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13.ミッション③ー宿屋でバイトをしてみようー

今も休みの日はブオノでバイト漬けの日々を過ごしている。

昼食時や夕食時なんかは店の中も混み合っているが、今日は天気が良くないからかお客の入りはまばらだ。

さっきは急な雨に打たれて雨宿りのために入ってきた人もいた。


「寒くなってきたわね。」

窓から見えるザーザーと降っている雨を離れた所から見ながら一緒にウエイトレスをしているレナさんが呟く。ショートカットだからことさら首が寒そうだ。

室内でもお客さんが入って来るたびに外からのひんやりとした空気が漂い、冬の訪れを告げているようだ。

ここは温暖な地域のため隣の国の北の方みたいに雪が降ることはないが、やはり冬は寒い。いや、向こうの国の人が聞いたら暖かいだろうと言われそうではあるんだけども。

コートはまだ少し早いが、みんな厚手のシャツや何か羽織り物を着ている。


注文される料理も今では温かい物ばかりだ。

先に休憩に入っていいと言われたため、礼を言い裏方に引っ込む。

持って行きなと言われて渡されたのは鍋からよそったばかりの熱々のシチューと薄く焼き色の付いたパンだ。

具沢山で具自体が大きいため、皿一杯食べるとお腹がいっぱいになる。家でたまに、ごくたまにシチューが出るが、具が小さくスープが多い。

これは食べ応えがあるし、野菜が大きくカットされているため、ジャガイモのホクホク感とか人参の甘みとか、野菜本来の味や食感が楽しめて好きだ。


リスのように頬を膨らませて食べていると、ちょっとごめんねと言いながらチェルシーさんが入ってきた。シチューを持っていないから一緒に休憩ではなさそうだ。

「お願いがあるんだけどいい?」

「はい、なんでしょう?」

「冬休みの間だけでいいから、昼間は宿のバイトに行ってくれないかと思ってね。」


その宿というのはチェルシーさんの妹さんが営んでいる所で、従業員が家庭の事情で急遽辞めることになったらしい。

ただ、時期が悪く、その宿の近くにはこの国の、それも冬だけに咲くという珍しい花がたくさんある植物園や近くの広場でイベントがあったりして、泊り客が増えるのだ。すでに予約で満室近い状態であり、そんな中で人が足りないとなるとお客さんに十分なサービスが提供できないと困っているらしい。

そのイベントというのがちょうど冬休み期間中にあるため、せめてその間だけでも助けて欲しいと言われているようだ。

だが、チェルシーさんはチェルシーさんでこの店を回さないといけないため、誰か代わりに行ける人を探していたそうだ。

家からブオノまでよりも遠くなるため、早く家を出ないといけないのが大変だろうけど、私で良ければと快諾した。いろんなことを経験して自分でもできることを増やしたい、自分には何が向いているか知りたいという下心もあった。


「じゃあ、向こうにも言っておくよ。後で地図を書いて渡すから。」

「ありがとうございます。」






「ああ、あなたがマリさんね。チェルシーから聞いてるわ。来てくれてありがとう。」

「は、はい。はじめまして。マリです。よろしくお願いします。」

「時間がないから早速仕事内容の説明をするわね。こっちに来て。」


もうすぐチェックアウトの時間。チェックアウト後はシーツを替え、部屋の掃除をし、シーツを洗濯・・・と説明を聞いているとやることが多い。初めてだから今日は2人で、と説明された。


「エイミー!エイミちょっと来て―!」

「はいはーい!・・・・・・あ、この間言ってたバイトの人?」

「そう。あんた教えてあげてくれる?私は他のことしないといけないから。」

「ん。了~解~。じゃ、行くよ。えっと・・・何さんだっけ?」

「マリです。」

「私はエイミ。2階から行くよ。付いて来て。」

女将さんの娘であるエイミが呼ばれ、私の指導をしてくれることになった。小柄で聞くと一つ年下だがしっかりしている。短い髪を無造作に括っていて、束ねられた髪は小さな(ほうき)のようだ。


階段を上ると、片側は客室となっていて、片側は壁。その壁には風景画がいくつか並んで展示されていた。その中の1つ、夕日の沈む町と題された絵は夕焼けに照らされた町に水面は太陽の明かりでキラキラ輝いている風でとても素敵な絵だった。



「シーツはごみが落ちない様に包むようにして剥がして。枕カバーも全部替えるから。」

細かく教えてくれるが、慣れない作業はなんせ手間取って時間がかかる。仕方ないにしろ、よくイライラしないなと他人事のように感心する。――これが親や兄なら暴言吐かれまくりだろう。

大きな洗濯物用の籠にシーツ類を入れ、新しいシーツと交換したら今度は拭き掃除。

決して広い部屋ではないが一部屋終わった後にはかなり疲労が溜まっていた。

これが2階に6部屋、1階に4部屋。他の宿に比べ部屋数は少ないらしいが、大変だな、と思った。

ただ、2階は見晴らしも良くて、ほど近くにある植物園が見えるのが良かった。まあ、掃除しながらだからチラリくらいしか見ていられなかったが。



3日目、4日目になるとこの仕事も慣れてきた。

部屋の掃除が終わったら洗濯をしないといけないのだが、もちろん自分たちでしなければならず、冷たい水に手がかじかみながらも石鹸でもこもこにしたたらいで揉んだり踏んだりして汚れを落としていた。

軒下に張られているロープにシーツを干し、パンッパンッと音を立ててしわを伸ばす。――ここまでが午前中の仕事。


「マリ、そっち終わった?ご飯食べよう。」

「うん、今行くよ。」

歳が近いこともありエイミとはすぐに打ち解けられた。

賄いで出してくれる昼食に舌鼓をうつ。豪華な食事は出ないが、素朴な味、というか、優しい味というか、まあこれが家庭の味なんだろうという感じ。野菜の煮物や焼き魚、自家製の漬物。今日もお腹いっぱいになった。



食後に少し休憩したら今度は明日使うシーツのアイロン。そして人生初の火傷。左手の指先だけだったが、アイロンに当たってしばらく痛かった。高温だから熱いのかと思ったのに火傷は痛いものだと体験して分かった。まあ、水ぶくれができるほどではなくて煤けたみたいになった程度だが。



洗濯担当のメイドたちが手があかぎれて痛いと言っていたのも、冬は手が動かしにくくて辛いと言っていたのも、今ならわかる。

せめて洗濯の時間を短くさせるために汚さないよう気を付けようと密かに決心した。例えば月のものとか、月のものとか・・・。

ミッション③は平民の生活(主に掃除・洗濯)を学ぼう、です。あと1話続きます。

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