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4.ミッション①ー接客のバイトをしようー

「いらっしゃいませー!空いているお席へどうぞー!」

「マリちゃん、これ5番テーブルに持って行って。」

「はい!」

そこは田舎町の人気のある食事処・ブオノ。ちょうどランチタイムの今、お客さんを案内し、料理人から渡された料理を運んでいた。




時を遡ること半月前。

協力してくれると言っていた彼女たちの行動は早かった。

まずはすぐにでも1人で生活できるようにお金を稼ぐ必要がある。同時に平民の生活を学びたいと思っていた。

それを伝えると、うんうんと頷きながら人差し指を立てて提案された。

「じゃあ、まずは食事処なんてどう?いい所知ってるの。」

「食事?他でもなく何でそこなの?」

「平民には平民の言葉遣いがあるわ。今の私をさらに崩したような感じね。今のままだとすぐに貴族だとばれて、人によっては相手にしてくれないこともあるの。あまり貴族に良い思いを抱いていないっていう人は一定数いるからね。で、迷惑客のあしらい方もいずれ分かるようになるだろうし、裏方に入れば食事作りや皿洗いも経験できるわ。何より食事しないと生きていけないからね。」


ふむふむと頭の中にメモしていく。

「あしらい方って?それなら今だってしているよね?」

「貴族とは違うの。平民は貴族みたいに遠回しでよく分かりにくい言い方しないの。もっとストレートよ。」


そうして一緒に探して見つけてくれたのが食事処・ブオノという店だ。

バイト初心者、それも生活環境の全く違う所に行くのにあまり大きな店からはじめては大変だということで、カウンター席とテーブル8席というこの店がいくつかの候補のうちの1つとして上がった。そして諾の返事がもらえたということで通わさせてもらうことになった。


この店にもコルテット家の商団が食料を卸しており、ラリアン自身もたまに食べに来ているらしい。



平日は学校があるから休日の昼間だけ出勤する様になり、夏休みに入った今は平日も出るようになった。

だいぶ立ち回りに慣れてきたが、最初は大変だった。

ウエイトレスとして雇われ、まずは料理を席に運ぶところからなのだが、鉄板料理があってしばらく腕が筋肉痛になっていた。それにテーブル番号がすぐに覚えられなくて、L字型のカウンターなんて満席だと6人だ。誰が先に頼んだのか、どれを頼んだのか、ランチタイムとなるとたくさんの人であふれるため、覚えきれず、叱られたことも1度や2度じゃない。


そして食べ方。特に男性は大きな肉の塊にかぶりついていたり、汁物をズズズッと音を立てながら飲んでいて、ちょっと、なかなかに衝撃的だった。

そして食べるのが早い。あんなにたくさんテーブルに載っていた料理があっという間になくなっていく。あっけにとられるとはこういうことだな、と思った。


料理を運んで帰りに空いた食器を下げる。

焼き魚定食を食べたこの人、すごくきれいに身を食べているな、と思ったり、たしかエビフライが乗っていたよね?なんで尻尾ないんだろう?と思ったり。


昼だからお酒は提供していないが、近くに職場がある人たちがやってきてはさっさと食べて戻っていく、を繰り返していた。

夏休みの今は若いお客さんもいて、女性だとサンドイッチやパスタなんかを食べていた。

とある女性客が食べていたほうれん草とベーコン、アスパラにしめじが入っているクリームパスタは美味しそうで、私も食べてみたいと思った。


「マリちゃん、先に休憩入っておいで。」

「ありがとうございます。お先にいただきます。」

少し客の切れ間が見えた。そこでここの店主の妻であるチェルシーさんから声がかかる。彼女もここでウエイトレスをしていた。


厨房の奥にこじんまりとした部屋がある。そこが店員の休憩場所兼着替え場所だ。テーブルの上にはすでに昼食が準備されていた。今日は冷麺か。上にハムに卵、もやしにきゅうりが置かれていて、その側にしょうゆベースのたれの入った器があった。

シャキシャキともやしやきゅうりのいい音が部屋に響く。子爵家ではこういったものは出たことがなかったから初めは食べるのに勇気がいったが、美味しいことが分かった今ではためらいもなく口に運んでいた。



仕事が終わりエプロンを外すと、休憩室の籠の中に畳んで仕舞った。

「あ、待って待って。渡したいものがあるの。」

店の裏口から帰ろうとしていた私を捕まえたチェルシーさん。手には茶色い封筒があった。

「これ、今月のお給料。昨日給料日だったの。1ヵ月お疲れ様。」

「あ、ありがとうございますっ。」

静々と受け取った封筒の重みに疲れも飛ぶようだ。自分で働いて初めてもらった給料。きっとみんなこんな気持ちなんだな、と大事に胸に抱えた。


中には6万円ちょっとが入っていた。親からもらうお小遣いには比べられないほど少額だが、自分が働いた上でもらったこのお金は何よりも価値があるものに思えた。





「久しぶり!どう?店員さんも様になってきたじゃない。慣れた?」

「ララ!ティーナも久しぶり。来てくれたんだね。なんとかやっていけてるよ。」

他の客の接客をしている間に来ていたらしいラリアンとトルティーナがテーブル席から手を振って声をかけてくれた。ちょうどランチタイムを少し過ぎた所だ。


「ランチタイム過ぎちゃったよ?もうちょっと早く来ればよかったのに。」

ランチタイムはセットという注文があり、サラダやデザートが付く。そしてお値段もお得という特に女性に人気がある。それが10分前に終わったところだった。


「いや、ちょっとマリの様子を見がてら軽く食事しようと思って。」

「ランチタイムだと混んでるし喋れないでしょう?だから少し時間をずらして来たの。あまり遅いと今度は夕食が食べられないと思うし。」

そっか、と頷く。注文が決まっているという2人のメニューを聞き、ひらりと振り返る。黒い7分丈のスカートがひらめく。外も中も暑い今、白い半そでのシャツにスカートは風通しが良くてありがたい。


「嬢ちゃん、こっちに水くれるか?」

厨房に戻る途中で引き留められテーブルに目を向けると、確かに氷入りの水が入ったピッチャーが空になっていた。彼の手元には唐辛子のたっぷり入った料理が。こんな暑い日によく熱い物、それも辛い物を食べられるなあ、と顔には出さない様に感心する。


はいどうぞ、と新しい物を渡すと勢いよくグラスに注ぎ始めた。





せわしなく動いている間に友人の食事が終わったようだ。会計を頼まれたためレジに回る。

「明後日うちに来るでしょう?みんな楽しみにしているわ。」

「ありがとう。またお世話になります。」

「じゃあね。あと少しがんばってね!また今度ー!」


明後日から1週間、トルティーナの家にお泊り予定だった。オルトラン家よりここに来るまでちょっと時間がかかるが馬車で10分ほどの差だから通わさせてもらう。その1週間だけ今よりも勤務時間を短くしてもらったが。

2人に手を振り見送る。時刻は15時。あと1時間で仕事上がりだ。


2人に会えたことで気分が上昇し、帰ってから家族と夕食という名の顔を突き合わす嫌な時間も乗り切れそうだと思った。

エビフライの尻尾は残す派ですが、毎回外で食べるときは食べた方が良いのか悩みます。

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