39.告白
「もう少しサクサクした生地のシュークリームが食べたい。」
「この間別の店で食べたシュークリーム、もちもちしてて美味しかったの。ここでも作れませんか?」
常連の中の一部のお客さんから言われた何気ないその一言で今、スタッフで試行錯誤している。
シュークリームは開店当初から置いてある商品だが、安いため子供がお小遣いを持って買いに来たり、数人で食べるのにまとめて買うお客さんもいて、それなりに売れていた。
でも、海路や行商が以前より発達した今、どんどん他の店にない商品を考案して出している所が増えてきた。そんな店で食べたことがあるお客さんの中にはこんなものが食べたいとリクエストを貰う時がある。お客さんは言うだけなので売る側としてはいろいろと問題があって現実しないこともあるが。
シュークリームの件はそんなリクエストの1つとして挙げられたものだ。
そこからみんなで相談していた。生地作りはもちろんだが、やはりクリームを入れて時間が経つとふにゃりとした皮になるのだ。
結局は皮を焼いた後にいつも通りクリームを入れるのではなく、注文が入ったらその場でクリームを入れるという案で落ち着いた。時間が経てば一緒だが、少なくともしばらくはサクサクを楽しめる。
事前にクリームを詰められないことで接客係たちは一仕事増えて大変にはなったが、その分お客さんからの反応も良くなった。
「はー、大変だけどみんなが喜んでくれて良かったー。」
「がんばったかいがあったな。――はい、出来たぞ。」
2階に上がってシュナイザーと喋りながらテーブルに突っ伏していると、夕飯が出来上がったと声がかかった。
2人とも休みの日は一緒に作ったりもするのだが、仕事の日は私は最後まで残るが彼は少し早めに終わるため、家のことは任せっきりになってしまっている。ダメダメじゃん私。・・・と思いながらも、何も言われないのをいいことに結局甘えてしまっている。
上げ膳据え膳はさすがにダメだと食器だけは棚から取り出し、テーブルの上に置いたランチョマットに並べた。
そうして2人で夕食を摂る。
知り合いの漁師さんから貰った魚で包み焼をし、パンと共に食べる。サラダはトマトが瑞々しくて美味しい。
のどかな時間の流れる今が実は好きだったりする。こう、気を使わなくて素でいられて居心地のいい感じが。
そんな穏やかな日々を破るように、その出来事があった。
ちょうど年末に向け、周りが慌ただしく動いていた頃。
周りはいつも以上にカップルが目立つ。大通りに面した歩道に等間隔で植えられている木や公園の木には電飾がされていて、夜でも明るいし人が集まっている。
年末から年始にかけて、恋人と共に過ごすと幸せになれるとまことしやかな噂があり、いつもよりもカップルが多くなるのだ。
「いいなあ、みんな恋人といられて。」
2階の窓から見える外の景色には手をつないで歩く男女がいて、シュナイザーがうらやまし気に呟く。一緒に外を眺めていたが彼の気持ちが伝わってくるだけにそわそわと心が落ち着かなくなる。
「なあ、マリアーナ。」
「うん?」
「俺たちも今度はちゃんと付き合わないか?結婚を前提として。」
語りかけるような言い草に視線を向ければ、存外真剣な目をした彼がこちらを見ていた。
「・・・。」
突然の話に一瞬固まり、開きかけた口は音を成さずにそのまま閉じられた。
「前に話した通り、マリアーナに対する気持ちは変わってない。仕事で忙しいのは分かっているし、それで家事のほとんど俺がしているっていうのを気にしている事だって分かってる。俺は一生懸命なマリアーナをすぐ側で助けたいと思うし、側に居て欲しいと思ってる。家事のことは俺が好きでしてるんだから気にしなくていい。全てひっくるめてマリアーナを愛しているんだ。」
私の顔に添えられた手と真摯な眼差しにドキドキする。この心臓の音がシュナイザーに聞こえてやしないかと気になってさらに鼓動が強く感じられる。
温かく、頼りがいのある手。このまま身を任してしまいたい。そんな気にさせてくる。
「・・・ずっとね、昔見た前世のことが気になってたの。だからシュナイザーとは絶対に結婚しない、家を出て自由に暮らすんだって、強く思っていたの。なのに・・・いつからだろう?私の中であなたの存在がこんなに大きくなっていたのは。
本当にこんな私でいいの?」
「言っただろう?全てひっくるめてって。今の、ありのままのお前が好きだよ。」
「ありがとう。私も・・・・・・好き。」
自信なさげな私をそっと包むように両手で抱き寄せた彼の服のすそをつまむ。時間をかけて、勇気を出して呟いた一言はかなり小さな声だったが、密着している彼には十分届いていた。
クスリと笑ったような空気の振動が頭をかすめる。
そして、チュッとリップ音が頭上で聞こえた。それは耳、頬、首、鎖骨へと続いていく。
「ちょ、ストップ!ストップ!」
まだ続きそうなそれを突き放すようにして慌てて止める。
急展開についていけない頭はパンクしそうだ。顔は熱を帯び、耳まで赤くなっているであろうことは鏡を見ずとも感覚的に想像できる。
一方、無理やり中断させられたシュナイザーは、まだまだしたりないといった風に少し不満気だ。
だが、自分を意識しまくって真っ赤になっているマリアーナを見て、取り敢えずは満足するのだった――。




