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32.一緒に働きませんか?

「――なんでいつの間に仲良くなっているのよ・・・」


「あ、お帰りー。」


出先から帰るとシュナイザーが奥の席に着き、ケーキを頬張っていた。そのテーブルにエイミが着席しており、肘をついて両手を顔に添えてそれを見ていた。

私が返ってきたことに気づくとパッと笑顔で振り向いた彼女はなぜかこっちこっちと誘うように手を振ってきた。


「お帰り。ちょっと邪魔してる。」

「まあ、それはいいんだけど・・・」

2人の関係性が見えない私は2人の顔を見比べて首をかしげる。


「この前から時々来てはうちのケーキを食べて行ってくれてるんだよ。聞けば昔はマリと婚約関係だったって言うじゃない?別れた後もこうしてマリを気にして来てくれてるって素敵ね。で、常連となりつつある彼に試作品の感想を聞いてるの。」

上機嫌で話すエイミにため息をつきそうになる。

今まで会わなかったのはきっと仕入先に出かけている間に来ていたからだろう。


たまたま、他のお客さんはウッドデッキにいて店内は他にいなかったから良かったものの、他にお客さんが来ている時に一部のお客さんをひいきするようなことはしない方がいいだろう。


と言ったら、そこはちゃんと考えてるよ。と返された。


「あ、それ私もまだ食べたことなかったのに。この間言っていたうちの庭で取れたレモン?」

「そーそー。数は少ないけどせっかく出来たんだし、使うために植えたんだから。ね?」

レモンの型で焼いたケーキにアイシングを上から垂らしてコーティングされたそれは、片手の半分くらいの大きさで可愛らしい。


「で、どう?」

ズズイとシュナイザーに向かって顔を突き出した彼女はウキウキとしている。

「美味しいですよ。ただ・・・この上の白いやつが少し酸味が強いかとは思いますが・・・」

「あーやっぱりそう?さっき私たちも裏で食べた時思ったんだよね。」

「エイミ・・・だったらお客さんに出さないでよ・・・」

「一般的にどう思われるかなって。マリの知り合いなら大丈夫だと思って。」

悪びれた風もなくちょっと舌を出しながらウインクする彼女に少しだけ頭が痛くなった。


「ごめん、うちの従業員が。」

「いや。こうして他のお客さんより先に食べさせてもらえてラッキーだと思っているが。」

謝罪するがシュナイザーは気にしていないようだった。


そして酸味がーと言いながらも完食してフォークをカチャリと小さな音を立てて皿の上に置いた。

ウッドデッキにいたお客さんが帰ろうと席を立つのを見て、エイミがじゃあ戻るよ、と皿を下げがてらキッチンに引っ込んでいった。

若い女性客2人組は楽しそうに喋りながら会計を済ませ、店を出て行った。


シュナイザーのカップの中が空なのに気付き、何か飲むか聞くももういいと断られる。

「これ以上飲んだら水腹になって夕飯が食べられなくなる。 」

それもそうか。というか、水腹になるくらいとはどれだけ飲んだんだろう?


「そんなに長い事居たの?」

「そうだな・・・でも1時間も経っていないぞ?」

「・・・1人で1時間も普通はいないでしょうよ・・・もしかして何か用でもあった?」

「いや。そういうわけじゃないんだ。俺がいる隣の町でも人気が出ていると言われているマリアーナの店に行ってみたいと思ったことから始まり、今じゃ甘いものが食べたいときはここに来ている。」

「甘い物好きだったの?初めて知った。」

「ああ。女性客がここは多いようだが男も甘い物が好きな人は結構いるぞ?店の雰囲気的に女性が好みそうで女性がよく来るんだろうが――。」


女性だけをターゲットにしたつもりはなかったのだが、言われてみればそれもそうか。男性が入りやすいような環境を作るべきか、だがそうするといろいろと変えなければならないし、と悩み始めた私を見て、彼の方が慌てる。


「いや、決して入りずらいからなんとかしてくれと言っているわけじゃないんだ。どこのケーキ屋もそうだろう?一般論だ。」

たしかに、他所(よそ)を見ても、カップルとか夫婦とか親子とか、そういうペアで来ていたように思う。たまに男性2人組が来ても、どうしても女性たちの圧というか、そういうのが感じられて肩身が狭そうだった。







「じゃあ、元カレにここでウエイターとして働いてもらえばいいんじゃない?」

「簡単に言うねぇ・・・」

「だってこの店の雰囲気や外観とかは変えようがないじゃないでしょ?じゃあ、後出来ることといったらメニューを替えたり従業員に男性を入れるくらいしかなくない?彼かっこいいしお客さん増えそうじゃない。」

「まあ、それはそうなんだけど・・・」


エイミにキッチンに下がった後の会話のことを話していたらバッサリと切られるように案を出される。何を簡単なことをと言いたげな顔だ。

風呂上がりで濡れた髪をタオルでガシガシと拭いていた彼女は、拭き終わったタオルをそのまま首に引っ下げた。



彼女の言いたいことは分かる。それは私も考えていたことだから。彼は私が言うのもなんだが、エイミが言った通り顔が良い。彼がうちで働けば男性より女性客が今より増えそうな気がするんだが・・・


そんなことを考えながら夕食後の洗い物をする。考え事をしながらもルーティーンと化した仕事はいつも通り終わる。

シャワーの熱い湯に打たれながら、一度彼と話もしてみるかと思考がまとまった。












エイミとは共同経営のような形をとっているが、スタッフの雇用に関しては私に任されているため、直接会って話すことになった。

この間、少し話を聞いたが、それだけで他の人のように普通に接することが出来るようになるほど関係性が薄いわけではなく、また、長い年月を共にしていたことから、まだ互いの間に漂う空気はぎこちない。


エイミに相談し、声をかけると腹をくくった段階でこれからは避けないようにしなければ、と覚悟はしている。が、実際に本人を前にするとまだまだだ。



たまに利用している食堂で周りは食事を頼んでいる中で私たちだけは飲み物しか手元にないのは異色な光景かもしれない――。

そんな不毛なことを考えてしまうのはきっと目の前の人物が優雅にコーヒーの入ったカップを口元に傾けているからだろう。


「それで、店の人たちは俺もそこで働いて欲しいと?」

「いや、言っているのはこの前同じテーブルについていたエイミって子だけなんだけどね。今は何かしているの?」

セリフだけ聞けば上から目線だが、元々な少しつり上がった目はきつさを感じさせず、穏やかな波のようで、真剣みを帯びている。

彼の口ぶりから私も望んでいると思われているのか、といやいやと片手を慌てて振る。


そもそも、彼が今隣町にいることは本人から聞いているが、どんな暮らしをしているのか、働いているのか知らないのだ。

こんな話をしておいて、実はすでに働き口があるんですと言われたらどうしようかと考えてもいた。



「・・・正直、働かさせてもらえるならありがたいな。こっちに来たはいいが人員募集のタイミングがずれていたからなかなか見つからないんだ。今は資産でやり繰りで来ているがいずれは尽きるからな。それに何もしていないのは退屈だ。」

しばし考える素振りをしていたが、意外と早く返事をくれた。


「エイミにしか話をしていないから、またみんなに伝えておくよ。今住んでいる所から通うの?」

「住み始めてすぐだからな。通ってみて、負担になるならこの町でまたアパートを探そうかな。早朝から働くわけではないから十分通えると思うが・・・」

そして彼に仕事内容を説明し、来週から来てほしい事を伝えてその日は別れた。


店を出る前に飲んだ紅茶は(ぬる)くなっていて色の割に味は薄かった。

話を書き終わってからレモンの収穫の時期がおかしいことに気づきました。

が、まあいいかとUPしちゃいました。

ファンタジーということで気にしないでください←大雑把

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