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33.レモンケーキ

シュッ、シュッ。

周りはレモンの香りが漂う。レモンケーキに使ったレモンの皮を残してあり、細く切った後に甘皮(あまかわ)を向く作業をしている。


エイミたち曰く、この白い甘皮は苦みがあるらしい。


これを、今日はピールにしようと、店を閉めた後3人が明日の準備をしている間に切っているのだ。

この間のレモンケーキの中にこのピールを入れてみるという計画だ。


細かな作業で少し疲れたが、個数は少ないからそれなりに時間をかけずに終わった。

その後、その皮を湯がく。5分ほど湯がいては湯を入れ替え、5回ほど繰り返す。透明だった水はほんのりと色を帯び、硬かった皮も、とても柔らかくなった。


「あー、腰痛い。」

立ちっぱなしでずっと下を向いていて、かつ甘皮を向くときに首に力が入っていたのか、腰だけじゃなく首も少し痛い。

湯がいた皮を水にさらしてから首をほぐし、両手を腰に添えて体を仰け反らせた。


「ありがとうございます。しばらく水にさらさないといけないので明日までこのままにします。後のことは僕たちで出来るので大丈夫です。今日の帳簿まだでしたよね?良かったらそちらをしてきてください。」

「いいですか?じゃあ、そうさせてもらいます。」


体操を始めた私を見かねてレックが声をかけに来てくれた。彼らも疲れているはずだが、みじんも感じさせないほどに清々しい笑顔だ。ただ、暑いからこめかみや額には汗が付いていた。

彼の腕は今日付いた火傷の跡が一筋こげ茶色に残っていて痛そうだ。本人は気にしている風でもないから慣れたことということだろうか。他にも昔やらかしたという火傷の跡がいくつかまだ残っていた。


そんな彼に気を使われ、じゃあ遠慮なく、と厨房からでて本日の帳簿付けを始めた。





次の日の朝、みんながいつも通りにケーキを焼いている間に私は昨日の続きを始める。

「アン、ちょっとここの砂糖もらっていくねー。」

「はーい。あ、ピールですね。お願いします~。」

棚に置いてある砂糖の入った箱を取り出しながら近くにいたアンに声をかけると、振り向きながら返事をされた。手には鉄板を持っていて、今からオーブンの中に入れるところだった。


秤で測った砂糖と水を、少しずつ分けながら鍋にレモンの皮と一緒に入れては煮詰め、また入れて煮詰めを何回かに分けて繰り返した。


「こんなもんかな。」

透き通るような黄色はまるで宝石のようだ。


天日干しをする人もいるが、時間がかかるためオーブンで乾燥させる。

低温で焼いた後、台の上に置いておいた。



「これ冷めたんでデコレーションお願いします。」

「もう少しここ、クリーム足してください。そう、平らになってないんで。」

「こっちは終わりました。」

周りは要所要所で声を掛け合っている。

冷蔵庫で冷やし固めなければならないものはすでに作り終えて冷蔵庫の中に入れられていた。



店の準備ができ、開店までもう少しと言う時、ほとんど準備が終わったから後はレックとアンだけでいけるからとエイミが私の元に来た。

「マリ、ありがとう。じゃあ、これを刻んで入れてみようっと。」

出来上がったピールをは本当ならさらに砂糖をまぶすのだが、レモンケーキの生地に混ぜるため、そのまま刻み始めた。

そして生地に混ぜ、型に流し込んだらオーブンの中へ。


ふんわりとしたケーキが焼けたら今度はアイシング・・・と思いきやチョコレートの準備をし出す。

「アイシングするんじゃないの?」

「ほら、この間の少し酸っぱかったでしょ?だから今度は甘いチョコレートをかけようかと。その分生地の甘さはこの間より控えめにしてあるし。皮を少し削って入れてるけどピールも入るから多少の苦みはあるだろうしね。」

「ふ~ん。なるほどねぇ~。」

そう言ってテキパキと進めていく。

最後に、中に入れたピールの余りをさらに細かく刻んでケーキのちょうど真ん中あたりに一つまみ振りかけた。


「後は冷やしてチョコレートが固まったら出来上がり。今度は上手く出来ていますように!」

冷蔵庫に向かって手をパチンと合わせ、頭を下げる姿はどこぞの誰かに祈っているようだ。


「楽しみだねぇ。」

店を閉めた後試食する話となっており、それまでがとても楽しみだった。







そして、無事に今日も一日が終わった後。

先に帰るはずのメイリンにも少しだけ残ってもらいみんなで冷蔵庫から出したばかりのレモンケーキを試食した。


「ああ、前回よりいいね。」

「うん、酸味が少し抑えられてるからね。」

「ピール入れて正解ですね。食感も楽しめます。」

「ケーキ自体がそこまで甘くないからチョコレートがかかっていてもくどくはないですね。」

「うんうん。見た目も前よりいいんじゃないですか?」


裏の調理台の周りに集合し、立ったまま片手に皿、反対の手にフォークを持ち、口を動かして噛みしめた味や食感についてそれぞれ感じたことを口にする。

レックは口の端に付いたチョコレートを親指で拭って舐めてから頷いていた。

他の面々も少し小さなケーキだからぺろりとあっという間に食べてしまった。


「じゃあ、来月の新作として出しますね。」

みんなに宣言して告知用のポスターは例のごとくアンにお願いする。美味しそうな絵をよろしく。





そうこうしているうちに彼との約束の日となった。

「今日から新しく、ウエイターとしてシュナイザー・ゴード・・・あ、いや、シュナイザーが入ることになりました。」

「シュナイザーです。今日からこちらで働くこととなりました。ご指導よろしくお願いします。」

店を開く前に全員に紹介する。

本人は軽く会釈をして自己紹介。

パラパラとよろしくー、と声がかかる。


そしてショーケースからケーキの取り出し方、飲み物の入れ方、接客にレジ打ちと側で付き添い指導が始まった。

実際に見本を見せつつ、次は自分でチャレンジしてもらう。





そうして新たなメンバーを加えてこの町に来て初めての夏が過ぎていくのだった。

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