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14.ミッション③ー冷水に負ケズ、あかぎれにも負ケズー

踏み踏みジャブジャブ。

「ああ冷たーい!」

毎日やっていても慣れない水触り。夏なら冷たくて気持ちいいんだろうなぁ。

手の関節にあかぎれが出来て水が滲みて痛い。少し手もあれている気がするが石鹸のせいだろうか?


「マリさー、明日でバイト終わりだよね。ずっとここに来てくれたらいいのに。」

「それは難しいよ。学校もあるし。」

一緒になって大きなたらいの中に足を突っ込んで動かしながら会話する。ズボンのすそは濡れない様に折り曲げて、且つ手で持ち上げていた。中の水は汚れが落ちている証拠なのか、少し黒ずんでいる。


「銀髪だし貴族かなーなんて思ってたけどやっぱりそうなの?」

「なんで?」

「だってその年で学校って平民じゃよっぽど裕福な家庭じゃないと行けないよ?それに平民に銀髪ってほとんどいないし。銀っていうだけで高貴な感じがするよね。まあ、実際私たちからしたら高貴な人なんだけど。」


たしかに。言われるまで忘れていた。平民は初等教育は受けるがその後は家の手伝いや男の人ならどこかに弟子入りしたりしている。裕福な家庭や貴族だけが18歳の成人まで学校に通えるのだ。

学生でバイトをするのは学費が少し足りないとか、お小遣いが少ない人。よって責任が重いと共にお金もかなり持っている高位貴族は行儀見習い以外でバイトはしない。

そして言われた通り、銀髪は貴族特有といわれるほど平民にはほとんどいない。赤茶や茶色など、なんせ茶色ベースの色が多い。他国とのクオーターなどはブロンドという場合も多いようだが。


そういうことから、こうやってバイトに明け暮れている時点で高位貴族ではないことは察している様ではあった。


「エイミは実家の手伝いを続けているの?」

「いや?たまにくらいだね。お菓子作りが好きで隣町のケーキ屋さんに頼み込んで働かさせてもらってるから。」

「すごい。もう働いているんだね。じゃあそこで働きながら宿の手伝いをしてるってこと?大変じゃない!」

「ケーキ屋は朝が早いからね。いつも6時くらいに行って、夕方前に店閉めて1時間か2時間くらい明日の仕込みして帰って、の繰り返し。今は事情を説明して忙しい期間だけ昼間帰らせてもらってるの。いつもは仕事が終わって帰ってから手伝ってる。夕飯とかお風呂とか準備と片付けしないとだし。」

驚きのあまりまじまじとエイミの顔を見つめてしまった。学業とバイトを両立させるのは大変だけど、彼女の話を聞いているともっと大変そうだ。私の場合、平日は寮生活で食事・洗濯は雇われている人が生徒の分全てやっているし、家に帰ればメイドが身の回りの世話をしてくれ、シェフが食事の準備や片付けをしてくれている。なんとも恵まれた環境というわけだ。


シーツをすすぎ洗いし、懸命に絞って水を出す。どれだけがんばって捻っても吊るしてしわを伸ばせばポタポタと雫が落ちてくる。難しい。


「さ、お腹すいた。ご飯食べよう~。」

使った桶をすすいでひっくり返したら壁にもたれかからせる。

今日のお昼ご飯は何かな、と少しワクワクしながら、いい匂いが漂う場所に向かって2人並んで歩いて行った。


それからは、初めは接客や洗い物から始まり、今では少しずつキッチンに立たせてもらえるようになったこと、季節限定のデザートやその店の人気のケーキがどんなものかなど、話に花を咲かせた。飛び散らない様に口元を抑え、モグモグと顎を動かしながら。






もらったクリームを手に塗り込む。

最終日、仕事が終わってから、近くの植物園にまだ行ったことがないと言ったら案内してくれた。


木々が立ち並ぶエリア、まるで花畑のようにたくさんの種類・色で賑やかなエリア、温室で育っている果物に花、観葉植物。園の中は広くて、たくさんの植物に囲まれて迷子になりそうだった。


「温室の中にはね、ちょっとしたカフェがあるんだよ。」


たしかに、案内してもらった温室の奥の方にはテーブルと数脚の椅子、そのすぐ側には屋台のような店が佇んでいた。簡単な軽食やここで取れる果物を使ったデザートにスムージーが販売されていた。真っ白なケーキの上にはビオラやスミレが乗っている。これもここで咲いている花で、食べられるらしい。それを他のお客さんが食べている物、持っている物を見て説明してくれた。


「果物がトッピングされているのもいいけど花が飾られているとそれだけで華やいで綺麗ね。」

「そう、最近出始めたものなんだけどね。私もアイディアの参考になるしたまに来るんだ。」


その後は花畑の中の小道を通り、十分に堪能してから園を出た。

「良かったでしょ?この辺りの住人はここがデートスポットになってるんだよ。」

たしかに、周りは若いカップルや家族連れが多かった。植物に興味のある人はここで半日は過ごせるだろうと思えるくらい広くて種類が多くて。特に果物が木に生っている所なんて見たことがなかったから新鮮だった。


宿までの帰り道、今日は天気が良いから冬の早い日の入りで町が夕焼け色に染まっていた。

「夕焼け綺麗でしょ?うちの2階からの夕焼けはもっと綺麗だよ。」

ちょうど西側になる2階の部屋からは夕日が綺麗に見えるらしい。そういえば夕日に照らされた町の絵が縁に入れて飾ってあったな。


「ああ、あれね、画家さんが泊まりに来たときに描いてくれてったやつ。その人が泊まった部屋からはちょうどあんな感じで見えるんだよね。」

どうやら2階に展示された絵は画家さんが宿を出るときにプレゼントしてくれていった物たちだそうだ。

貰った物を残してくれているだけでなく、見える位置に飾ってくれている女将さんの心意気が素敵だ。


「ね、春休みあるんでしょ?その時も来てよ。春祭りに合わせてさ、さっきの植物園が無料開放されるから今以上に忙しくなるんだよね。それまでに父さんと母さんが従業員を探してくるとは思うけどいつ見つかるか分からないし、マリはもう慣れたでしょ?」

「うーん、まあ、考えてみるよ。来れたら来るっていうことで。」

「ん。分かった。あ、ちょっと待っててね。」

喋りながら歩いていたらいつの間にか宿に到着していたらしい。

待っててと言いながらエイミは急いで中に入っていった。




「お待たせ!これ、渡しておくね。」

小さな紙にはこの宿の住所と電話番号が書き記されていた。

「来れるならその番号に連絡するか手紙送るかしてくれる?」

「分かった。ありがとう。」

貰ったそれを丁寧にたたみ、ポケットに忍ばせておく。帰ったらメイドが触らない場所に隠しておかないと。


お給料を貰った私はエイミと女将さんことエイミのお母さん、宿の管理をメインでしているというエイミのお父さんに見送られながら日が沈む方角と逆行して子爵家の馬車が待機している場所へ向かった。

お互いに手を振りながら。

次回からミッション④仕事を探そう、をお送りします。そしてミッションは④までです。

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