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34.デート?①

店を経営し始めて思ったこと。

お客さんがほとんど入らないときとよく来る時の差が大きいということ。


客入りがかなり減った時はどうしようかと悩んだが、今は程よい入り具合だ。

シュナイザーが来てからはさらに若い女性客が増えたような気がする。

今では彼が休みでいない日は、わざわざ「あのかっこいい人は今日はいないんですか?」と聞いてくる人がいるくらい。


どのお客さんにも平等で愛想のいい彼はパッと見つり目で少し怖い印象があるが、微笑んだ時のギャップにみんなやられている。スラリと背が高く、白いシャツに黒いズボン、黒のサロンエプロンが似合っていてカッコよさはひとしおだ。

身のこなしも、実家にいた執事を思い起こす。


それをこの間本人に伝えたら、実際に家にいた執事の真似をしているのだと。

「参考になるのが家にいた執事だっただけだ。」

そう言っていたが、お客さんの何人かは新たな扉を開いたような・・・。


まあ、彼目当てで来ているお客さんもいるにはいるのだろうが、こうして客足が遠のくことのなく、来てうちのおケーキを堪能しゆるりとした時間を過ごしてもらえていると思うと、それもありかと考えてしまう。


いっそう賑やかとなった店内を見てそう思う。





一緒に働いているうちに、彼の誠実さや真面目さが感じられるようになってきた。

あの頃の私は前世の記憶に振り回されて、『今』を本当の意味で見れていなかった気がする。繰り返す過去は全て自分にとってとても辛いものだったから、それを回避しようと必死で。


でも、ここにきてようやく、前世で見てきた彼と今の彼は違うのだと思うようになってきていた。

ここに第3者がいて一対一で関わっているばかりではないことも大きいかもしれない。それだけ自分にも心に余裕が出てきたのだろうか。


シュナイザーからも卒業式の後のような押しの強さはなく、むしろあの頃の話を極力出さない様にしていて、気を使われているのが分かる。

時々視線を感じるから、本当はいろいろと話したいこともあるのだろう。

ただ、彼はメイリンと同じ時間帯で働いていて、私はそれよりも長い時間働いているから、必然的にゆっくり話す時間なんてないのだ。





そうして季節商品を考えたり、お客さんと話すことも増え、時に賑やかで温かな時間の流れる日々を過ごし、気づけば夏が過ぎ、秋、冬と平穏に1年が過ぎた。




そしてリポーゾを開いて1年ほどが経った頃。

この頃にはすでにシュナイザーとも普通に会話し、他の人たちと同じように接することが出来るようになっていた。




「庭の木も大分成長してきましたね。」

「そうね。夏なんかはそこにテーブルを置いて日よけを作って、外でティータイムっていうのも良いわねぇ。」

「ずっとやりたがってたもんね。ブルーベリーの花ももうすぐ咲き出しそうだから今年は収穫できそうじゃない?」


2交替で休憩をとっているのだが、今日はレックとエイミとの3人でサンドイッチとスープといった昼食を摂りながら庭の木の話になった。

話に出たブルーベリーの花は白味を帯びて来て今にも咲きそうだ。

花の数自体は少なめだ(つけすぎるとよくないとカサンドラ造園の人が摘蕾(てきらい)していったのだ)がミツバチが花粉を運んで大きな実がなるのを楽しみにしている。


そしてこの会話をした数日後に小さなスズランを想像させる可愛い小さな花が鈴なりに咲いたのはまた別の話だ――。


「可愛らしい小さな花を見て欲しい気持ちもあるけど蜂に刺されたら大変だしね。まだしばらくはお客さんに入ってもらうことはできないかな?」

「んー、それよりも食べられるものがぶら下がっている方がお客さんは喜ぶんじゃない?花なんて植物園とか山とか行けばいくらでも見られるし。」

「夢も希望もないわね。」

そんな私たちの会話を向かいで1人座っているレックがニコニコしながら聞いている。

彼と出会ってから1年以上経つが穏やかな彼が怒っている所を見たことはほとんどない。うん、多分、ないと思う・・・。

女性ばかりの職場だが、私たちの話を静かに聞いていて、時には自分の考えを言うが強制力というか強く言うことはない。

聞けば5つ上にお姉さんがいるらしい。――お姉さん、ナイス。



「で、先の話なんだけど、ブルーベリーで何か作るのはまた考えるとして、お客さんにブルーベリーを摘むってことをしてもらいたいんだよね?じゃあ、その摘んだものを使って簡単に出来るメニューを考えてみよう。」

「そうだね。短時間で出来て食べれるものが良いなあ。」

「じゃあ、シュナイザーさんと2人で他の店に偵察に行って来てね。よろしく!」

「は??」

行かなくても考えればいいじゃないか、何をいっているんだとびっくり目で隣を見ればウインクされた。

これは・・・何か企まれているのだろうか・・・?

向かいを見ればレックがお願いします、とにっこりと会釈をしてくる。


2人から漂う生暖かい視線と空気は少し居心地を悪くした。


これは絶対に黒だ!そう思わせる雰囲気なのだが確認しようにもできないこの空気。

まあ、いずれ分かるか、とその場はあえて口に出すことはなかった。






それからおよそ1か月後。

ようやく時間の取れた私は、シュナイザーと2人で、彼が住んでいる場所の近くにあるケーキ屋に訪れていた。


2人のあの事があったから、いざ本人と一対一で面と向かっているとなんだかそわそわしてくる。

そんな集中力の欠いた、落ち着きのない私を見て不思議そうな顔をしながら、どうした?と首をかしげて向かいの男は伺ってくる。

「ううん。何でもない。」

「メニューは決まったか?」

「あー・・・えっと、これにしようかな?」

「分かった。じゃあ店員を呼ぶぞ。」

小さなメニュー表を見せられながら決まったのか聞かれ、さっと目を通し、『季節のフルーツパフェ』と書かれたものに指を指し示した。



注文してもらった品が届くまでの間、さりげなく周りにいる人が何を食べているのか見てみる。


私と同じパフェを食べる人、プリンの回りに生クリームや果物がトッピングされたもの――なんだっけ?プリンアラモードだっけ?を食べる人、黒いものの上に白いクリームっぽいものが乗ったもの――。


「ねえ、あれなんだと思う?」

「なんだ?」

「ほら、あそこの人が食べてる黒いやつ。上にクリームっぽいものが乗ってる。」

「あー、コーヒーゼリーだろ。」

ほう、あの苦いコーヒーをゼリーにしたのか。


「さすがに子供はあれは食べれないと思うぞ?」

「分かってる。何か気になっただけ。コーヒー飲むわりにあれは注文しなかったんだね。」

「せっかく一緒に来たんだ。マリアーナが好きそうなものを頼んだ方が2つ楽しめるだろ?」

「え、そんな理由であれ頼んでてたの?」

「まあ、俺も好きなやつだから一緒に食べるがな。」


甘い物が好きな彼だが、苦いコーヒーだって飲む。もちろん、ミルクも砂糖も入れずに。そんな彼だからコーヒーゼリーを頼まなくてよかったのか確認をしたら違う方向から攻撃を食らってしまった。


――マリアーナが好きそうなものを頼んだ方が――


つい今しがた言われたセリフを頭の中で反芻(はんすう)した。

遅れて顔が熱くなる。そんな顔を見られたくなくて思わず下を向いた。


彼はそんな私を慈愛の目で見て口元を緩め、耳が少し赤みを帯びたのだが、下を向いた私は気付かなかった。


長くなりそうなんでちょっと中途半端ですが次回更新日と話を分けます。

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