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37.介抱する優しい手

途中視点が変わります。

分かりにくかったらすみません。

子供たちの夏休みの間定期的に行っていたブルーベリー摘み体験も無事に終わり、夏休み前の日常に戻っていた。

初めは段取りが悪かった私たちも回数をこなすごとに慣れていったところで彼らの夏休みが終わってしまったからちょっと寂しい気もする。

それでも、今までリポーゾを知らなかった人たちが来てくれるようになって嬉しいし、目的を達成できたと思う。




そんな夏と秋の境目に差し掛かった今日、休日はお客さんも多いが平日はまだらに入って来るくらいのため、隣町の養鶏場へ訪問に来ていた。これは開店当時から定期的にしていることだ。

この養鶏場のオーナーであるおじいちゃんと言ってもいいくらいの年齢のおじさんと鶏舎の中を見て回った。中には5人の従業員が掃除や餌作りをしていた。

鶏たち(みんな)今日も元気そうですね。それにここはいつも清潔に保たれているので衛生面も良いですね。」

「そりゃあねえ。うちはこいつで食ってるんで大事にしねえと。衛生面は人の信用度ってのもあるが、やっぱり健康な鶏じゃないと美味い卵産んでくれんのでね。」

鶏と人との間にある柵に手をパンパンと軽く叩き、2人鶏の方に視線を向けて会話する。


ここは昔からある所で、おじさんが2代目。3代目の息子さんは今日はいなくて、未来の4代目であるお孫さんは今日は学校でいないが、休みの日は率先して手伝ってくれる頼もしい子らしい。


カッカッカと鳴きながら鶏は今日も赤い肉髯(にくぜん)を振り、配られたばかりのご飯を元気よく食べていた。


「いつもわざわざ悪いねえ。大したもてなしもできんに。」

「いえいえ。こちらこそいつもお世話になっています。ここの卵は美味しいのでお客さんも喜んでいます。」

「そうかい。ああ、これ持って行きんさい。朝じいさんが絞めたもんじゃ。年老いたやつで肉は硬いか知れんがまあ長い事煮ればそれなりに柔らかくなるだろうて。」


帰りに2代目の奥さんが持たせてくれたのは袋に入った鶏2羽。たまにこうして卵を産めなくなった鶏を食用としてくれているのだ。

私は私で来るたびに手土産(この養鶏場の卵を使った店の商品)を持って来ているからもしかしたら気を使わせてしまっているかもしれないなあ。


従業員たちには会釈され、2代目夫婦が見送りに出て来てくれる。

「こりゃあ一雨(ひとあめ)きそうだな。」

「気ぃ付けて帰んね。」

「はい。ありがとうございました。では失礼します。」

海の方を見れば入道雲が発達していて来た時とは一転して空は薄暗くなっていた。

彼らの心配を背に貰った袋と肩掛け鞄の紐をギュッと握りしめ、退去の挨拶をして辻馬車が来る所まで足早に向かった。




無事に馬車に乗れたはいいが、次第に雷が鳴り出した。

逸る気持ちの中、ようやくマッケナに付いたが、ここから店まではそれなりに距離があった。

降りた頃はポツポツの雨も、次第に雨足が強くなってきた。

久しぶりに店まで走ったが、着く頃には全身びしょ濡れ。息切れもしていたからすぐに店には入らず、少し息を整えてから扉を開け、顔だけのぞかせる。


「ごめーん、誰かタオル持って来てもらえませんか?」

「あ、マリさん!すぐ持ってきます!」

ずぶ濡れの私を見てぎょっとしたメイリンがすぐにタオルを取りに行ってくれ、タオルと貰った鶏入りの袋を交換した。


頭だけササッと拭くと店内に入り、ちょっと着替えてくると言って2階の居住スペースに行った。

体もササッと拭いて着替えて、まだ乾いていない髪は櫛で直してこれでいいかとまたすぐに店内に戻った。

店内では土砂降りの雨が落ち着くのを待っているお客さんがいた。

「雨全然やまないね。」

「これ、家に帰れるかな?」

心配そうに窓の外を眺めていたお客さんも、1時間もせずに雨が止んだため今のうちに、と帰っていった。まるで通り雨のようだった。




ある程度時間が経って髪も乾いたが、体は冷えていて思わずくしゃみが出る。鼻水も垂れそうになり、思わずズズズッとすすってしまう。

「おい、大丈夫か?雨で冷えたんじゃないのか?」

「んー、まあ大丈夫だよ。もうすぐ店閉めるしね。」






と、油断していたのがいけなかった。

朝になってなんか体が重怠くてぼーっとするなと思ったら体温38℃まで熱が上がっていた。

その体温計の表示を見たエイミがわあ、と思わずといった感じで声を漏らす。

「みんなには休むって言っておくから。ゆっくり寝てて。」

「うん、よろしくー。」

ベッドの上で寝ころびながら返事をした私の顔はいつもより紅潮していた。

食欲がないため風邪薬だけ飲んだ。明日までに落ち着くといいんだけど・・・。









ピチャン――。


水の落ちる音と少しの間をおいて感じる額の冷たさ。

かすかに聞こえる息遣いが人が近くにいることを示している。


「・・・エイミ?」

ゆっくりと浮上していった意識で薄く目を開けた状態でそこにいるであろう人物に声をかけるが返事がない。


「起きたか?」

返事がないのはどうしたんだろう?と思っていたが、その声を聴いた瞬間、エイミではなくシュナイザーであることを知った。


きっと元気な時なら、すぐにでも何でここにいるのか問い詰めたかもしれないが、ぼんやりした頭ではそこまで考えられなかった。


「シュナイザー?」

「ああ、ここにいる。何か食べるか?」

「んーん?」

「じゃあもう少し寝てろ。まだ少し熱がある。」

寝起きの舌ったらずな喋り方で返事。朝よりは少し体の怠さが落ち着いたような気もするけど、まだしんどい。お言葉に甘えて再度意識を深い沼に沈めていった。





朝、店に出勤してすぐにマリアーナが風邪をひいたから今日は休むと聞いた。

やはり昨日雨に打たれたせいだろう。あの時、着替えだけして降りてきたがシャワーを浴びるように言えばよかった・・・。


そうして午前中はいつも通り接客し、昼過ぎにエイミにちょっとちょっとと中から手招きで呼ばれた。

「私今手離せないんで上に行って様子見て来てくれます?」

「・・・入っていいのか?普通嫌がると思うが・・・」

「大丈夫ですよ。目を覚ましてたら何かご飯食べさせて薬を飲ませてあげてください。今朝は何も食べていなかったので。」

2人の居住スペースに行くことはためらわれたが、心配しているのも事実。ここまで言ってくれているのだから良いのか?と思いながら階段を上がっていった。



寝ていると思って起こさない様にそっと上がり、ノックも控えめにする。返事がないところをみるにまだ寝ているのだろう。

そっと教えてもらった彼女の部屋に入ると少し赤い顔をしながらも規則正しい寝息が聞こえた。

「マリアーナ・・・」

小声で呼ぶが起きない。頬を触るとまだ熱い。寝苦しいのか時々眉間にしわも寄せていた。


見かねて水を張った(たらい)とタオルを部屋に持ち込み、硬く絞ったタオルを額にそっと置いた。


「・・・エイミ?」

目を覚ました彼女は同居人の名を呼ぶ。当たり前の反応だが、自分の名前を呼ばれなかったことに少しの寂しさが去来する。

「起きたか?」

まだはっきりと覚醒していないようでとろんとした目でぼーっとしていた彼女も、ここにいるのがエイミではなく俺だということは理解したようだ。


「シュナイザー?」

「ああ、ここにいる。何か食べるか?」

「んーん?」

「じゃあもう少し寝てろ。まだ少し熱がある。」

少し甘えたような言い方がいつもとは違って、可愛い。しんどそうな彼女を見るのは辛いが、こういう可愛い声を聞けるならたまにはいいなと相反する思いを抱いてしまう。


それからしばらくして再び規則的な呼吸となった彼女の髪を指で梳かしたり撫でたりしていた。柔らかく、サラサラなこの髪は触り心地が良い。このまま時が止まればいいのになんて少女じみた思考になる自分が嫌になる。

彼女も寝たし、そろそろ下に戻らないといけないか、と思い、まじまじと彼女の寝顔を見て最後に前髪に軽くキスをした。

「早く良くなれよ。」


部屋を出るときに名残惜しむように後ろを振り返り、彼女がよく眠っていることを確認して階下へ降りて行った――。

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