29.オープン当日
今日はリポーゾのオープンの日。
地元で職を探していたメイリンととある場でたまたま知り合い、1週間前にレジと接客をしてもらうために雇い入れた。
最近ここに引っ越してきて、彼女の旦那さんがここの港で仕事をしているのだが、ここには友人もいないことから日中1人で過ごすのが退屈で手持無沙汰だったという。ここから他の町に行くには少し距離があり、他の町で仕事をするのもどうしようかと考えていたらしい。
たまたま彼女が困っていたところを助けた私にお礼と言って飲み物を奢ってくれ、そこでそんな話をしていた。
そして互いの利が一致したことにより一緒に働くことになった。
オープン当日朝早くから準備を始める。
空が少し白み始めた頃に起きる、というのをここに来てから練習しようやく慣れてきた今日この頃。
欠伸が出そうになっては歯を食いしばって逃そうとして結局口が空いてしまう、という状況も今ではかなり減ったと思う。
厨房は朝から忙しく動き回っていた。もちろん、商品に唾などが飛ばないよう、口は最低限しか動かしていない。
「これで大丈夫ですか?」
「ここ、もうちょっとクリーム塗って。・・・そう、うんそれで大丈夫。」
レックとアンが作った物をショーケースに入れる前に私たちに確認する。まあ、ほとんどエイミが見ているんだけど。
チラシをそこかしこに貼らさせてもらっているため、オープン当日はたくさんお客さんも来るだろう、というのを見越して少し多めに作る。
足りなければ作ればいいのだが、料理と違って出来上がるまでに時間がかかるから見極めが難しいだろう。
開店30分前。
メイリンさんが到着し、作っていた物もほぼ作り終えた。
店内のテーブルを汚れがないかもう一度見て回る。
初めて店を開けるのだから汚れがないのは分かっているのだが、緊張してそわそわと落ち着きなく動き回ってしまう。
「外、お客さんがもう並んでいましたよ。」
「え、もう?まだ開店時間じゃないのに。」
「それだけ楽しみにしてくれているってことですよ。」
入り口付近にはすでにお客さんが待機していると聞いて驚いた。たしかに、レジ付近にいると外で楽しそうに喋っている声が漏れ聞こえてくる。
嬉しさもあり、緊張もあり、複雑な心の中で時間を迎えた。
「さあ、みんな、店を開けます。まずは1日、がんばって乗り切りましょう!」
私の号令にみんなが笑顔で頷き返事を返してくれる。
そして外に出る。
カラン、と鈴の音が響く。待っていたのはほとんどが女性客。それもみな成人しているような人たちだった。
「お待たせしました。ただいまより開店いたします。ようこそ、リポーゾへ!」
ドアにかけられたcloseの表示をopenに替える。
ガヤガヤと入ってきたお客さんは一歩を踏み入れた後まずは興味津々に店内をぐるりと見渡した。
わあ。綺麗。といった感嘆の声が聞こえる。
「落ち着いた雰囲気だね。」
「ねー。ねえ、ケーキはどれにする?」
「えーどれも美味しそう。」
「これと、あれ美味しそう。でも食べられるかな?」
「じゃあ、あっち半分こしよう?私もあれ気になってたの。」
そうやってそれぞれがショーケース内のケーキを見て悩みに悩んだものを選んでいく。
「すみませーん。外で食べたいんですけど、あそこの大きなガラス戸から出入りすればいいんですか?」
「ええ。鍵は開けていますのでその扉からどうぞ。」
若い女性がメインのため静かだった店内が一気ににぎやかになった。
ケーキがメインのため飲み物の種類は多くない。あれはないのか、これはないのかと聞かれるかもしれないと少しは構えていたが、初日ということもあってか意外と聞かれることはなかった。
この間試食したショートケーキにチョコレートケーキ、フルーツのミニタルト、チーズケーキ、ベリーのムースケーキ、生クリームとカスタードクリームを挟んだロールケーキ、ガトーショコラ、クレープ、シュークリーム、パンナコッタ、ババロアとゼリーを重ねたもの。持ち帰り用に小袋にラッピングしたラングドシャやボックスクッキーとこうして名を挙げていくと決して品数は多いわけではない。小さな店だし、初めから品数が多すぎると作り続けるのが大変だからまずは、という感じだ。
さっきの女性が気になっていたと言っていたのはババロアの方だ。下はババロア、上はオレンジゼリーなのだが、そのゼリーの中にオレンジの果肉を円を描くように並べていた。
ウッドデッキで食べたお客さんはまだ木を植えて日も浅いためにゆっくり花を見ながら、とはいかなかったが、店の前に置いた植木鉢の花を見て、気持ちの良い風に当たりながらのんびりとできたようだ。あそこは屋根を付けてくれていたから日陰にもなって本当に良かったと思う。
そうこうしているうちにあっという間に夕方近くになっていた。
「来たよ~」
「久しぶり。お客さんいっぱい来てくれてるのね。」
鈴の音が聞こえたため入り口を見ればちょうどラリアンとトルティーナが入ってきたところだった。
「2人とも来てくれたの?ありがとう。おかげさまで大盛況よ。」
「店の周りの木がもう少し大きくなれば隠れ家的な感じになりそうね。」
「森の中の店って?別空間にいるみたいでいいじゃない。ね、おすすめとかある?」
「そうね・・・カスタードクリームをメインで売り出そうと思っているからそこのロールケーキとかクレープ、タルト、シュークリームなんかかな。チョコレートケーキとガトーショコラは少しほろ苦い感じにしてるよ。」
「これ、クレープ?前に町で見たやつとは形が違うわね。」
彼女が言うクレープは三角の筒のような形の物。だが、この店にあるのは四角だった。あまり一般的でない包み方をしたから他のお客さんにもこれがクレープなんですかと聞かれることもあった。
たっぷりのカスタードクリームとフルーツを入れようとしたら通常の形だと入りきらず、また平民は手で持って食べるため、それならと持ちやすいようにこの形にして紙を半分巻いた。そこを持って食べるようにと。
新しい食べ方ではあったが、意外と評判が良かった。
そしてこの2人もそのクレープとフルーツタルトを食べていた。
「あっさりした甘さで美味しいね。飽きがこない。」
「そう言ってもらえてよかったよ。――あ、呼ばれたし行くね。ゆっくりしていって。」
「ありがとう。がんばってね。」
レジに人が立ったため清算に行く。メイリンは他のお客さんの対応中だった。
「お待たせしました。お会計は1300円です。」
「あ、2人別々で会計してもらってもいいですか?」
「分かりました。では――。」
美味しかった、また来ます、といった言葉をかけてくれるお客さんに出だしは上々だったと思える。
食事処と違ってバタつくこともないためそれぞれのお客さんがゆったりとした時間を堪能できたのではないだろうか?何人かはショーケースにあるケーキを持ち帰ってもいた。
気が張った分疲れも体にのしかかっているが、それを忘れるくらいには今日のお客さんたちの美味しそうな顔や楽しそうに会話する顔でやりきったという思い、充足感が強かった。
そして忙しかった分時間がたつのを早く感じた1日だった。あとで他のスタッフにもみんなが喜んで帰っていったことを伝えよう。




