18.ミッション④ー語り合いましょうー
「あー、やっと着いたー!」
辻馬車を降りて凝りまくった体をほぐすようにエイミが両手を空に向かって挙げ、背を反らす。彼女の大きな声も人が集まりそれぞれが会話していたらそこまで目立つことはない。
平日学校がある私に合わせて休日に休みを取ってくれたエイミと共に馬車に揺られて開発地マッケナに来た。元々そこはドが付くほどの田舎町で家は数十件。それも若い人と言えば自分の親より少しだけ歳が下かな?と思える人で高齢者ばかりの町だった。町というより村に近い。それぞれの家庭が畑を持ち、麦を主に砂糖や野菜を少しずつ育てており、完全な自給自足は難しいが、それに近い状態だったようだ。海辺の砂浜では塩作りもされていて、量は多くなかったが、塩や砂糖を町の外へ売りに行けばかなりの額で取引ができた。
一見のどかな場所に見えるが、区画整備が進み、町を視察に来る人達で賑やかになっていた。
町の中心部には噴水が作られている途中であり、その周辺は公園のようだった。噴水の前には広い道が整備されており、クストダムとの境の街道がこの広い道に繋がっているそうだ。そして噴水の前の道が十字路となっており、海の方までこの道は続いている。だが、大通りを少し中に入れば道幅は狭い。
ロープで区切られた敷地内には一部に『売却済み』の看板が立てられていた。
「良さそうな所だね。」
「うん。気候もいいし、これから人を呼ぶならちょうどいいね。自分の店を持つなんて夢のようだよ。先を越される前に早く行こう。」
辻馬車で一緒に来た人たちはすでに散り散りになっていた。
広めの区画になっている大通りを見て歩く。裏の方はもっと狭いから、表は店のために広めにとってあるんだろう。
整備されたといえどまだ道を確保されてならしてあるだけで、細かな砂利のままとなっていて少し歩きにくい。
片側を海まで歩いて行って戻ってくるときは反対側を見て歩く。途中立ち止まっては2人で相談して。
結局立地的に噴水の道を挟んで向かい側の角地にすることにした。
「どういった店を考えてるの?」
「うんとね、店だけでもいいんだけど、それだと他の町のと一緒じゃない?私としては店の裏に広めの庭を作って、そこでいつかガーデンパーティーみたいに小規模なパーティーを開けたらなって。まわりに果樹も植えたらそれも使えるし、景色もいいかなって。」
「うんうん。それ楽しそうだね。果樹を植えるなら例えばお客さんに摘んでもらって、自分で摘んだ果物を使って一緒にお菓子を作ったりとかも楽しそう。特に小さい子なんかは好きそうだね。」
自分のイメージを言葉にすることで現実味が帯びてきている気がする。それに2人で案を出し合うのは楽しい。
ただ、そうなると区画で示された土地だと足りない。
「隣の土地も買う?」
「そうなるよね。取り敢えず交渉してこようか。」
土地の売買を担当しているという人の元へ訪ねる。
「区画は決められているので変更はできませんね。ただ、お嬢さん方の言うように果樹を植えるとなると、店の大きさにもよりますがそれなりに広い土地があった方がいいのでこの区画2つを購入なさった方がよろしいかと思いますよ。」
「お金の心配もあるんです。土地が買えても店が立てれなければ意味がありませんから。」
そう、すべてはお金である。どれだけ夢があっても、そもそもお金がなければ成せないのである。例えバイトしようと、身の回りの物を売ろうと、簡単に払える額ではないのは容易に想像できる。
「そうですね。ただ、ここはまだ開発が始まったばかりなので今なら土地代はかなりお安いです。開発が終わり、人の出入りが多くなれば単価は跳ね上がります。」
そうスーツに身を包んだ男性に説明され、提示された金額を2人で見てこれならいけるか?と目配せする。せっかくいい立地なのだし、他の人に先を越されない様に購入すると伝えた。
帰りの馬車を待つ間、今後のことを話し合う。
「お金のことに関しては私も働いてほとんどを貯金に回してたからそれなりに溜まってると思うよ。」
「私も。足りないけど頭金は出せそうだね。あとは銀行でローンを組んでいくしかないか。庭を作るなら木も買わないといけないしね。それに2人じゃ店を回すのが大変だから何人か雇わないと。」
「そっちに関しては当てがあるから声をかけてみるよ。」
間取りなどを話し合おうとしたが、紙もペンもなかったため一旦エイミの実家である宿屋に戻ってから話を再開しようということになった。それからしばらくして辻馬車がきて1時間弱かけて戻っていった。
「お帰り。・・・おおマリちゃんか。いらっしゃい。」
「こんにちは。お邪魔します。」
宿に着いて出迎えてくれたのはエイミのお父さん。女将さんと違ってカリカリという表現が合うくらい細い人で、お堅そうというか真面目そうというか、そんな見た目だが厳しいばかりの人ではなく、優しさがあり、勝手に第2の父だと思っている。
バイトに来ていた時も何かと気にかけてくれていた。
エイミたち家族のリビングに案内され、大きくはないダイニングテーブルの上に紙を広げる。
「それにしてもマリが店を出すことを考えていたなんて知らなかった。言ってくれたらよかったのに。」
「私も最近まではそこまで考えてなかったの。一からだとお金もかかるし、経営とか知識がないから。でも友達に後押しされてチェルシーさんたちにもやりたいことを、って言われてね。開発の話を聞いてやってみようかな、って思ってエイミに声をかけたの。」
「いきなり大きな博打に出たね。まあ、私も話に乗っかれてラッキーではあるけどね。」
向かい合って座って喋っていたが、喉が渇いたね、とエイミがお茶を淹れに行ってくれた。
しばらくして戻ってきたエイミが手に持っていたのはお茶の入った湯呑とパイ。
「父さんがこのパイ持ってけって。なんか近所の人がお土産で貰ったけど多いからおすそ分けしてくれたらしいよ。」
有難く頂戴したパイはサクサクで中に入っているのは餡だろうか?たしかシュリアが主な産地だったような・・・。なかなか食べなれない食感だったが甘くて美味しかった。何よりお茶によく合う。
その後はお互いイメージしている店や庭をイラストで表していく。――イラストと言いながら絵心がないため、〇や□などで表しているだけに過ぎないが・・・。店の外観と木だけは絵でも分かる、という程度だ。エイミだって似たり寄ったりだ。まあ、私よりまだましな部類だが。
「あー、そんなに中にテーブル席作らないんだね。これは?外でも食べれるってこと?」
「そう、中に大きなガラスの扉を付けてそこからデッキのテラス席に出れるようにするの。夏なんかは日差しも強いからパラソルなんて置いてもいいんじゃないかな?」
外だと開放感もあるし、周りの景色を楽しみながらのんびりとくつろげる場所になるんじゃないかと思っている。多分、2組くらいしか座れないだろうけど。
庭には敷地を囲むようにブルーベリー、レモン、オレンジの木を植える案を出す。裏庭に続く道にはミモザの木を。
「エイミ、この畑って何?」
「苺を植えて苺狩りなんてどうかと。」
裏庭の奥に二重線が横に並んで2本書かれ、『畑』と書かれている。私も大概だけど彼女もなんともざっくりだなあ。
入り口の前にアーチがあり、それに絡まるように渦巻き線が描かれている。
「これは?」
「バラ。蔓バラならアーチになって綺麗でしょ?」
中はL字型のショーケースにそれを囲むようにテーブル席。うん、良さそう。
2人の意見をすり合わせ、大体のイメージが出来上がる。その頃には陽も傾き、夜の匂いが漂い始める。
「遅くなったね。そろそろ帰らないといけないんじゃない?」
「あ、そうだね。じゃあ庭のこととか詳しそうな人がいないか友達に聞いておくよ。」
「うん。こっちも一緒に働けそうな人に声をかけておくよ。」
次回の約束を取り付け、その日はそこで別れた。
形になってきた夢にワクワクとドキドキで気分は高揚していた――。




