第八話 「方針決定」
闘覇がこの異空間に来てから三年が経過した。神器については一旦保留とし、地力の強化に勤しんでいた。
魔術訓練場では魔術の開発に勤しんでおり、使える魔術の種類は格段に増えた。戦闘訓練場では神器無しでもレベル50の相手と互角以上に渡り合えるようになっており、環境適応訓練場では砂漠や流砂の地帯で躓いてしまうが、時にはそれらを超えて海の領域にまで行けるようになることもあった。
海の領域では大きな蛇や鮫などの生物が水面から襲いかかってくるものであった。闘覇はそこを魔術で水面を渡りながら駆け抜けていこうとしていた。水中を泳いでいくことも何度か試したが、水中では思った以上に身動きが取れず、また敵のテリトリーということもあって、すぐに攻撃をくらい、スタート地点に戻されてしまったので断念した。
着実に成長しているのは間違いないが闘覇からすればまだ足りないといったものであった。
神器についてもアイデアは浮かんでくるものの、いざ実践してみるとリソースの関係から望む水準の性能を発揮できているとはいえないものであった。
そうして、順調に成長しつつも何処か物足りなさを覚えているそんなときであった。
闘覇は書庫にいた。夕食を食べ終えたので食休みを兼ねて本を読むためである。闘覇は小説を読むのが趣味であり特に冒険小説が好きなので冒険小説を読むことにした。これは主人公が様々な苦難に直面しながらそれを解決していく、よくある物語であった。変わったところがあるとすれば主人公の使う武器が糸であることだろう。
(糸か、まぁ糸使いは強キャラっていうのは相場が決まってるからな。主人公が使うのは珍しい気もするけど、糸の神器も作ったよなそういえば)
闘覇は小説を読みながら神器の事を考えていた。小説を読むのは息抜きの意味合いもあるが、同時に神器の能力のアイデアを閃く一助になるかもしれないと考えたからでもあった。
(糸の神器は結構良かったんだよな。一応全部の条件を満たしてはいたんだよな。遠距離に対応出来たし、魔術強化の能力も積めたし、自分の体の延長として扱う事で他者に干渉することもできたし。その延長で限定的にだけど切り離しても魔力が霧散しないようにも出来た。ただ攻撃には使えたけど防御面が微妙なのがな。それさえどうにか出来れば良いんだけどな)
神器の事を頭の片隅で考えながら闘覇は小説を読み進める。場面は変わり、主人公と敵のバトルシーンに移っていた。
その場面では主人公の手元に武器である糸がない状態から戦いが始まっていた。武器がないため苦戦を強いられ、危機に陥ってしまう主人公だったが、その危機をヒロインから貰ったあみぐるみのお守りを解いて糸に変化させ、即席の武器として扱うことで乗り切り、主人公は敵を倒すことに成功した。
そんな場面を見て闘覇は
(………これだ!!)
何かを思いついたようであった。
闘覇は善は急げとばかりに書庫を出ると、リビングまで駆け足で降りて行き、タブレットを起動してシロと連絡をとった。
『服の神器を作って欲しい?』
「はい。良いアイデアが思いついたので作っていただければと」
『そっか、わかったよ。それでどんな能力を積むのかな」
「ああ、それはですね………」
その後、闘覇はシロと連日話し合い、実際に何度か神器を作ってもらい、テストを重ねながら、付与する能力やリソースの割り振りなどに関して話しを詰めていった。
そこには二つの影があった。一つは小柄な男の子であった。闘覇である。もう一つは四本の腕を持ち背中に天使のような翼を一対生やしている異形の存在であった。
その二人は目で追うのが困難な速度で辺り一面を縦横無尽に駆け巡っている。宙には異形の存在が放った数多の魔術が舞い踊り、凄まじい破壊を撒き散らしていた。
戦闘訓練場で闘覇はレベル70の仮想敵と戦闘を行っていた。レベル70はあちら側の世界においては大国の軍隊に精鋭として入れる強さを持っており、今までの闘覇では勝つのは不可能と言える敵であった。
だが、闘覇はそんな敵と今、互角以上の戦いを繰り広げていた。
「ギギガ、ルルルルル」
仮想敵が甲高い声を放ちながら、複数の上級魔術を展開して攻撃を行う。威力、速度、共に強力であり、並の存在ではこの攻撃だけで何度も殺されてしまうのではないかと思えるほどであった。
しかし闘覇はこれを真正面から迎撃しようとする。普通であれば無謀と思われても仕方のない行動であったが、
「戦星変奏・真撃のレグルス」
闘覇は戦星変奏を持って対抗していく。戦星変奏は闘覇が神器に合わせて使用するべく開発した規格外魔術であった。
闘覇の戦星変奏により糸の強度が上がっていき、更には糸に超常的な特性が付与されていく。真撃のレグルスは対魔術ように開発されたものであり、人に当てればその人が持つ魔力が外に流れ出し、魔術に当てれば込められた魔力が霧散して魔術が消滅する。
そして、闘覇が放った糸が襲い掛かる全ての魔術を正面から叩き潰した。今の闘覇は、ただでさえ強力であった魔術を神器で更に強化しており、上位魔術であっても容易く迎撃できるようになっていた。
「ギルルルル」
しかし敵もこの程度では、魔術を迎撃した時に視界が遮られた隙をついて闘覇に接近し、持っていた槍で攻撃を放つが
「戦星変奏・守典のアセルス」
闘覇が新しい戦星変奏を唱えると身に纏っていた黒いレインコートに新たな特性が付与される、それは外部からのあらゆる衝撃の遮断。その特性により、仮想敵はダメージを与える事が出来なかった。
「ギキャ!」
攻撃が効かなかったことにより、戦局を立て直すために一旦距離をとる。しかし、今の闘覇には距離を取ったとしても無意味であった。
「戦星変奏・斬煌のベテルギウス」
闘覇の放った一撃により、仮想敵はバラバラに切断されて光の粒となって消えさった。
『どうだった。神器の方は?」
「はい。良かったです。バランス的にもこれが一番良いと思います」
戦闘訓練場で訓練を終えた闘覇はシロと話しをしながら神器の具合について話し合っていた。
闘覇が作ってもらったのは分厚い黒のロングコートの形をした神器であった。
付与されている能力は基本能力を除けば3つ。
一つ目の能力は形状変化。この神器は基本的にはコートの形をしているが、この能力により、闘覇が望めば、解けて長い糸となり好きな形に再構成ができる。
二つ目の能力は魔術強化。これはシンプルに闘覇が使う魔術を強化する能力である。強化できるのは闘覇が使う魔術だけであるが、その分、強化率が高い。
最後の能力は遠隔魔術媒体。この能力により、神器を闘覇の体の一部として扱うことが可能であり、これにより、この神器が闘覇から離れても魔力が霧散せずに魔術が発動され続ける。
これが闘覇がたどり着いた神器であった。
『能力に対するリソース配分の調整も終わったし、これでひとまずは完成ということかな?』
「そうですね。もしかしたら新しいアイデアが浮かぶかもしれませんが、今のところはこのままで行きたいと思います」
『わかった。異世界に行くまでは変更が効くから、変えたくなったらいくらでも言ってね』
「わかりました。ありがとうございます」
闘覇はそういうとシロとの通信を切った。
(さて、何をしようか。とりあえずは魔術のバリュエーションを増やさなきゃな)
闘覇はしばしの間、考え込むと使う魔術の種類を増やすために魔術訓練場に向かっていった。
———そして月日は流れて———
闘覇が異世界にいく日がやってくる。
明日には主人公が異世界に行きます。
更に明日は二話更新をしたいと思います