1.過去の記憶
初の恋愛話。恋愛っぽくなるかはちょっと自信ないですががんばります。
「ぐっっっ。」
急に襲われた頭の痛みに吐き気を催す。頭は割れるように痛く、頭に両手を当ててしゃがみ込んだが、その体勢を維持するのも難しくなり、柔らかな絨毯の上に倒れる。
そこにタイミングがいいのか悪いのか、メイドが部屋に入ってきて床でうずくまっている私を発見する。
何か叫んだり体を揺すられたりしているが、どんどん意識が遠のいていっている私には彼女が何て言っているのか分かることはなかった。
その後熱が跳ね上がり、およそ1週間ベッドの上の住人になっていた。
その1週間、時々意識が浮上したこともあったが、熱の高さから体がとても怠く、起き上がるどころか声を出すことも、それどころか目を開けることも億劫でなかなか出来なかった。一時目が覚めてもぼーっとしている。寝ながらでも誰かが冷たい水で絞ったタオルを額に置いてくれたのは分かるときがあった。
寝込んでいた間、夢を見ていた。起きた今はあれが前世というか、自分の人生が繰り返されていることだとなんとなしに理解できる。ちなみに今が3度目だ。
1度目は婚約者に浮気されていて、その浮気相手である男爵令嬢に私が嫉妬して階段の上から突き落したと、そんなことしてないのにでっち上げられた話に責められて、そんな性悪女と一緒になれないと婚約破棄された。その婚約者に責められている時の男爵令嬢のあの顔。絶対にあいつが嘘を吹き込んだんだ。手首と足に巻かれた包帯も本当に怪我をしているのか怪しいものだ。だって階段の上から落ちて足を怪我しているなら杖くらいつきそうなものの、彼に肩を抱かれているといえど1人で立っているなんて。
そして私のあることないことを広められたせいで実家からも縁を切られ、娼館に落とされてしまった。
身も心もボロボロになった私は娼館特有の病気で命を落とした。
2度目はパーティーで2回ほどダンスをさせてもらった侯爵と体の関係があると嘘の情報を流され、その噂を真に受けた侯爵夫人が侯爵家からの抗議として手紙を送って来た。貴族という狭い世界であっという間に家の事業も上手くいかなくなり、一家で国外に逃亡する羽目になった。
道中、私と婚約破棄をして心から愛していた男爵令嬢と結婚したかったが、許可が下りなかったことに腹を立てたことから嘘の噂を流したと言う婚約者が、侯爵家から責められ、報復を恐れた父親に縁を切られてしまったと逆恨みで手に持っていた刀で切り殺された。
そして今が3度目の人生。婚約者は1度目、2度目と同じ伯爵子息だった。もう憂鬱になる。今度はどんな悲惨な人生を歩むことになるのかと。
1週間の眠りから覚めても両親が見舞いに来ることはなかった。一応、報告はされているようだが。
今までの人生と違うのはそれまで以上に私に無関心な両親だろうか。会ったところであいさつ程度しか交わさない。兄たちも顔を合わせるとは蔑むような目で見てきた。猫目できつく見える私に可愛らしさがないと、女のくせに、と何かあれば言われてきた。
それぞれの人生、少々関係性が違うようだが、毎回同じ婚約者。彼は今世でどう動くのだろうか。
目が覚めてゆっくりと自分の部屋で食事をとり、今の状況を考える。
私の父方の祖父と婚約者の祖父同士がとても仲が良く、いずれ自分の子供たちを結婚させようとしたらしい。――なんとも女性らしい考えをなさる・・・。
しかし生まれたのは互いに男児。結果、その約束は孫の代で成された。とてつもない執念だ。
3歳になった年に目通しし、半ば強制的に婚約者にさせられた。
だから彼――伯爵子息シュナイザー・ゴードレンと私、子爵令嬢マリアーナ・オルトランは成長した今もお互い反りが合わなかった。
ただ義務的に月に1度のお茶会で会っているだけ。それも親からそう言われているから。
普段は学校があるから遠目に姿を見ることはあるが、クラスが違うせいかすれ違いだった。寮だって男子寮と女子寮と別れているから、会うことはない。
本当、あの最低限のお茶会がなければ婚約者であることすら忘れそうだ。
今後どう動けば死を逃れられるか考えていたが、答えが見つからぬまま翌朝を迎えた。
「お嬢様、ゴードレン伯爵子息様が来られておりますがお会いになりますか?」
普段ならお茶会以外で来ることがない婚約者が来るとはどういうことだろうか?
メイドたちは病み上がりの私に気を使い聞いてくれたのだろうが、爵位の上の者に対して拒否できるはずもなく。身なりを整えてもらい、婚約者が待つ客間へと向かった。
「高熱で寝込んでいたと聞いたがしぶとく生きているじゃないか。」
「残念でしたね。嫌いな私が死んでいなくて。」
部屋に入り彼の向かい側のソファに座った時の第1声がなんとも酷い言葉だった。さすがの私でも傷つく。思わず憎まれ口で返してしまったがまあ、後悔はしていない。する必要もないくらいだ。
短く刈り込んだ金髪は光を反射して輝き、碧眼はツァボライトのようで見ると吸い込まれるような気がする。細い目は常に少しつり上がっており、初めて見るという人は怖いと思うかもしれないがその凛々しい顔立ちとスラリとした体形に背も高いとだけあって人気があった。伯爵家の三男坊だが、これが長男であればきっともっと声がかけられていただろうと思う。
見た目はそうやって整っているが口を開けばあの通り。口も悪ければ性格も悪い。みんな騙されているということに気づいていないのか。気づかないふりをしているのかは分からないが、普段他の女性に接する態度を見る分には紳士的だと思う。
「婚約者殿が倒れたというから見舞いに来ただけだ。すぐに帰る。」
その言葉通り、二言三言喋ったらさっさと立ち上がった。
ピンクベースに白や赤で束にまとめられたアネモネを押し付けるようにして渡され、落とさない様に慌てて受け取り顔を上げたときにはすでに彼は扉の前まで歩いて行っていた。
部屋を出る前にチラリとこちらを見たが黙って出て行ってしまった。言いたいことがあるならはっきり言えばいいのにと無性にイライラして口をへの字に曲げたが、すぐにあんな奴のために腹を立てるだけ損だと思いなおしてまた自室へ戻って行った。




