん。おちおちしてたらシューさんとられちゃうよ?」

「そんな物みたいに・・・。」

「いやいや、彼人気あるんですよ?狙っている女子多いんだから!」


乱入してきたもう1人の女性にこんこんと説明を受けた。

その間にのんびりと食べていた子が、目の前のケーキに乗っている果物をぱくりと口に入れた。そして咀嚼しながら1人にんまりと満足げな顔に。あれ、この人のじゃないの・・・?



話が終わって解放された後で、後ろから「あー!最後に食べようと思ってたのにー!」とぷりぷり怒っている声が聞こえてきた。まあ、そういう反応になるよね、普通。でも振り返ったら拗ねた感じの表情でそれもすぐに落ち着いてケーキにフォークを入れていた。


たまにこうやって賑やかなお客さんがいるのだが、それはそれで楽しい。





そうやって周りに心配されながらお節介されながら、気づけば結婚前提で話は進み、休みの日になるとはデートと称して出かけることも増えていった。


ちょっと都心近くに行ったところにある温室とか、雑貨屋さんとか、カフェとか。彼の方も甘い物が好きとあってデザートを一緒に食べに行けるのはありがたかった。

行くとこ行くとこ女性の好みそうな場所だったのだが、嫌な顔なんて見せず、伯爵子息と子爵令嬢として会っていたころには見られなかった穏やかな笑顔で私を見つめていた。目が合うと恥ずかしいのなんのって。ただ、小さいころから教えられてきたことが体に染みついているのか、エスコートは完ぺきだった。


「美味しいね。」

そう言い合って食べた食事にデザートに、どれもいい思い出だ。

近くでは見たことがない、モンブランをタルトにした物を食べたり――

ちょっといい所でアフタヌーンティーを楽しんだり――

はたまた国境沿いの町で隣国のデザートをチャレンジしてみたり――


振り返れば食べ物ばっかり。でも食べ物の好みが合うのは大事だし!というのを言い訳にしてみる。

あのころとは違って、好きな服を着て細かく厳しい作法を気にせず、表情や言葉使いもがんじがらめにされず自由で。自由な自分でいられることが心地よく、のびのびと生きている実感がわく。


そうやって仕事もプライベートも充実した日々を送っていたころ、エイミからこの店の庭で結婚式を挙げたらどうだと提案された。すでにシュナイザーとも結婚については話を始めていたところだった。


彼女は一番近い教会ですでに式を挙げている。教会もいいが、これから春に向けて、暖かくなるし庭の花も咲き始めるし、せっかくガーデンパーティーができるような場所がここにあるんだから、と。私としてもちょっと憧れがあったから二つ返事で了承した。


「じゃあ早速ドレスに料理に考えないと!」

花嫁になる人よりもテンションが上がっている彼女に思わず笑みがこぼれた――。

次回最終です。

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