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15.ミッション④ー自分は何がしたいだろうー

冬休みが終わり、気づけば春になった。


今月が終われば学年が1つ上がる。最終学年だ。泣いても笑ってもあと1年。

残る心配は無事に家を出られるか、ということは一旦隅に置いておいて、卒業後の仕事だ。

今はバイトとしてチェルシーさんの店に雇ってもらっているが本格的にこれからを考えていかないといけないだろう。

幸い、春先は1年の中でも仕事の募集が一番多い時期でもある。街中の店には店頭に募集の紙が貼られていたり、町の広場の掲示板に上げられていることもある。

職種を選ばなければ数は多い。―――が、平民の生活の基盤が整ったわけではなく、バイトといえば飲食店と宿屋だけだと限られてくる。それに募集によっては男性のみ、とか年齢制限がかけられているものもあるため難しい。


時間だけが無情に過ぎ、気づいたら卒業前でした、という事態は防ぎたい。




チェルシーさんに頼み込むか、悩みながら、春休みもエイミの宿でバイトをしていた。



「えー、平民街で仕事するの?貴族だとほら、卒業後すぐ政略結婚とか、領地経営の手伝いとかしないといけないんじゃないのー?」

どこか働けそうな場所はないかとエイミに聞くと意外とばかりに驚かれた。


「領地経営は男性の仕事だよ。まあ、それは置いておいて、本来ならそうなんだけどね。ちょっと事情があって卒業後は家を出てどこかで仕事をしようと思うの。」

どこか働き口はないかエイミに聞くと悩んでいる様だった。

うーんと唸りながら椅子に座った状態で足をぷらぷら動かしている。


「そもそもどういった職種に就きたいか、何が好きかによって変わってくるよね?希望はないの?」

「他にどんな仕事があるのかあまり知らないんだよね。ブオノでバイトしていて調理もさせてもらっているんだけど、それが楽しいなって。けして楽な仕事ではないのは分かってるんだけど・・・。」

「――たしかこの町だったらカリオン爺のところとハメル婆さんのところが畑やってて若い人手が欲しいって言ってたような気がするけど・・・また聞いておくよ。」

「ありがとう。よろしくね。」


ごちそうさまでした、と食器を流し台に持って行ったら、

「さてと、昼からもがんばりますか。」

と言って背伸びをしながら歩きはじめたエイミに付いて行った。






ブオノでは――。

「え?たしかに2人募集かけてるけど本当にここでいいの?助かるしありがたいけど・・・。」

「まだ若いんだ。自分のしたい事をしたらどうだ。世の中に目を向けたらもっと仕事は多い。今のままじゃ視野が狭すぎるからな。もっと世界を知ってやっぱりここがいいって思ってからでも遅くはないぞ。だが、チャレンジするのは体力も根気もいるから若い方がいいと思うがな。」

仕事前にチェルシーさん夫婦にここで働けないか聞いたら特にハゴルさんに反対された。

少し離れた所から聞こえる誰かが何かを包丁でリズムよく切っている小気味良い音がする。休憩室の中だけは朝なのに深刻そうな空気が漂っていた。


みんなやりたいこととか好きなことを聞いてくるが、今まで1人暮らしが出来るようにがむしゃらだったため、ふと足を止めてみると自分が本当にやりたいこと・好きなことってなんだろうと考えれば考えるほど分からなくなってきた。私が知っている人たちは笑顔で仕事をしているからみんなその仕事がしたくてやっているのかと思っていたが、働く時間帯が自分の希望に合っていた、家から近かった、給料が良かったなどなどそれぞれ事情があるようだった。笑顔も、特に客商売をしている以上必要不可欠であって愛想笑いで誤魔化したりしている時もあると話していた。



私は生まれ育ったこの国――ジュードから出るつもりは元々ない。首都コンソートへ行けば働き口が多いと聞くが、その分物価がかなり高騰しているらしい。そんなところではきっと家賃を払うだけで、もしくは生活費だけでいっぱいいっぱいになるんじゃないかと思って候補からは外している。それに田舎育ちだと都会の人だかりに酔いそうだ。


この国の西側でブオノのあるヴェルン周辺か、はたまた思い切って東側のコストロ周辺に行くか。実家がヴェルンとコンソートの間のヴェルン寄りにあるためコストロの方が会う確率はぐんと下がるだろうけど・・・。

ただ、お国柄でいうとヴェルンのさらに西に進んだ先にある国、クストダムはおおらかな人が多く、コストロ近くに国境のあるベッサナは気が短く好戦的な人が多いという特徴がある。どちらの方が安全かは誰だってすぐに分かるだろう。もちろんヴェルンも国境に比較的近い位置にあるため傭兵だっているが、コストロの方が危険度は高い。



バイトが終わって自宅に帰ってからも自室でどうしようかと悩む。

メイドたちが夜中に飲む水などの準備をしてくれているのを横目に、抱き枕サイズのクマのぬいぐるみをギュッと抱きしめてベッドの上でゴロゴロしていた。もちろん、今までにそんなことをしたことがないから、気でも触れたかとでも言いたげな、不審な目でチラチラ見られているのは気付いていたが、正直それどころではない。


「お嬢様・・・?あの、どうかされましたか?」

1人が代表して恐る恐る声をかけてきた。

「んー。・・・ねえ、1つ聞いてもいい?」

「はい、私が答えれることでしたら。」

「なんでこの家のメイドになったの?どうしてもこの仕事がしたくて?」

目が合ったメイドは想像していなかった急な質問に戸惑いの色を宿し、他のメイドと顔を見合わせる。不審と困惑が見て取れる。やがて意を決したのか言葉を発した。


「私の場合、伝手でこちらの紹介状を手に入れたのと、お給金が良かったというところでしょうか?公爵家など高位貴族はさらに良いと聞きますが、そちらへの伝手は残念ながらありませんでしたし、子爵家よりさらにマナーが厳しいと聞きますので私には無理な話でした。」

明け透けに言われたが、だからこそ素直にそうなのか、と聞ける。きっと私の立場も考慮してあえて雇い主には言わないことも教えてくれているのだろう。


「ですが、お嬢様は気になさる必要はないのでは?伯爵家のご子息とご婚約をされていますので、よほどのことがなければ頃合いを見計らって結婚なさるのでしょう?」

「そうね・・・うん。ただ、みんな手が荒れたり雇い主からの面倒な頼まれごとや執事長・メイド長からの叱責があっても私が見る限り嫌々仕事をしている様には見えなくてね。他にも仕事はあっただろうにどうしてここに来たのかな、ってふと思っただけ。」


片手を頬に当て、首を傾げられる。よほど不思議だったのだろう。理由を説明すると一応は納得してくれたようだ。

そして結婚するつもりはないけど、もし彼と結婚したらその後生活や仕事をどうするつもりなのか、実は知らない。前世では・・・どうだったかな?騎士になって騎士爵をもらってたかな?伯爵家の仕事の一部を任されてたんだっけ?思い出そうとしたけど眠気もあって駄目だった。


急に静かになった私に訝しげに声をかけられてハッとする。

「お疲れのようですね。お早めにお休みください。それでは失礼いたします。」

「あ、ああ、うん。お休み。」

静かに頭を下げるメイドたちにとって繕った笑顔を向けて返事だけした。


柔らかいクマのぬいぐるみのお腹に顔をすりすりしてその気持ちのいい感触に誘われるように意識は混沌の中に落ちていった――。

小さいころからしたかった仕事に就いて、かつ定年までそのまま働いている人はどれくらいいるんでしょう?

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