25.ミッション④ー店の告知ー
甘~く疲れを癒すような口の中のそれにトロンとした顔になる。
「ああ~美味しい~。」
白く滑らかなその舌ざわり、くどくなく優しい甘さに香り。
こんなの惚れてしまいそうだ――。
「ちょっと、そんな顔してないでちゃんと具体的にコメントちょうだい。美味しいのは分かったから。」
エイミの突っ込みではたと視線を彼女に合わせる。
今は食べ比べをしていた。パンナコッタの。
今食べているのは牛乳と生クリームで作った物。もう1つは牛乳を使わずに生クリームだけで作られた物。
どちらかと言えば生クリームだけの方が濃厚さが出ているように感じるが、舌触りのよさ、というか滑らかさは牛乳が入っている物の方が良い。
経営者からするとコスト的には牛乳+生クリームだろう。
「生クリームも火にかけると風味が飛ぶけど、火にかけるのは牛乳だけだし、火から降ろして冷蔵庫から出したての生クリームを入れたら正直差はないでしょ?」
「うん。多少の違いはやっぱりあるんだけどこっちも十分に美味しいね。」
ケーキもいいがもっさりしたものばかりではなく、こういった口当たりの滑らかなものだって必要だ。プリンはわりかしどこの店も売っているがパンナコッタはなぜかそうではない。蒸らす手間がない分パンナコッタの方が簡単だと思うのだが・・・。あ、材料費の問題か。
今日の試作品として出されたパンナコッタをみんなで食べる。お客さんとしての声も聞きたくてそれぞれ家族にも食べてもらって感想を聞いたりもしているらしい。忙しい合間にしてくれて本当にありがたい。
さすがにこれだけで出すつもりはない。トッピングは大事だ。美味しそうでないと購買意欲もわかないだろう。
「それこそ庭に植えてあるブルーベリーとかオレンジとかいいんじゃない?」
「イチゴとかもいいですよね。店によってはミントを飾る所もあったりしますけど・・・」
「味の違うパンナコッタを層にするのも綺麗だと思いますよ。断面が。」
「それなら冷やすときに傾けたりしても綺麗ですよね。」
喋り始めたら止まらない。皆熱心でそれぞれが考えるものがあり、時にはぶつかり合いながら案をまとめていった。
そしてレシピももちろん。誰が作っても同じ味になるように。もちろん、彼らが作ってくれる予定だが、体調不良などで休んだり、様々な事情から考えたくはないが退職・・・なんてことがあれば私や新たに採用したスタッフでも同じ味を再現できるように、っていうことも考えて。
春まであと数ヵ月ということもあり、大詰めになってきていた。農家との交渉や物によっては商団と契約を交わしたりと大忙しだ。
あちこち走り回って徹夜でいろいろ考えて、以前ハゴルさんに言われた通り体力のあるうちじゃないとたしかに大変だ。自分が実際にやってみてどれだけ大変なのか痛感している。本当、それなりの歳になってから起業した人はすごいと思う。パワフルだ。
後は宣伝をどうするか。口コミも大事な情報だが、開店してすぐはそもそも店の存在を知ってもらわないといけない。
新聞なんかに掲載すると一気に知れ渡るが、広告料が発生する。なるべく低コストで認知してもらうとなると広場の掲示板にチラシを貼るくらいか。
「うちの宿に張り紙する?なるべく人の集まる所に貼った方がいいよね?店まで少し距離があるけど街道が整って港も整備されたら行く人も増えるだろうし。」
「お願いできる?後で私からもおじさんとおばさんに直接お願いするよ。」
「そのチラシは誰が書きます?それか依頼する方法もありますけど・・・」
そう、それが問題だ。アンの一言にエイミと顔を見合わせる。
「「私たちは無理だよね。」」
綺麗に言葉がかぶる。でも、本当に無理。あのこんな店にしたい、って書いたときの絵。いかに自分たちに絵心がないか思い知らされているから。
まだ何か言いたそうなアンとレックにブンブンと首を振る。
「じゃあ・・・私が書きましょうか?」
小さく挙手をして控えめに言ってきたアンが天使のように神々しく見える。
思わず手をすり合わせお願いした。
店の名前と地図、いつからオープンか、それに分かりやすくどんなものが売っているのかイラストで。
店の名前はリポーゾ。学校の図書室で調べていたのだが、とある国の言語で憩いの場と言うらしい。くつろげる場所というのを目指している私にとってその言葉はスッと心に入ってきた。
「すっかり秋も深まってきたね。」
「うん、ちょっと冷えてきたね。暗くなるのも早くなってきたし。」
夕方、解散した後はバイトに行くためにブオノに向かっていた。キュルレさんからチェルシーさんへの渡し物を持ったエイミと共に。
陽が傾き、建物の間を通る風が少し冷たくなってきたように感じる。
今でも袖の長い服を着ているがそろそろ薄手の羽織り物があってもよさそうだ。
しばらくのちに着いたブオノだが、店内はすでに灯りが灯されていた。
裏口から店内に入りエプロンを着る。さすがのエイミも忙しく動き回っている料理人の邪魔をするのは憚れるらしく、厨房に立ち入れずどうしようか悩んでいるようだったため、私がチェルシーさんを呼ぶことにした。
「こんばんは。お願いします。」
「こんばんは。今日もありがとう。早速だけどお客さんが帰っているテーブルの片づけをお願いしてもいい?」
「分かりました。あと、エイミが裏で待ってます。渡し物があるみたいで・・・」
「まあ、そうなの?もう暗くなるのに。分かったわ。ありがとう。じゃあ、ちょっと席を離すわね。」
裏方に引っ込むチェルシーさんを見送り、ちょうど料理が出来上がったと声がかかったためそれを運ぶ。運んだあとはお客さんがいないテーブルの上を片付けタオルで綺麗に拭いて回った。
まだ夕方のためか、それほどアルコールを摂っている人はいないため夜遅くに比べてお酒の匂いはしない。その代わりに肉やスープ、揚げ物といった匂いが強い。
お客さんに呼ばれてテーブルまで行くと、
「こっちにこの豚とレンコンの重ね焼き1つ追加してくれ。」
と追加注文が入る。すぐに厨房へ伝えに行くとチェルシーさんが戻ってきた。
店内には他にイリルさんが片付けなどをしていた。もう少し遅い時間になればヒューストンさんも来るだろう。
この店の店員は全員私が店を出すことを知っている。一緒に働くことはできないが、応援してくれているからみんなに自慢できるようないい店を作っていこう。
数時間前にアンにお願いしたチラシがどんな風に出来上がるのか、とても楽しみだ。
作中のパンナコッタの味や舌触りがどうのというのは主観です。
食べ比べではなかったのもあってか我が家の面々は違いが分からなかったようです。
ミッションはここまでです。卒業までの庶民として暮らすための準備をミッションとして表していました。




