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12.夜会

冬になれば社交会シーズン。

独身の淑女たちにとっては気合の入る時期でも私にとっては憂鬱な時期。


2月ほど会っていなかった婚約者とも強制的に会わなければならない。


「はあ~。」

「お嬢様、まだ前を向いていてください。それにせっかくの素敵なドレスを着ていらしているのにそんなため息もったいないですわ。」


ヘアセットが済み、ドレスを着せてもらっているが憂鬱すぎて深い深いため息をついてしまう。

それを準備を手伝ってくれていたメイドに(たしな)められてしまった。



サイドの髪を一房ずつ垂らし、残りは編み込んでまとめられた。ヘッドドレスはシュナイザーの瞳に合わせてエメラルドとペリドットが散りばめられている。

ラベンダー色のドレスは金の刺繍があしらわれている。――どちらも直前にシュナイザーが贈ってきた物だ。

それに以前貰ったネックレスとイヤリングを付ける。

どこからどこを見ても彼の色に染まっている。婚約者の色をまとわないと変に噂されても困るため渋々身につけたが、これはやりすぎではないだろうか?


彼とは会場の入り口で落ち合う予定であり、大変に不本意ながら今日は両親と共に向かうことになる。

ちなみに兄たちは既に別の馬車で会場に向かっている。


馬車に乗る前、両親がちらりとこちらを見て頭から足先まで見てから視線をそらされた。何も言われなかったが、馬車の中、静かなのが逆に空気の重さを強く感じて息苦しくなるくらいだった。





「こんばんは。オルトラン子爵、オルトラン夫人。しばらくの間マリアーナ嬢をお借りします。良い夜を。」

「ああ。よろしく頼む。」

馬車から先に両親が降りると、馬車の紋章を見て駆けつけたのだろう、シュナイザーが待っていた。

両親に挨拶をすると私の腕をとり、自分の腕に絡ませて歩き始めた。

別れる際、人目があったから何も言われなかったが、母の冷たい目が目の奥に焼き付いた。




「――ドレス、似合ってる。」

「え?あ、ありがとう。」

無言で歩いていたが、急に声を掛けられ反応が一瞬遅れてしまった。

彼は紺に縁は銀糸で刺繍されているジャケットに濃い青のクラバットを着用していた。


会場入りしたとたん一斉に周囲の目がこちらを向き、一瞬体がこわばった。


爵位の上の人から順に2人で挨拶に回る。

それぞれが友人や仕事仲間と会話しているはずなのに視線があちこちから感じられ早くここから離れたいと思えた。

特に離れた所から見ている女性たちの視線が辛い。凛々しい顔立ちのシュナイザーが婚約者がいれど人気があるのは知っていた。だから側にいると居たたまれなくなる。


一方のシュナイザーは美しく着飾ったマリアーナに向ける男性たちの視線にイライラしていた。猫目で少しきつい顔に見えるが、美しい銀の髪にスカイブルーの瞳は目が合うと吸い込まれそうになるくらい綺麗だ。我が強すぎることもなく、密かに人気があるのだが本人は全く気付いていない。気づく前にシュナイザーが強い視線で声をかけようとする男たちを追い払っているのだが、そんなこと露知らず。

むしろその強い視線が怒っていると思っており、本当は早く私と離れたいと思っているんだろうな、と違う方向に捉えていた。



ひとしきり挨拶が終わると曲が流れ始めそれぞれがパートナーと共にステップを踏み出す。

自分たちも曲に合わせて軽やかにステップを踏む。

相性の悪い自分たちだが、シュナイザーはリードが上手く踊りやすい。

ターンの時、ドレスの裾がふわりと舞う。

優雅な身の捌きに隣で踊っていたペアがチラチラとこちらを見て頬をほんのりと染めていた。



「ふぅ~、疲れた・・・。」

シュナイザーと踊った後、数人の男性からダンスに誘われそれぞれ1回ずつ踊った。

シュナイザーの方も女性たちに囲まれそれぞれとダンスしていた。その中にはこの会場に入った時にじっと見つめていた女性もいる。――学校でいつも一緒にいる彼女の姿はそこにはなかった。


まだ未成年であるためアルコールは飲めず、果実水を給仕から貰い、壁の花となるべく隅で静かに周りを見ていた。そばのテーブルには一口サイズの美味しそうな食べ物がたくさん置かれていたが疲れすぎて食べたいと思えなかった。



「こんばんは、オルトラン令嬢。もう踊られないのですか?」

「まあ、こんばんは、コートリル令嬢。疲れてしまったので休んでいるんです。」

声をかけてきたのはコートリル侯爵家令嬢。ボリュームのある巻き髪が特徴的だ。そのせいか顔がとても小さく見えている。彼女も今日は婚約者と一緒に来ていたはずだ。たしか彼女のお兄さんの友達という方だったと記憶している。


「ゴードレン伯爵子息様とのダンスは優雅でとても素敵でしたわ。もう一度見たいと思っていたのですけれど・・・残念ですわね。」

「そんな・・・ありがとうございます。コートリル令嬢も変わらず素敵なダンスでしたわ。」

「ふふ。ありがとう。――あ、彼が呼んでいるのでこの辺で失礼しますわ。では、良い夜を。」

「良い夜を。」

1つ年上の彼女は高位貴族らしいどうどうとした態度ながらも下の貴族たちに威張ることもなく、平等に接してくれる良い人だ。

優しそうな婚約者の側に戻った彼女は幸せそうな顔をしていた。





「ここにいたか。」

コートリル令嬢と別れてからしばらく。ようやくシュナイザーが戻ってきた。

もう帰ろうと言うべく一歩を踏み出した所で、遅れて会場入りしたであろうニック男爵令嬢が早足でこちらに向かってきた。


「シュナイザー様!こちらにおられたんですね。探しましたよ~。一緒にダンスをしたいと思っていたんです~。」

相変わらず空気を読まない。それに挨拶が抜けている。彼女は礼儀作法をやり直した方がいいんじゃないだろうか。

「あ、オルトランさんもおられたんですね。ね、彼と踊ってきていいでしょう?1回だけだから!」

ニック男爵令嬢がシュナイザーの手を取ろうとして振り払われる。む、としたのか今度は私に頼んできた。

会場の隅にいたのに男爵令嬢の声が大きく周りがこちらを気にしてる。ざわざわとし出したように思えて焦燥感がつのる。


「ニック男爵令嬢。私たちは今から帰る所なんです。申し訳ありませんが他の方にお願いしてください。――行こう。」

なおも言い寄ろうとした彼女も周りからの注目に気づき、不味いと思ったのか出しかけた手を渋々引っ込めた。

シュナイザーは私の手を取り外に向かって歩き始めた。





帰りの馬車の中――。

「彼女と踊ってあげればよかったのに。」

小さなつぶやきは馬車のがたがたした音に掻き消されたと思っていたが、ちゃんと向かい側に座っているシュナイザーには届いていたようだ。眉間にしわを寄せられてしまった。

「お前はそれでいいのか。」

「何が?他の人とも踊っているんだから彼女と踊っても変わらないわ。それに帰るなら私1人でも良かったじゃない。」


痛いほどの沈黙が流れ、気まずさから窓の外を眺める。会場から離れるごとに町の灯りは少なくなって、緑――今は夜だから分かりにくいが――が増えてきた。


回帰前の彼と違い、戸惑いもあるが、あの2回の前世から結局は彼の行きつく先は同じなんだと諦め、家につくまでは彼の方を一度も目を向けることはしなかった――。

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